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本編
第220話 キャットファイト
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お茶会は、美しく着飾った魔族の貴族令嬢が集まり、厳かに始まった。そして現在に至る。
「あんた、生意気なのよっ! えいっ!!」
「魔王様が好きだったのにぃ!!」
高価な茶器が割れる。花瓶が空を舞い、蹴りを受けた猫足の家具が砕け散った。
「残念だけど、私の旦那様よっ! このっ」
アンネが放った炎の魔法を、愛用の剣で切り裂く。直後に魔王への告白を大声で叫んだシャリーヌの衝撃波を、氷の壁で打ち消した。甲高い音を立てて崩れる氷の壁に、もう一度魔力を込めて放つ。
アゼリアの氷の針攻撃に、彼女達は慌てて結界を張った。防ぎきれず、一部が通り抜ける。髪やドレスを裂いた傷に気を取られた瞬間、剣先は彼女達の目前だった。
「私の勝ちね」
アゼリアの勝ち名乗りに、2人は噛み付いた。
「まだよっ」
「私だって!」
ぽかんとした顔で見守る他のご令嬢をよそに、3人は攻守入れ替えながらの戦いを繰り広げた。疲れて肩で息をし始めた頃、アゼリアが机の上に置いた本を開く。
「これも私の力よ。卑怯だって構わないわ。マルバス、アモン」
呼ばれたのはゴエティアの悪魔の名。息を止めて目を見開いたアンネは、あっという間に蛇にねじ伏せられた。木を操って身を守ろうとしたシャリーヌも、マルバスの短剣を喉に突きつけられて固まる。
「勝負ありね」
肩で息をしながら、赤毛の巻き髪を指先でくるんと弄るアゼリアは、にっこり笑った。
「汚いわ、卑怯よ」
アンネの叫び声に、アゼリアは笑顔のまま汗をハンカチで抑える。
「戦うのに全力を尽くすのは当たり前じゃない。もう少し味方がいたら、私を叩きのめす気だったんでしょう? 他のご令嬢が加勢するなら、メフィストかあの人を呼んだわ」
ここでうっかり固有名詞を出すと、窓際でソワソワしている魔王を召喚してしまう。アゼリアは言葉を選んで、危険な状況を避けた。花が散ったお茶会の会場は散々で、アゼリアもドレスの裾や袖がほつれている。取っ組み合ったシャリーヌも似たような状況だった。
魔法中心で組み合わなかったアンネは、悔しそうに歯軋りする。ご令嬢の所作ではないが……逆にアゼリアは好感が持てた。
「ねえ……私ね、本音で喧嘩できる友人が欲しいの。どう? 魔王を手玉に取る悪女の友人を演じてみない?」
馬鹿じゃないの? 冗談じゃないわ。そんな言葉は出てこなかった。着飾った姿が崩れても、化粧が汗で溶けても、アゼリアは目を引く。魔王がなぜ彼女を選んだのか、すとんと理由が胸に落ちた。
魔族は魔力が強く、体力も余っている。貴族ならば尚更、一般の魔族より魔力も体力も優れているのが常識だった。圧倒的な強者である彼女達に、正面切って喧嘩を売る獣人と人間のハーフ――もう勝てないと思った。最強の召喚呪文を持っているくせに、使わずに立ち向かったアゼリアを認める。間違いなく、彼女は魔族の中にあっても強者に分類される人だった。
「いいわよ。寝首かいてやるんだから」
「あら、お昼寝は一緒にしないほうがよさそうね」
カサンドラ譲りの豪胆さで笑い飛ばし、アゼリアは2人に手を差し出す。アンネとシャリーヌはその手を取った。マルバスとアモンが一礼して下がる。
「結婚式の付き添いになってあげてもいいわ」
「ごめん、バールとアモンがやりたいんですって。だから2人に頼みたいのはこれ」
