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外伝
番外 兎の嫁入り
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人間の国に嫁げと言われた当初、よい感情なんてなかった。ルベウス国へ来る人間は、王家の血を引く公爵令嬢へ不躾な視線を投げかける。魔族の方が幾分かマシね。魔族なら強者に従うもの。辺境の村を守る際に徹底的に潰してやったため、私は強者に分類されたみたい。尊敬と畏怖の眼差しは、人間よりずっといいわ。
自分から馬車を降りることもできず、到着したクリスタ国の魔法陣の上で溜め息をつく。開いた扉の向こうには、金茶の髪の青年がいた。金髪ではなく、茶髪より明るい。不思議な色は秋の森を思い出させて、悪くないわ。動かない私に、彼は優しく声をかけた。
その声に惚れたの。あの日からもう2年、ようやくこの人の妻になれる。両国の架け橋、獣人と人間の繋がり、どうでもいいわ。私はただ惚れた男の妻になるのだから。
「緊張してる?」
「少し」
腰を抱き寄せる仕草も慣れたもの。以前は手を伸ばしかけて引っ込めるものだから、イライラしてたけど。カサンドラ様が仰った通りね、懐かしく思う日が来るなんて。あの頃の自分が聞いたらびっくりしそう。くすくす笑いながら、彼の腕に身を任せた。
もうすぐ目の前の扉が開く。そうしたら2人で入場するの。これはみんなで決めたのよ。夫が待つ場所へ嫁入りするのではなく、人間が獣人を迎え入れるのでもない。同列で同じ道を歩んでいくという意思表示でもあるのよ。ゆっくりと扉が開き、初めてベルと出会った日を思い浮かべた。
少し顔を上げれば、ヴェールの向こうで微笑む秋の黄金色を持つ愛しい人。胸がいっぱいになるけれど、涙は零さないわ。化粧が溶けてしまうもの。少しでも綺麗な私を覚えておいて欲しいのよ。あなたの記憶の中で、一番幸せそうで美しい私でいたい。
事前の打ち合わせ通り、一歩ずつ進む。右足を出したら揃えて、左足を踏み出したらまた揃える。繰り返すゆったりした動きに、白いドレスが揺れた。人間の結婚式は純白、獣人の結婚式は森の緑――だから白い絹の上にミントと銀の糸でびっしりと刺繍を施した。
どちらが上位でもないの。淡い緑ときらめく銀が眩しいドレスの刺繍には、様々な人の手を借りたわ。デザインが終わった時に、カサンドラ様の発案で始まったのよ。出来る範囲でみんなが手を加えていく。胸元の刺繍はブリュンヒルデ様、ノアール国王陛下も手伝ってくださった。
組んだ腕を飾る袖はアゼリア様、イヴリース様の方が器用だったんですって。届けたメフィスト様が笑ってらしたわね。カサンドラ様はスカート全般を、侍女や街の刺繍に自信がある女性を集めて施してくださった。アウグスト様は下手過ぎて、すぐに追い払われたみたい。
みんなの願いがこもった刺繍のドレスは、ずっしりと重い。それが私への期待で、同時に歓迎の気持ちなのね。潤んだ目を瞬いて誤魔化した。ヴェールは獣人国から持ち込んだもの。獣人の結婚式では必須のアイテムだけど、魔王妃のアゼリア様が着用なさったから魔国でも流行っていると聞くわ。今回の婚礼で人間達の間でも流行るといいのだけれど。
愛を誓う祭壇の前で、ベルが私に指輪を差し出す。膝を突いて愛を乞う婚約者に、左手を預けた。微笑んだつもりが、やだ……泣きそうだわ。上を向いて涙を堪えたいけれど、無理で。ぽろりと一粒落ちた。あなたの目の前のスカートに染みた雫に、気づいたかしら。
「愛している、ヴィルヘルミーナ。俺の妻になってくれ」
「……はい、喜んで」
難しい儀式の手順をすっ飛ばしたことで、祭壇前に立つ見届け人アウグスト様が苦笑い。カサンドラ様の拍手で、わっと歓声が上がった。花びらや紙吹雪が舞う中、私はベルの接吻けを受ける。こっそり婚約時代も重ねた唇がしょっぱくて……ベルの頬に残った痕跡に気づいた。
「ベル大好き、愛してるわ。私の旦那様」
彼の涙の痕に気づかないふりで手を這わせ、優しく拭う。それから思いのすべてを込めて、彼に愛を囁いた。命尽きるまで、死があなたを連れ去ろうと――私はあなたの妻です。
舞う花びらに混じって、晴れた空に風花が散っていた。
************************
今までお読みいただきありがとうございました。
完結後に番外編を付けたしましたが、これで完全に【完結】とさせていただきます。
アゼリアとイヴリースは今後も幸せに暮らしていくと思います……耳に挟んだ情報では、彼らの子供は最終的に8人だったそうです(*´艸`*)
************************
★★宣伝です★★
『彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ』
ヤンデレ皇帝陛下に拾われた公爵令嬢が幸せに向かうお話。
