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本編
第113話 我が家以上に噛みそうなお名前ですこと
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ピンと立ったヴィルヘルミーナの耳がへたりかけたタイミングで、カサンドラが声をかけた。
「ベルンハルト、早く戻っておいでなさい」
国王にかける言葉として不適切だが、この場にいるのは家族や侍従達。つまり身内だけの場だった。そもそも見合いの席自体も、断った場合に互いの名誉が傷つかないよう非公式の顔合わせなのだ。
我に返った様子のベルンハルトがはにかみ、乗せられた手をそっと引っ張った。促された形で、ヴィルヘルミーナが地上に足を付ける。すでに馬車を包む魔法陣は消えており、青々と茂った芝を踏みしめて屋敷へ向かった。並んで歩く間、ベルンハルトは頭ひとつ低い彼女を見つめる。
ドレスの長い裾が芝生の上では歩きづらいようで、少し跳ねるような歩き方も愛らしい。兎という先入観のせいか、優しく触れないと壊れそうな気がした。甘い笑みを浮かべて彼女の歩調に合わせる兄を遠目に、家族はほっと安堵の息をつく。
「問題なさそうだな」
「惚れてしまったのではなくて?」
アウグストの呟きに、カサンドラが首をかしげる。カサンドラの大伯母のひ孫という、遠いのか近いのかよくわからない血縁関係なので、国同士の繋がりを考えても婚約はほぼ決定だった。
この状況で断る要素が減るのは有難い。さらに息子ベルンハルトが、妻となる獣人女性を好きになってくれたら文句のつけようがなかった。ルベウス国は貴族の義務や権利に対する考え方が厳しいため、公爵令嬢であり王家の遠縁であるヴィルヘルミーナの教育に心配はない。
どこをとっても申し分ないご令嬢だろう。近づく2人の様子をじっくり眺め、アゼリアは口元を手で隠して忍び笑う。
「いかがした?」
「お兄様ったら、ベタ惚れじゃない」
私やお母様に対するエスコートより、もっと慎重だわ。元気な狐より、か弱い兎のイメージが先行しているのだろう。兄の過保護が発揮される姿に、アゼリアは緩む口元を必死で引き締めようとした。
兎ってか弱くないわよ? すごく芯が強くて逃げ足が速いの。気性が荒いのも有名よね。それにストレスには弱いけど、きちんというべき主張はするから……お兄様の方がストレス溜まりそう。兄の性格を冷静に分析しながら、兎の公爵令嬢に目を向けた。
山吹色のドレスの裾を気にしながら、ぴょんぴょんと軽い足取りで歩く彼女の腰は少し引けている。姿勢はいいけれど、やっぱり狐ばかりの場所は怖いのかしら。捕食者ですものね。獣人でも獣の本能が覚える恐怖は感じる。人の理性で押さえているだけだった。
いきなり近づかないで離れた場所から、安心してもらうしかないわ。
「アゼリア、何か緊張しているか?」
表情や腕に込める力の変化に気づいたイヴリースが小声で確かめる。本能的な何かを感じるのは、魔族より獣人の方が敏感だった。それゆえの質問だが、アゼリアは苦笑いして事情を説明する。その間にベルンハルトに連れられてヴィルヘルミーナ嬢が到着した。
「お招きありがとうございます」
「ようこそ。アンヌンツィアータ公爵令嬢ヴィルヘルミーナ様」
笑顔で義娘になるご令嬢の名前を口にしたカサンドラが、狐の耳や尻尾を出したまま受け答える。ここでダメだと思えば早いうちに断ってくれた方がいいだろう。そんな気遣いを察したのか、ヴィルヘルミーナは笑顔で一礼した。
アゼリアは初めて耳にしたヴィルヘルミーナの家名に目を丸くし、思わず呟きが漏れる。
「ヘーファーマイアーと張るくらい、噛みそうなお名前……」