人間の結婚式で流行った、花びらを撒く習慣だ。憧れていたアゼリアの説明を真剣に聞く2人は、そのまま夕食まで話し合って帰った。夕食の際に同席したイヴリースの給餌行為を目にし、入り込む余地はないとアンネが笑い、シャリーヌも肩をすくめたとか。
「あんた、生意気なのよっ! えいっ!!」
「魔王様が好きだったのにぃ!!」
高価な茶器が割れる。花瓶が空を舞い、蹴りを受けた猫足の家具が砕け散った。
「残念だけど、私の旦那様よっ! このっ」
アンネが放った炎の魔法を、愛用の剣で切り裂く。直後に魔王への告白を大声で叫んだシャリーヌの衝撃波を、氷の壁で打ち消した。甲高い音を立てて崩れる氷の壁に、もう一度魔力を込めて放つ。
アゼリアの氷の針攻撃に、彼女達は慌てて結界を張った。防ぎきれず、一部が通り抜ける。髪やドレスを裂いた傷に気を取られた瞬間、剣先は彼女達の目前だった。
「私の勝ちね」
アゼリアの勝ち名乗りに、2人は噛み付いた。
「まだよっ」
「私だって!」
ぽかんとした顔で見守る他のご令嬢をよそに、3人は攻守入れ替えながらの戦いを繰り広げた。疲れて肩で息をし始めた頃、アゼリアが机の上に置いた本を開く。
「これも私の力よ。卑怯だって構わないわ。マルバス、アモン」
呼ばれたのはゴエティアの悪魔の名。息を止めて目を見開いたアンネは、あっという間に蛇にねじ伏せられた。木を操って身を守ろうとしたシャリーヌも、マルバスの短剣を喉に突きつけられて固まる。
「勝負ありね」
肩で息をしながら、赤毛の巻き髪を指先でくるんと弄るアゼリアは、にっこり笑った。
「汚いわ、卑怯よ」
アンネの叫び声に、アゼリアは笑顔のまま汗をハンカチで抑える。
「戦うのに全力を尽くすのは当たり前じゃない。もう少し味方がいたら、私を叩きのめす気だったんでしょう? 他のご令嬢が加勢するなら、メフィストかあの人を呼んだわ」
ここでうっかり固有名詞を出すと、窓際でソワソワしている魔王を召喚してしまう。アゼリアは言葉を選んで、危険な状況を避けた。花が散ったお茶会の会場は散々で、アゼリアもドレスの裾や袖がほつれている。取っ組み合ったシャリーヌも似たような状況だった。
魔法中心で組み合わなかったアンネは、悔しそうに歯軋りする。ご令嬢の所作ではないが……逆にアゼリアは好感が持てた。
「ねえ……私ね、本音で喧嘩できる友人が欲しいの。どう? 魔王を手玉に取る悪女の友人を演じてみない?」
馬鹿じゃないの? 冗談じゃないわ。そんな言葉は出てこなかった。着飾った姿が崩れても、化粧が汗で溶けても、アゼリアは目を引く。魔王がなぜ彼女を選んだのか、すとんと理由が胸に落ちた。
魔族は魔力が強く、体力も余っている。貴族ならば尚更、一般の魔族より魔力も体力も優れているのが常識だった。圧倒的な強者である彼女達に、正面切って喧嘩を売る獣人と人間のハーフ――もう勝てないと思った。最強の召喚呪文を持っているくせに、使わずに立ち向かったアゼリアを認める。間違いなく、彼女は魔族の中にあっても強者に分類される人だった。
「いいわよ。寝首かいてやるんだから」
「あら、お昼寝は一緒にしないほうがよさそうね」
カサンドラ譲りの豪胆さで笑い飛ばし、アゼリアは2人に手を差し出す。アンネとシャリーヌはその手を取った。マルバスとアモンが一礼して下がる。
「結婚式の付き添いになってあげてもいいわ」
「ごめん、バールとアモンがやりたいんですって。だから2人に頼みたいのはこれ」
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