『今度こそ幸せを掴みます~大切だったあなたから死の宣告を受けたこと、忘れませんわ~』
逆行転生したレティは、最愛の婚約者に冤罪で首を刎ねられた。恐怖に震えるレティを愛し救ったのは、美しい神様でした。
自分から馬車を降りることもできず、到着したクリスタ国の魔法陣の上で溜め息をつく。開いた扉の向こうには、金茶の髪の青年がいた。金髪ではなく、茶髪より明るい。不思議な色は秋の森を思い出させて、悪くないわ。動かない私に、彼は優しく声をかけた。
その声に惚れたの。あの日からもう2年、ようやくこの人の妻になれる。両国の架け橋、獣人と人間の繋がり、どうでもいいわ。私はただ惚れた男の妻になるのだから。
「緊張してる?」
「少し」
腰を抱き寄せる仕草も慣れたもの。以前は手を伸ばしかけて引っ込めるものだから、イライラしてたけど。カサンドラ様が仰った通りね、懐かしく思う日が来るなんて。あの頃の自分が聞いたらびっくりしそう。くすくす笑いながら、彼の腕に身を任せた。
もうすぐ目の前の扉が開く。そうしたら2人で入場するの。これはみんなで決めたのよ。夫が待つ場所へ嫁入りするのではなく、人間が獣人を迎え入れるのでもない。同列で同じ道を歩んでいくという意思表示でもあるのよ。ゆっくりと扉が開き、初めてベルと出会った日を思い浮かべた。
少し顔を上げれば、ヴェールの向こうで微笑む秋の黄金色を持つ愛しい人。胸がいっぱいになるけれど、涙は零さないわ。化粧が溶けてしまうもの。少しでも綺麗な私を覚えておいて欲しいのよ。あなたの記憶の中で、一番幸せそうで美しい私でいたい。
事前の打ち合わせ通り、一歩ずつ進む。右足を出したら揃えて、左足を踏み出したらまた揃える。繰り返すゆったりした動きに、白いドレスが揺れた。人間の結婚式は純白、獣人の結婚式は森の緑――だから白い絹の上にミントと銀の糸でびっしりと刺繍を施した。
どちらが上位でもないの。淡い緑ときらめく銀が眩しいドレスの刺繍には、様々な人の手を借りたわ。デザインが終わった時に、カサンドラ様の発案で始まったのよ。出来る範囲でみんなが手を加えていく。胸元の刺繍はブリュンヒルデ様、ノアール国王陛下も手伝ってくださった。
組んだ腕を飾る袖はアゼリア様、イヴリース様の方が器用だったんですって。届けたメフィスト様が笑ってらしたわね。カサンドラ様はスカート全般を、侍女や街の刺繍に自信がある女性を集めて施してくださった。アウグスト様は下手過ぎて、すぐに追い払われたみたい。
みんなの願いがこもった刺繍のドレスは、ずっしりと重い。それが私への期待で、同時に歓迎の気持ちなのね。潤んだ目を瞬いて誤魔化した。ヴェールは獣人国から持ち込んだもの。獣人の結婚式では必須のアイテムだけど、魔王妃のアゼリア様が着用なさったから魔国でも流行っていると聞くわ。今回の婚礼で人間達の間でも流行るといいのだけれど。
愛を誓う祭壇の前で、ベルが私に指輪を差し出す。膝を突いて愛を乞う婚約者に、左手を預けた。微笑んだつもりが、やだ……泣きそうだわ。上を向いて涙を堪えたいけれど、無理で。ぽろりと一粒落ちた。あなたの目の前のスカートに染みた雫に、気づいたかしら。
「愛している、ヴィルヘルミーナ。俺の妻になってくれ」
「……はい、喜んで」
難しい儀式の手順をすっ飛ばしたことで、祭壇前に立つ見届け人アウグスト様が苦笑い。カサンドラ様の拍手で、わっと歓声が上がった。花びらや紙吹雪が舞う中、私はベルの接吻けを受ける。こっそり婚約時代も重ねた唇がしょっぱくて……ベルの頬に残った痕跡に気づいた。
「ベル大好き、愛してるわ。私の旦那様」
彼の涙の痕に気づかないふりで手を這わせ、優しく拭う。それから思いのすべてを込めて、彼に愛を囁いた。命尽きるまで、死があなたを連れ去ろうと――私はあなたの妻です。
舞う花びらに混じって、晴れた空に風花が散っていた。
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今までお読みいただきありがとうございました。
完結後に番外編を付けたしましたが、これで完全に【完結】とさせていただきます。
アゼリアとイヴリースは今後も幸せに暮らしていくと思います……耳に挟んだ情報では、彼らの子供は最終的に8人だったそうです(*´艸`*)
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ヤンデレ皇帝陛下に拾われた公爵令嬢が幸せに向かうお話。
『今度こそ幸せを掴みます~大切だったあなたから死の宣告を受けたこと、忘れませんわ~』
逆行転生したレティは、最愛の婚約者に冤罪で首を刎ねられた。恐怖に震えるレティを愛し救ったのは、美しい神様でした。
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