まあ……そんな顔で笑い出したヴィルヘルミーナのお陰で、場は一気に和らいだ。
***********************************
すみません、投稿予約を忘れてました(o´-ω-)o)ペコッ
「ベルンハルト、早く戻っておいでなさい」
国王にかける言葉として不適切だが、この場にいるのは家族や侍従達。つまり身内だけの場だった。そもそも見合いの席自体も、断った場合に互いの名誉が傷つかないよう非公式の顔合わせなのだ。
我に返った様子のベルンハルトがはにかみ、乗せられた手をそっと引っ張った。促された形で、ヴィルヘルミーナが地上に足を付ける。すでに馬車を包む魔法陣は消えており、青々と茂った芝を踏みしめて屋敷へ向かった。並んで歩く間、ベルンハルトは頭ひとつ低い彼女を見つめる。
ドレスの長い裾が芝生の上では歩きづらいようで、少し跳ねるような歩き方も愛らしい。兎という先入観のせいか、優しく触れないと壊れそうな気がした。甘い笑みを浮かべて彼女の歩調に合わせる兄を遠目に、家族はほっと安堵の息をつく。
「問題なさそうだな」
「惚れてしまったのではなくて?」
アウグストの呟きに、カサンドラが首をかしげる。カサンドラの大伯母のひ孫という、遠いのか近いのかよくわからない血縁関係なので、国同士の繋がりを考えても婚約はほぼ決定だった。
この状況で断る要素が減るのは有難い。さらに息子ベルンハルトが、妻となる獣人女性を好きになってくれたら文句のつけようがなかった。ルベウス国は貴族の義務や権利に対する考え方が厳しいため、公爵令嬢であり王家の遠縁であるヴィルヘルミーナの教育に心配はない。
どこをとっても申し分ないご令嬢だろう。近づく2人の様子をじっくり眺め、アゼリアは口元を手で隠して忍び笑う。
「いかがした?」
「お兄様ったら、ベタ惚れじゃない」
私やお母様に対するエスコートより、もっと慎重だわ。元気な狐より、か弱い兎のイメージが先行しているのだろう。兄の過保護が発揮される姿に、アゼリアは緩む口元を必死で引き締めようとした。
兎ってか弱くないわよ? すごく芯が強くて逃げ足が速いの。気性が荒いのも有名よね。それにストレスには弱いけど、きちんというべき主張はするから……お兄様の方がストレス溜まりそう。兄の性格を冷静に分析しながら、兎の公爵令嬢に目を向けた。
山吹色のドレスの裾を気にしながら、ぴょんぴょんと軽い足取りで歩く彼女の腰は少し引けている。姿勢はいいけれど、やっぱり狐ばかりの場所は怖いのかしら。捕食者ですものね。獣人でも獣の本能が覚える恐怖は感じる。人の理性で押さえているだけだった。
いきなり近づかないで離れた場所から、安心してもらうしかないわ。
「アゼリア、何か緊張しているか?」
表情や腕に込める力の変化に気づいたイヴリースが小声で確かめる。本能的な何かを感じるのは、魔族より獣人の方が敏感だった。それゆえの質問だが、アゼリアは苦笑いして事情を説明する。その間にベルンハルトに連れられてヴィルヘルミーナ嬢が到着した。
「お招きありがとうございます」
「ようこそ。アンヌンツィアータ公爵令嬢ヴィルヘルミーナ様」
笑顔で義娘になるご令嬢の名前を口にしたカサンドラが、狐の耳や尻尾を出したまま受け答える。ここでダメだと思えば早いうちに断ってくれた方がいいだろう。そんな気遣いを察したのか、ヴィルヘルミーナは笑顔で一礼した。
アゼリアは初めて耳にしたヴィルヘルミーナの家名に目を丸くし、思わず呟きが漏れる。
「ヘーファーマイアーと張るくらい、噛みそうなお名前……」
まあ……そんな顔で笑い出したヴィルヘルミーナのお陰で、場は一気に和らいだ。
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