【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
234 / 238
外伝

第7話 卑怯ではなく作戦です

しおりを挟む
「卑怯、だぞ……アウエンミュラー」

 呻いたのはアルブレヒト侯爵だった。地に伏した彼の斜め前には、やはり戦いに傷ついたヘルマン伯爵ロルフがいる。強者と弱者が剣を合わせる混戦の中、微笑む勝者は宰相アウエンミュラー侯爵だ。それも無傷である。彼自身が強いのではなく、剣を抜かないという究極の戦法が原因だった。

 クリスタ国の貴族は強者が多く、かつての英雄クラスが山ほどいる。その中で財政立て直しの寵児と呼ばれたアウエンミュラー侯爵が残ったのは、何も武器を持たずに立っていたからだ。国を守り切った自負のある武人なら、武器を持たない素手の男に切りかかったりしない。

 ごく当たり前の考え方で、彼を避けて戦った。その結果、本気で激突したアルブレヒト侯爵とヘルマン伯爵が相打ちとなり、ブルーノを含めた各兵士や騎士も次々と倒れる。武器を持たないがゆえに誰も攻撃しなかったアウエンミュラー侯爵だけが残った……という笑い話のような結末だった。

「何を言われようと、私の勝ちです」

 にやりと笑う策略家に、歯ぎしりして悔しがるアルブレヒト侯爵。久しぶりの戦いにぎっくり腰を発症して立てないヘルマン伯爵。父を守ろうと奮闘した息子ブルーノ。全力でかかったが勝てなかった騎士達。様々な人間模様を、ヴィルヘルミーナ王妃は興味深く観察していた。

「護衛も決まったようですし、私達も参りましょうか。ベル」

「そうだね、ミーナ」

 彼らは失念していた。強ければ護衛としてついていけると考えたが、竜殺しの英雄アウグストがすでに向かった。それ以上の護衛が必要だろうか。そもそも赤子の顔を見に行くだけなのだ。後付けで理由を作ったことによる弊害に気づかぬまま、倒れた強者達の夢は風に吹かれて消えた。

「あとは頼んだぞ」

「「はっ」」

 国王ベルンハルトの言葉に、横たわったまま敬礼する。かつてのユーグレース国なら失礼にあたるが、この国でそんな考えはない。にっこり笑ったベルンハルトが妻と腕を組んで踵を返すと、アウエンミュラー侯爵が微笑んだ。

「安心してください。お子様の映像はきっちり保存してきますし、治癒魔法の使い手も手配しますから」

 至れり尽くせりである。戦うことしか頭にない武官が向かうより、よかったのかも知れない。そう自分達を慰めながら、アルブレヒト侯爵は何とか身を起こした。互いに殺し合いにならないよう訓練用の刃がない剣や鞘に納めたままの愛剣を使ったが、被害は甚大である。

 治癒魔法の使える魔族が駆け付けるまでの間、彼らは痛みに呻きながら庭に転がっていた。

「ああ、これは予想よりひどいですね」

 苦笑いした宮廷魔術師は、大きな角が立派なユニコーン系の魔族だ。様々な種族が交流するクリスタ国は、それぞれの特性や技術に会わせて役職を決めていた。現時点で貴族も獣人、魔族、人間が混ざっている上、幼子は混血世代が増え続けている。

 今度生まれたアゼリアと魔王の子は、3種族の象徴となるべき血筋の子供だ。一目お会いしたかった……崩れ落ちた彼らの嘆きをよそに、治癒魔法の光は美しかった。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

私、魅了魔法なんて使ってません! なのに冷徹魔道士様の視線が熱すぎるんですけど

紗幸
恋愛
社畜女子だったユイは、気づけば異世界に召喚されていた。 慣れない魔法の世界と貴族社会の中で右往左往しながらも、なんとか穏やかに暮らし始めたある日。 なぜか王立魔道士団の団長カイルが、やたらと家に顔を出すようになる。 氷のように冷静で、美しく、周囲の誰もが一目置く男。 そんな彼が、ある日突然ユイの前で言い放った。 「……俺にかけた魅了魔法を解け」 私、そんな魔法かけてないんですけど!? 穏やかなはずの日々に彼の存在が、ユイの心を少しずつ波立たせていく。 まったりとした日常の中に、時折起こる小さな事件。 人との絆、魔法の力、そして胸の奥に芽生え始めた“想い” 異世界で、ユイは少しずつ——この世界で生きる力と、誰かを想う心を知っていく。 ※タイトルのシーンは7話辺りからになります。 ゆったりと話が進みますが、よろしければお付き合いください。 ※カクヨム様にも投稿しています。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ
恋愛
私の婚約者は第二王子のクリストファー。 腐れ縁で恋愛感情なんてないのに、両親に勝手に決められたの。 お互い納得できなくて、婚約破棄できる方法を探してた。 うんうんと頭を悩ませた結果、 この世界に稀にやってくる異世界の聖女を呼び出す事だった。 聖女がやってくるのは不定期で、こちらから召喚させた例はない。 だけど私は婚約が決まったあの日から探し続けてようやく見つけた。 早速呼び出してみようと聖堂へいったら、なんと私が異世界へ生まれ変わってしまったのだった。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ――――――――――――――――――――――――― ※以前投稿しておりました[聖女の私と異世界の聖女様]の連載版となります。 ※連載版を投稿するにあたり、アルファポリス様の規約に従い、短編は削除しておりますのでご了承下さい。 ※基本21時更新(50話完結)

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...