【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
130 / 238
本編

第127話 開戦の合図はまだか

 転移した先には、膝をついて待つ魔王軍の精鋭がいた。戦に出る時は、階級章のついた制服を身につける。部隊により色が異なる魔王軍だが、将官の制服はすべて紺色に統一されていた。

 肩や袖に金色の飾りが揺れる。房や刺繍をふんだんに施された制服は、裏に様々な魔法陣を刻んだ一級品だった。式典用衣装のような華やかさと裏腹に、実用性も兼ね備えた制服は個人に合わせてデザインされる。

「メフィストはどうした?」

「牢内の掃除に手間取ったそうで、今回は不参加とお伺いしております」

 バールが伏せた頭を上げて答える。高い位置で結んだ金髪が揺れた。目元に特殊な模様を描いた化粧が目を引く。他のゴエティアも己に与えられた紋章を加工して、頬や腕に化粧として描いていた。魔王軍の正装としての形式だ。

「掃除か、まあ空にしなければよい」

 やり過ぎて全部処分するような事態でなければ構わない。影武者を担当するダンダリオンは城に残ったが、マルバスやヴァサゴ、ブエル、アモン……ヒュドラ退治で活躍した者が多かった。

「開放は第二形態までだ」

「「はっ」」

 承知したと告げる彼と彼女らにひらりと手を振って解散を命じた。13名に及ぶ魔王軍の精鋭達は、打ち合わせもなく散る。

「では参ろうか。義父殿、中央を開けてある」

 一番の特等席は我らの戦場だ。小賢しい敵を正面から撃破してやろうではないか。そう告げる魔王イヴリースは、背に蝙蝠の羽を広げた。飛ぶための羽は不要だ。これは魔王軍が出向いたことを知らしめるための、旗印だった。

 クリスタ国に手を出せば、魔王軍が動く――人間への警告を兼ねた羽をばさりと揺らし、イヴリースは森をひらいた街道の中央に立った。隣に立つアウグストが、背負った剣を鞘ごと外す。身長に対して大き過ぎる剣の鞘を地に突き立て、顎の高さまで届く柄に手を置いた。

「それが竜殺しの剣か」

「ふん、一度打ち合ってやろうか」

「構わぬが、折れても泣くでないぞ」

 有名な剣を間に挟み、2人の視線は前方に展開した敵に固定される。軽口を叩きながら、アウグストの口角が持ち上がった。

「開戦の合図はまだか?」

 気が昂って仕方ない。そんなアウグストの挑発を知ってか、矢が大量に射掛けられた。遠距離の敵に対して正しい対応だ。それが人間の軍が相手ならば、被害をもたらしただろう。

「舐められたものよ」

 イヴリースが魔法陣を操る間に、アウグストが手をついた柄をぐっと握り込む。ぱちんと仕掛けが作動して鞘が両側に落ちた。特殊な鞘は、大き過ぎる刃を抜く手間を省く。ルベウス国の職人自慢の特別製の鞘だった。

「ほう?」

 感心する響きを滲ませたイヴリースをよそに、露わになった刃を翳したアウグストが魔力を流す。ぼんやりと光る剣は重さを忘れたように、アウグストの腕の振りに従って矢を叩き落とした。自らの上に降り注ぐ矢のみを燃やす魔王をよそに、アウグストは手の届く範囲の矢を叩き落とす。

「先手は譲った。次はこちらの番だ」

 好戦的なアウグストの視線の先、敵の騎馬隊は土埃を舞い上げて迫っていた。
感想 109

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

聖女になりたいのでしたら、どうぞどうぞ

しゃーりん
恋愛
聖女が代替わりするとき、魔力の多い年頃の令嬢十人の中から一人選ばれる。 選ばれる基準は定かではなく、伝聞もない。 ひと月の間、毎日のように聖堂に通い、祈りを捧げたり、奉仕活動をしたり。 十人の中の一人に選ばれたラヴェンナは聖女になりたくなかった。 不真面目に見えるラヴェンナに腹を立てる聖女候補がいたり、聖女にならなければ婚約解消だと言われる聖女候補がいたり。 「聖女になりたいならどうぞ?」と言いたいけれど聖女を決めるのは聖女様。 そしていよいよ次期聖女が決まったが、ラヴェンナは自分ではなくてホッとする。 ラヴェンナは聖堂を去る前に、聖女様からこの国に聖女が誕生した秘話を聞かされるというお話です。

ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!

沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。 それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。 失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。 アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。 帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。 そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。 再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。 なんと、皇子は三つ子だった! アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。 しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。 アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。 一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。