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外伝
第1話 魔王城の迷い猫
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「アゼリア・フォン・ヘーファーマイアー・ウルノフ・レシェートニコフ・サフィロス、今日こそはっ!」
なぜか毎回フルネームを叫んで攻撃してくる女猫を、剣で跳ねのけた。甲高い音がして、彼女自慢の爪が折れて吹き飛ぶ。ある程度手加減したうえで、爪は容赦なく折ることにした。次回の襲撃までの時間が稼げる上、爪自体に痛覚はないのだ。
「お疲れさま、ユーリア。今日はシフォンケーキよ」
アゼリアは愛用の剣を鞘に納めながら、穏やかに微笑む。攻撃される日は事前予告があるため、巻きスカート風のドレスを選んだ。これはカサンドラのアイディアで、立っていると普通のドレスにしか見えないのが便利で多用している。
足を踏み出したときに肌が見えると、夫で番のイヴリースが発狂するため、足首まで覆うのは忘れない。乗馬用のズボンがちょうどいい。準備のために予告してくれるあたり、彼女も気遣っているのだろう。
ケーキという単語に目を輝かせるユーリアは、魔族の少女だ。幼いと表現できる6歳前後の子供姿だが、実年齢は15歳前後だった。発育不良に分類されるだろう。とてとてと走ってくる足元が可愛く、侍女達にも人気がある。主にペット枠なのだが、本人は気づいていない。
猫獣人系の足は、人間から見ると不格好だ。しかし2本脚で立ち上がった猫と思えば、可愛さに拍車がかかる。魔族は山羊や馬の足を持つ者も多いので、さほど目立たないのも手伝い、ユーリアは平然と王宮に出入りしていた。
ふさふさした尻尾が揺れ、椅子にお行儀よく座る。三ツ口ですが、意外と大きく開く口元へケーキを差し出した。もちろん、フォークは使わない。お猫様と呼ばれる彼女は、以前にフォークを噛んで泣いたことがあるのだ。普段は手で食べるらしい。化け猫の一種で、分類は獣人ではなく魔族だった。
「爪は研いでいく?」
「うん。こないだの爪とぎある?」
「もちろんよ」
麻で編んだ茣蓙を巻いた木をいつも用意していた。次の襲撃は2週間後くらいかしらね。アゼリアは自分もシフォンケーキを手で千切って頬張る。この辺のマナーは公式でなければ煩くないのが魔族だ。
魔王妃アゼリアに攻撃を仕掛けるユーリアだが、護衛のゴエティアや魔王イヴリースの反撃はない。というのも、彼女の実力ではアゼリアに傷を負わせるのは無理だからだ。どうやら親がいないらしく、遊んでいる間に魔王城の庭に紛れたらしい。
強いアゼリアに勝とうと必死で爪を立てる姿が「子猫のようだ」と人気のユーリアは、名前すらなかった。完全に孤児が放置されている現状に、アゼリアが魔王妃として改善命令を出したのは先日のこと。孤児院を作り、貴族や民の寄付を募って運営する人間のやり方を導入した。
反発は意外となく、あっさり受け入れられる。子供達は食事と家を与えられたことに満足し、周囲への悪戯や盗みを控えるようになった。気の毒に思いながらも盗みを働く孤児を忌々しく思っていた大人も、落ち着いた子供達の様子を見て食べ物やボランティアで協力をするようになる。
すべてが好循環で回っていた。ユーリアはその孤児を保護する活動の切っ掛けであり、アゼリア自身が見本として手掛けた子供なのだ。残念ながら用心深い野良猫は、与えた部屋を使ってはくれないが。それでも出入りしやすい屋敷の端に、ユーリアの部屋は用意していた。
「いつものお部屋の壁を爪とぎにしたの」
「わかった」
手づかみで2つ目のケーキを頬張りながら、ユーリアはへにゃりと笑う。硬い表情ばかりだった彼女が笑ってくれるようになった。それはアゼリアにとって嬉しい変化だ。
なぜか毎回フルネームを叫んで攻撃してくる女猫を、剣で跳ねのけた。甲高い音がして、彼女自慢の爪が折れて吹き飛ぶ。ある程度手加減したうえで、爪は容赦なく折ることにした。次回の襲撃までの時間が稼げる上、爪自体に痛覚はないのだ。
「お疲れさま、ユーリア。今日はシフォンケーキよ」
アゼリアは愛用の剣を鞘に納めながら、穏やかに微笑む。攻撃される日は事前予告があるため、巻きスカート風のドレスを選んだ。これはカサンドラのアイディアで、立っていると普通のドレスにしか見えないのが便利で多用している。
足を踏み出したときに肌が見えると、夫で番のイヴリースが発狂するため、足首まで覆うのは忘れない。乗馬用のズボンがちょうどいい。準備のために予告してくれるあたり、彼女も気遣っているのだろう。
ケーキという単語に目を輝かせるユーリアは、魔族の少女だ。幼いと表現できる6歳前後の子供姿だが、実年齢は15歳前後だった。発育不良に分類されるだろう。とてとてと走ってくる足元が可愛く、侍女達にも人気がある。主にペット枠なのだが、本人は気づいていない。
猫獣人系の足は、人間から見ると不格好だ。しかし2本脚で立ち上がった猫と思えば、可愛さに拍車がかかる。魔族は山羊や馬の足を持つ者も多いので、さほど目立たないのも手伝い、ユーリアは平然と王宮に出入りしていた。
ふさふさした尻尾が揺れ、椅子にお行儀よく座る。三ツ口ですが、意外と大きく開く口元へケーキを差し出した。もちろん、フォークは使わない。お猫様と呼ばれる彼女は、以前にフォークを噛んで泣いたことがあるのだ。普段は手で食べるらしい。化け猫の一種で、分類は獣人ではなく魔族だった。
「爪は研いでいく?」
「うん。こないだの爪とぎある?」
「もちろんよ」
麻で編んだ茣蓙を巻いた木をいつも用意していた。次の襲撃は2週間後くらいかしらね。アゼリアは自分もシフォンケーキを手で千切って頬張る。この辺のマナーは公式でなければ煩くないのが魔族だ。
魔王妃アゼリアに攻撃を仕掛けるユーリアだが、護衛のゴエティアや魔王イヴリースの反撃はない。というのも、彼女の実力ではアゼリアに傷を負わせるのは無理だからだ。どうやら親がいないらしく、遊んでいる間に魔王城の庭に紛れたらしい。
強いアゼリアに勝とうと必死で爪を立てる姿が「子猫のようだ」と人気のユーリアは、名前すらなかった。完全に孤児が放置されている現状に、アゼリアが魔王妃として改善命令を出したのは先日のこと。孤児院を作り、貴族や民の寄付を募って運営する人間のやり方を導入した。
反発は意外となく、あっさり受け入れられる。子供達は食事と家を与えられたことに満足し、周囲への悪戯や盗みを控えるようになった。気の毒に思いながらも盗みを働く孤児を忌々しく思っていた大人も、落ち着いた子供達の様子を見て食べ物やボランティアで協力をするようになる。
すべてが好循環で回っていた。ユーリアはその孤児を保護する活動の切っ掛けであり、アゼリア自身が見本として手掛けた子供なのだ。残念ながら用心深い野良猫は、与えた部屋を使ってはくれないが。それでも出入りしやすい屋敷の端に、ユーリアの部屋は用意していた。
「いつものお部屋の壁を爪とぎにしたの」
「わかった」
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