194 / 238
本編
第191話 謝罪から始まる悪だくみ
しおりを挟む
ベリル国は滅亡の危機に瀕していた。と表現すると大げさだろうか。だが、少なくとも王族の心境はそれに尽きた。
「利用し利用される。各国の王族や貴族の在り方として間違っていませんよ。ええ、間違ってはいませんでしたね」
間違ってないが不愉快だ。後半部分を省いたメフィストは、満面の笑みだった。山羊の角とコウモリの羽を見せつけるようにして、テーブルに身を乗り出す。灰色の髪を後ろで結び、眼鏡をはずしていた。魔族に多い暗赤の瞳を強調しつつ、圧力をかける。
「……申し訳ありません。兄がご迷惑をおかけしました」
潔く頭を下げたのは末弟のオスカーだった。仮にも他国の宰相に、国王本人が頭を下げるのは難しい。代理であるが、王族という肩書を持つオスカーが謝罪することで矛先を納めてもらうのが目的だった。
「悪いという認識はお持ちだったのですか」
悪気なく行ったと言われたら、うっかり手が滑って国を滅ぼしたかもしれません。そう続けたメフィストの言葉は脅しではなく、実際に彼一人で王都を焼き払うくらいの実力があった。ゴエティアの悪魔達が持つ能力を見れば、それは推して知るべし。疑う余地はない。
「国王を引き継いですぐに生まれた子で、乳母に任せきりにしてしまった。王妃も外交があったため手がかけられず、気づいたらあの有様だったのだ」
ベリル国王は、言い訳がましいと思いながらも事情を説明する。王弟クリストフも話を付け加えた。
「近隣の小国へ嫁がせる予定だったが、あの性格だ。格下の国は嫌だと騒いでしまい、見合いを台無しにしてしまった。近隣で彼女を引き取ってくれる国はもうない」
「その点に関しては同意と、多少の申し訳なさを感じますね」
メフィストは溜め息を吐いて、乗り出した上半身を立てて姿勢を正す。
近隣の国々が一斉に蜂起したため、めぼしい嫁ぎ先がなくなったのは不幸な出来事だった。大国の第一王女ならば通常は引く手数多のはずが、他国の王族から「引き取れない」と断られる。この状況を招いた原因は王女自身だとしても。
魔族や獣人達が手を結び、ユーグレース国からへーファーマイアー公爵家が独立しなければ……少なくとも押し付ける小国は残っていたのだから。魔国の宰相として憐憫の情は禁じ得ない。その対象は王女ではなく、国王を含む他の王族へ向けられた。
「どう処理なさるおつもりですか?」
「それが……もう修道院に入れようかと」
言いかけて飲み込んだ部分に「我が侭を振りかざすので」という意味が滲む。クリスタ国のベルンハルト国王に嫁ぐと言い出したことは、さすがに口に出来なかった。だがメフィストはその濁し方で察してしまった。
なぜなら、残る未婚のめぼしい王族は他にいないのだから。ルベウス国は王太子も結婚し子供を授かっている以上、王妃の交代はありえない。第二王子以下はアクアマリン王女が拒んだ。
魔王は世襲制ではなく、家族を皆殺しにして即位するため王弟は存在しない。兄も先日死んだばかりである。イヴリースのアゼリアに対する溺愛ぶりを見れば、割り込む隙がないことは理解しただろう。ましてや手ひどく王女を振った、メフィストが宰相を務める国は対象外になる。
残るのは同じ人間が治める国家であるクリスタだ。未婚の男性王族は国王ベルンハルトのみ。婚約したばかりならば、まだ間に合う。ねじ込んで欲しい。アクアマリンの自尊心を満たす相手は他にいなかった。
「ベルンハルト殿は我が主君の義弟になるお方です。迷惑をかける前に、処理させていただきましょうか」
「利用し利用される。各国の王族や貴族の在り方として間違っていませんよ。ええ、間違ってはいませんでしたね」
間違ってないが不愉快だ。後半部分を省いたメフィストは、満面の笑みだった。山羊の角とコウモリの羽を見せつけるようにして、テーブルに身を乗り出す。灰色の髪を後ろで結び、眼鏡をはずしていた。魔族に多い暗赤の瞳を強調しつつ、圧力をかける。
「……申し訳ありません。兄がご迷惑をおかけしました」
潔く頭を下げたのは末弟のオスカーだった。仮にも他国の宰相に、国王本人が頭を下げるのは難しい。代理であるが、王族という肩書を持つオスカーが謝罪することで矛先を納めてもらうのが目的だった。
「悪いという認識はお持ちだったのですか」
悪気なく行ったと言われたら、うっかり手が滑って国を滅ぼしたかもしれません。そう続けたメフィストの言葉は脅しではなく、実際に彼一人で王都を焼き払うくらいの実力があった。ゴエティアの悪魔達が持つ能力を見れば、それは推して知るべし。疑う余地はない。
「国王を引き継いですぐに生まれた子で、乳母に任せきりにしてしまった。王妃も外交があったため手がかけられず、気づいたらあの有様だったのだ」
ベリル国王は、言い訳がましいと思いながらも事情を説明する。王弟クリストフも話を付け加えた。
「近隣の小国へ嫁がせる予定だったが、あの性格だ。格下の国は嫌だと騒いでしまい、見合いを台無しにしてしまった。近隣で彼女を引き取ってくれる国はもうない」
「その点に関しては同意と、多少の申し訳なさを感じますね」
メフィストは溜め息を吐いて、乗り出した上半身を立てて姿勢を正す。
近隣の国々が一斉に蜂起したため、めぼしい嫁ぎ先がなくなったのは不幸な出来事だった。大国の第一王女ならば通常は引く手数多のはずが、他国の王族から「引き取れない」と断られる。この状況を招いた原因は王女自身だとしても。
魔族や獣人達が手を結び、ユーグレース国からへーファーマイアー公爵家が独立しなければ……少なくとも押し付ける小国は残っていたのだから。魔国の宰相として憐憫の情は禁じ得ない。その対象は王女ではなく、国王を含む他の王族へ向けられた。
「どう処理なさるおつもりですか?」
「それが……もう修道院に入れようかと」
言いかけて飲み込んだ部分に「我が侭を振りかざすので」という意味が滲む。クリスタ国のベルンハルト国王に嫁ぐと言い出したことは、さすがに口に出来なかった。だがメフィストはその濁し方で察してしまった。
なぜなら、残る未婚のめぼしい王族は他にいないのだから。ルベウス国は王太子も結婚し子供を授かっている以上、王妃の交代はありえない。第二王子以下はアクアマリン王女が拒んだ。
