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外伝
第5話 新しい世界の象徴
元気な泣き声に、扉を蹴破ろうとしたイヴリース。予測して第三形態で待ち構えていたメフィストが、容赦なく床に叩きつけた。
「くそっ、離せ! メフィスト、殺すぞ」
「そんなことで側近を殺さないでください」
冷静に返すメフィストだが、実際に浴びせられる殺気は冗談ではない。いつ反撃で足を折られるか、腕を千切られるか。拘束する手足に緊張が走った。
どちらの味方をすべきか迷うゴエティアをよそに、メフィストは静かな声で言い聞かせた。
「出産直後の女性には、事後処理があるそうです。医師の許可が出るまで入室は出来ません。わかりますか? 魔王妃殿下のお姿が整わないうちに、騎士や侍従に披露する気ですか」
「……わかった。離せ」
わかったと告げた主君の言葉を信じ、メフィストは突き立てた爪を緩めた。身を起こしてパチンと指を鳴らして着替える。イヴリースの肌に残る傷が、すっと消えていく。扉に張り付きはしたが、廊下でおろおろする侍従達を手を振って追い払った。
少し待つと、アゼリアの声がかかった。
「イヴリース……いいわよ」
途端にぎりぎりの隙間を開けて滑り込む魔王は、自分だけすり抜けると扉を後ろ手に閉めた。苦笑いするメフィストは、この場に残る騎士を女性だけに限定する。手配を間違うと、誰かの首が飛びそうだ。侍従を含め、男性はこの廊下の端から立ち入らないよう、命令を出して制限した。
「宰相閣下、どうぞ」
疲れた顔で医師が出てくる。それでも表情が明るく、母子ともに元気なのは伝わった。一礼して中に入ったメフィストの目に映ったのは、クッションに埋もれるアゼリアにしがみ付く魔王だ。なぜか侍女達が周囲に倒れていた。
「よく、無事で……ありが、とう。アゼリア、ありがとう」
何度も礼を繰り返す魔王の横で、ユーリアが尻尾を揺らして籠を覗いている。時々指を入れて笑い、また手を引っ込めて眺める繰り返しだった。この籠の中が、主君の子で間違いない。近づいて覗いたメフィストは、くらりと目眩を感じて膝を突いた。
「なん、ですか。この魔力」
「立派だろう、さすがはオレとアゼリアの子だ」
得意げな魔王陛下は気にしていないが、イヴリースに匹敵する魔力の持ち主だ。出産に立ち会った医師は、疲れていたのではなく魔力に中てられたらしい。侍女が倒れた原因に思い至り、仕事の放棄かと思った自分を笑った。
まだ魔力の制御ができないため、不規則に放出する赤子は姫だった。これだけの魔力があれば、次期魔女王の可能性がありますね。親子で魔王になった事例はないが、そもそも魔族以外が魔王妃になった過去もなかった。この世代は、あらゆる新しい出来事が政や慣習を変えていくのだろう。
「赤ちゃん、見たいわ」
「ああ」
籠をユーリアがそっと押して近づけると、目が合った赤子が「ぁあ」と声を上げた。小さな紅葉の手を伸ばす我が子を、アゼリアは引き寄せて微笑む。
魔王と同じ黒髪、アゼリアと同じ琥珀の瞳。すっと鼻筋が通った姫は、今の時点では母親似だろうか。幸せそうな家族の図を見守りながら、宰相はこの後の騒動に対応するため場を辞した。
「さて、各王族の部屋を用意しましょうか」
「くそっ、離せ! メフィスト、殺すぞ」
「そんなことで側近を殺さないでください」
冷静に返すメフィストだが、実際に浴びせられる殺気は冗談ではない。いつ反撃で足を折られるか、腕を千切られるか。拘束する手足に緊張が走った。
どちらの味方をすべきか迷うゴエティアをよそに、メフィストは静かな声で言い聞かせた。
「出産直後の女性には、事後処理があるそうです。医師の許可が出るまで入室は出来ません。わかりますか? 魔王妃殿下のお姿が整わないうちに、騎士や侍従に披露する気ですか」
「……わかった。離せ」
わかったと告げた主君の言葉を信じ、メフィストは突き立てた爪を緩めた。身を起こしてパチンと指を鳴らして着替える。イヴリースの肌に残る傷が、すっと消えていく。扉に張り付きはしたが、廊下でおろおろする侍従達を手を振って追い払った。
少し待つと、アゼリアの声がかかった。
「イヴリース……いいわよ」
途端にぎりぎりの隙間を開けて滑り込む魔王は、自分だけすり抜けると扉を後ろ手に閉めた。苦笑いするメフィストは、この場に残る騎士を女性だけに限定する。手配を間違うと、誰かの首が飛びそうだ。侍従を含め、男性はこの廊下の端から立ち入らないよう、命令を出して制限した。
「宰相閣下、どうぞ」
疲れた顔で医師が出てくる。それでも表情が明るく、母子ともに元気なのは伝わった。一礼して中に入ったメフィストの目に映ったのは、クッションに埋もれるアゼリアにしがみ付く魔王だ。なぜか侍女達が周囲に倒れていた。
「よく、無事で……ありが、とう。アゼリア、ありがとう」
何度も礼を繰り返す魔王の横で、ユーリアが尻尾を揺らして籠を覗いている。時々指を入れて笑い、また手を引っ込めて眺める繰り返しだった。この籠の中が、主君の子で間違いない。近づいて覗いたメフィストは、くらりと目眩を感じて膝を突いた。
「なん、ですか。この魔力」
「立派だろう、さすがはオレとアゼリアの子だ」
得意げな魔王陛下は気にしていないが、イヴリースに匹敵する魔力の持ち主だ。出産に立ち会った医師は、疲れていたのではなく魔力に中てられたらしい。侍女が倒れた原因に思い至り、仕事の放棄かと思った自分を笑った。
まだ魔力の制御ができないため、不規則に放出する赤子は姫だった。これだけの魔力があれば、次期魔女王の可能性がありますね。親子で魔王になった事例はないが、そもそも魔族以外が魔王妃になった過去もなかった。この世代は、あらゆる新しい出来事が政や慣習を変えていくのだろう。
「赤ちゃん、見たいわ」
「ああ」
籠をユーリアがそっと押して近づけると、目が合った赤子が「ぁあ」と声を上げた。小さな紅葉の手を伸ばす我が子を、アゼリアは引き寄せて微笑む。
魔王と同じ黒髪、アゼリアと同じ琥珀の瞳。すっと鼻筋が通った姫は、今の時点では母親似だろうか。幸せそうな家族の図を見守りながら、宰相はこの後の騒動に対応するため場を辞した。
「さて、各王族の部屋を用意しましょうか」
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