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本編

第148話 策を練り、実行する娯楽

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「さすがは勇猛果敢なユーグレース王国の跡取り」

「王太子殿下の御威光を知らしめましょうぞ」

 適当な煽て文句に踊るヨーゼフはご機嫌だった。あの恐ろしい化け物の巣に囚われ、一時期は死も覚悟したが……今になれば、あの恐ろしい場を堪えられたのも有能な俺のおかげだろう。側近達の笑顔に促され、戦の先陣を切ると言い始めた。

 当然、こちらとしては断る要因がない。問題は兵士だった。貴重な自国の兵力をこの阿呆に預けるのは気が引ける。だが有志を募ったとて集まらないのは目に見えていた。そこで高みの見物を決め込んだ4つの国に、ヨーゼフの名で兵力の要請書類を出す。

 残りの国々は賛同したぞ。そう書くことで、利権にあぶれまいと各国は兵を貸し出した。その「残りの国々」という表現が曖昧なことが、侯爵の策略なのだ。渋々だが自国の兵を多少出すことにより、曖昧な言い回しが現実味を増す。焦った他国の王族や将軍の顔を見ながら、侯爵は多少留飲を下げた。

 ベリル国に戦を仕掛けた5か国の中に唯一、女神信仰の国がある。国教の教義と女神のご加護を他国に見せつけようと、魔力による治癒を行える聖女が同行していた。実際に治癒能力を造作もなく使いこなす魔族から見たら、力の弱い魔術師風情に過ぎないが……。

 侯爵が所属するスフェーン国とベリル国の間にあるフローライト国だ。女神フローライトの名を、そのまま国と国教の名に戴いた小国だった。独特な文化があるが、治癒能力に恵まれた子供が生まれる事があり、なぜか女性ばかりだったことから、聖女と呼ばれるようになった。

 長い歴史を持つ魔族の記録を見ることができれば、その成り立ちがよくわかる。治癒に関する魔法が使える子どもが生まれるのは、フローライト国の地下に巨大なドラゴンが眠っているためだ。3代ほど前の魔王が封じた好敵手だった。

 ドラゴンが雌だったこともあり、生命を宿す女児に治癒能力が顕現し続ける。男では魔力を宿す子宮がないのだ。単純にそこまで解明された事実を、メフィストが知らないはずはない。そしてこの話を聞いたヨーゼフが自国の「聖女」制度を勘違いし、アゼリア姫に恥をかかせた事実も。

 ならば彼にも相応の恥をかいて死んでもらいましょう。魔族の手を汚すことなく、欲に塗れた脂肪の塊を処分する方法に策を練るのは、メフィストにとって娯楽だった。

 他国の聖女の話を聞いて勘違いし、自国で見つけたエルザを聖女として祭り上げた。それが勘違いだと知った後、彼が他国の聖女を見てどう判断するか。

「楽しみですね」

「被害者が出ないことを祈ります」

 メフィストの言葉の意味を、これから起きる戦場の結果だと思ったオスカーが静かに答えた。この答えは的外れだが、ベリル国の王弟に明かす必要はない。獣国の精鋭が牙を立て爪を研ぐ戦場へ、誘導するベリル国の兵士や騎士によって5カ国の兵士は追い込まれる。それに対する返答に頷き、メフィストは穏やかに口を開いた。

「ご安心ください。負けることはありませんよ」
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