魔王は世襲制ではなく、家族を皆殺しにして即位するため王弟は存在しない。兄も先日死んだばかりである。イヴリースのアゼリアに対する溺愛ぶりを見れば、割り込む隙がないことは理解しただろう。ましてや手ひどく王女を振った、メフィストが宰相を務める国は対象外になる。
残るのは同じ人間が治める国家であるクリスタだ。未婚の男性王族は国王ベルンハルトのみ。婚約したばかりならば、まだ間に合う。ねじ込んで欲しい。アクアマリンの自尊心を満たす相手は他にいなかった。
「ベルンハルト殿は我が主君の義弟になるお方です。迷惑をかける前に、処理させていただきましょうか」
2
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて
奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】
※ヒロインがアンハッピーエンドです。
痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。
爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。
執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。
だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。
ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。
広場を埋め尽くす、人。
ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。
この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。
そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。
わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。
国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。
今日は、二人の婚姻の日だったはず。
婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。
王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。
『ごめんなさい』
歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。
無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど
紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。
慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。
なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。
氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。
そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。
「……俺にかけた魅了魔法を解け」
私、そんな魔法かけてないんですけど!?
穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。
まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。
人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い”
異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。
※タイトルのシーンは7話辺りからになります。
ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。
※カクヨム様にも投稿しています。
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます
あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。
腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。
お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。
うんうんと頭を悩ませた結果、
この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。
聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。
だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。
早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
―――――――――――――――――――――――――
※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。
※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。
※基本21時更新(50話完結)
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる