【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
144 / 238
本編

第141話 誤解も勘違いも大盤振る舞い

しおりを挟む
 蟻のように甘い餌があると集まってくる。敵を排除するために必要な撒き餌だった。

 王弟クリストフ、ベリル国の重鎮であり旗頭である将軍を討ち取れば、勝利は目前だ。敵がそう考えるのは、向こうの自由だった。

「では、討って出るか」

 今回のベリル国の総大将は別にいる。城に残った国王ではなく、囮になった王弟でもなかった。まだ幼いと表現できる少年は、兄の促しに頷く。

「将軍、よろしくお願いします」

「承知。今日の総大将は閣下です。配下の将軍に敬語を使ってはなりません」

 同じ王弟であっても、作戦を立てた総大将は末っ子王子だ。たまには現場で剣を振るわねば錆びる。ぼやいたクリストフは、束役と囮を買って出た。

 ここでクリストフが南西の敵に相対して戦い、後ろに迫る南東の敵に気付かないフリをしたら? 敵はどう踊るのか。メフィストですら感心する策を、末っ子は着々と整えた。

「……なんだかお兄様みたいな作戦ね」

「メフィスト、本当に絡んでないのか? えげつないぞ」

 兄王や己の腹心の関与を疑う魔王と婚約者に、美貌の宰相は釘をさした。

「陛下、姫。ここはベリル国ですよ」

 自国ではないのだから、自重しろ。短くも厳しい一言に、顔を見合わせた2人は口を噤んだ。

 最初に狼煙をあげた南西の敵は鐘を鳴らして盛大に騒いだが、南東から忍び寄る敵は見過ごした。それが罠と知らず、彼らはほくそ笑んでいる頃か。

 人というのは己の策が思い通りに進んでいると感じれば、それ以外の部分への注意力が散漫になる。斥候が別働隊の存在に気づいたとしても、その報告は「あり得ない」と握り潰されるだろう。現場でも、率いる将軍や王族がいても、彼らは己の常識で動く。敵がいれば注意喚起し、攻撃してくると思い込んでいた。

 誘き寄せて砂糖に群がろうとした蟻を踏み潰す未来を、彼らは見落とした。参謀や一部の軍人は気づいて進言したかもしれない。しかし耳を傾ける上層部なら、ベリル国へ攻め込む愚は犯さないのだ。欲で曇った目に真実は映らず、傲慢に溺れる耳に忠告は響かなかった。

「出陣する」

 将軍であることを示すマントを翻し、クリストフがテントを出た。羨ましそうに見送るアゼリアだが、我が侭は飲み込んだ。ここは他国の戦場であり、姫である立場を考えれば返り血を浴びる場に立つことは許されない。

「櫓の高さから見ることは可能だぞ」

 魅力的な妥協案を出したイヴリースに、しかしアゼリアは首を横に振った。見れば戦いたくなる。ちらりと視線を寄越したメフィストに瞬きで頷いた。アゼリアがこの場に留まれば、イヴリースは隣を離れない。それが狙いだった。

 もし魔王がベリル国の戦に出て、圧倒的な火力で敵を潰せば……新たな戦の火種を生む。魔王がいなければ恐るるに足らず、そう広めてしまう。ベリル国の実力を勘違いした国が、疲弊した自国を立て直すために戦を仕掛けるだろう。撥ね除けるは容易だが、何度も戦を起こされるのは本意ではなかった。

 陛下をしっかり見張ってください。目で語るメフィストに、アゼリアはしっかり頷いた。その姿に気づいたイヴリースは眉を寄せて、徐々に機嫌を下降させた。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...