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本編
第106話 人生を誤ったと悔いるには早く
沸き立つ独立のお祝いは、すでに5日目を迎えた。祭りと呼ぶにはあまりに熱狂的で、途中から周辺国の使者や住民が混じって騒ぎは大きくなる一方だ。民は目いっぱい着飾って、出店を回ったり街中で踊り始める。城門を警備する見張りの兵を残し、交代での休暇が与えられた。
騎士や兵士は未婚の者も多く、この機会に知り合おうと身なりを整えて出かけていく。そんな同僚を見送るブルーノは、溜め息を吐いた。彼にも他の兵と同様に交代で休暇が与えられている。街で女性を見繕う時間は十分にあった。しかし聖女エルザの件で失敗した彼は、そんな気になれない。
夜になれば、砦の食堂は街で出会った女性の話でもちきりだった。パン屋の看板娘は気が強くて胸が大きいだの、馬の旗印の宿屋にはあと2年もしたら引く手あまたの美少女がいるだの。自ら街に繰り出さなくても困らないくらい、未婚女性の情報が溢れていた。
建国の宣言と同時に、王妹であるアゼリア姫の婚約が発表される。魔王との婚約は以前から話がでていたが、正式な発表がなかった。祝い事同士を重ねた状態で、街の住人達はさらに熱狂する。周辺の集落や村も総出で祝いに駆け付けた。
クリスタ国を建国する前から、ヘーファーマイアー公爵家と住民達とのつながりは強い。領地替えをして、新たな土地を一緒に開拓した領主と民の一体感は、他の領地では見られなかった。自ら畑を耕した領主も珍しい。尊敬を集めるのも当然だった。
荒れた大地を整え、街を作り、民に教育を施す。口にすれば簡単だが、ヘーファーマイアー公爵家は己の私財を投げうって民を育てた。そんな貴族がいるだろうか。
ユーグレース国は人間側で最大規模の国家だった。その大きな国に犇めいた貴族は、今や大きく分断されている。アルブレヒト辺境伯を始めとする大半の貴族はクリスタ国についた。救国の英雄であるヘルマン男爵などがこちらに味方したことで、慌てて合流した貴族も多い。
対してユーグレース国を維持しようとした貴族は、ほとんどが南に固まる。後ろに控える他国との間に挟まれ、贅沢のために食いつぶした民は疲弊していると聞いた。逃げてきた南の民にそんな話を聞いたのは昨日のことだ。
砦と繋がった外壁の上で、街を見下ろしながらブルーノは溜め息をはいた。どこで人生を誤ったのだろう。
父は平民の一兵士から、己の功績ひとつで身を立てた男だった。いつも厳しかったが、傷だらけの手や顔で微笑んで抱き上げてくれたことも数えきれない。愛情を注がれ、高度な教育を受け、苦しい訓練を経て近衛騎士の座を掴んだとき、父は……ひどく残念そうな顔をした。
あの日以来、父ときちんと話せていない気がする。挨拶や季節ごとの会話はしたのに、何も中身のない話ばかりだった。認めてくれない父を遠ざけたのは自分だ。もっと……父の話を聞いていれば、何か違っていたのだろうか。
見下ろした先で、城門番と話をしている男性がいる。初老の後姿に目を見開いた。父だ――間違いない。期待と不安で感情が揺さぶられた。駆け寄りたい気持ちと逃げ出したい本音を押し殺し、食い入るように見つめる。許可を得たのか、砦に入った父の姿に我慢できず走り出した。
騎士や兵士は未婚の者も多く、この機会に知り合おうと身なりを整えて出かけていく。そんな同僚を見送るブルーノは、溜め息を吐いた。彼にも他の兵と同様に交代で休暇が与えられている。街で女性を見繕う時間は十分にあった。しかし聖女エルザの件で失敗した彼は、そんな気になれない。
夜になれば、砦の食堂は街で出会った女性の話でもちきりだった。パン屋の看板娘は気が強くて胸が大きいだの、馬の旗印の宿屋にはあと2年もしたら引く手あまたの美少女がいるだの。自ら街に繰り出さなくても困らないくらい、未婚女性の情報が溢れていた。
建国の宣言と同時に、王妹であるアゼリア姫の婚約が発表される。魔王との婚約は以前から話がでていたが、正式な発表がなかった。祝い事同士を重ねた状態で、街の住人達はさらに熱狂する。周辺の集落や村も総出で祝いに駆け付けた。
クリスタ国を建国する前から、ヘーファーマイアー公爵家と住民達とのつながりは強い。領地替えをして、新たな土地を一緒に開拓した領主と民の一体感は、他の領地では見られなかった。自ら畑を耕した領主も珍しい。尊敬を集めるのも当然だった。
荒れた大地を整え、街を作り、民に教育を施す。口にすれば簡単だが、ヘーファーマイアー公爵家は己の私財を投げうって民を育てた。そんな貴族がいるだろうか。
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対してユーグレース国を維持しようとした貴族は、ほとんどが南に固まる。後ろに控える他国との間に挟まれ、贅沢のために食いつぶした民は疲弊していると聞いた。逃げてきた南の民にそんな話を聞いたのは昨日のことだ。
砦と繋がった外壁の上で、街を見下ろしながらブルーノは溜め息をはいた。どこで人生を誤ったのだろう。
父は平民の一兵士から、己の功績ひとつで身を立てた男だった。いつも厳しかったが、傷だらけの手や顔で微笑んで抱き上げてくれたことも数えきれない。愛情を注がれ、高度な教育を受け、苦しい訓練を経て近衛騎士の座を掴んだとき、父は……ひどく残念そうな顔をした。
あの日以来、父ときちんと話せていない気がする。挨拶や季節ごとの会話はしたのに、何も中身のない話ばかりだった。認めてくれない父を遠ざけたのは自分だ。もっと……父の話を聞いていれば、何か違っていたのだろうか。
見下ろした先で、城門番と話をしている男性がいる。初老の後姿に目を見開いた。父だ――間違いない。期待と不安で感情が揺さぶられた。駆け寄りたい気持ちと逃げ出したい本音を押し殺し、食い入るように見つめる。許可を得たのか、砦に入った父の姿に我慢できず走り出した。
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