わたくしは何も存じません

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

04.領地への脱出が最優先だ

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 ガブリエルは困惑していた。お父様もお母様も、弟のラファエルまで一緒になって「もう王城へいかなくていい」と口にする。そんなことをしたら、叱られてしまうわ。

「誰にもお前を傷つけさせない。頼むから聞き分けてくれ、リル」

 親しい人だけが呼ぶ愛称が、耳に優しい。たとえ声をあららげて叱られたとしても、両親の愛情を疑うことはなかった。困惑しながらも、ガブリエルは承諾する。王家から連絡があっても、勝手に王城へ行かないこと。屋敷を出るときは報告すること。

 しばらくは危険だから、屋敷から出ないことも言い含められた。すぐにでも領地へ戻る準備をする、父の言葉にガブリエルの気持ちは浮き立った。領地なら叔父様達もいる。従兄弟いとこ達とも遊べるわ。何より、王城で王太子殿下に会わなくて済む!

 素晴らしいことに思えた。ロイスナー公爵家の領地は国の端だから、追いかけてこないでしょう。嬉しくなったガブリエルの表情が明るくなる。そんな娘の様子に、ヨーゼフは眉根を寄せた。

 やはり、という気持ちが強い。王城でつらい思いをしていたのだろう。おそらく『前回』も同じだったはず。政略結婚の意味を理解するガブリエルは、我慢していた。つらい思いを口に出せず、呑み込んで……四年後に我々は裏切られる。

「領地へ行く準備をしなさい。二人とも、荷物は二箱までだ。それ以外の荷物は後で運ばせる」

 いつもより厳しい声に、ガブリエルが首を傾げた。二箱? 明らかに少ない量だが、最低限の着替えだけ詰めればいい。それ以上の荷物は馬車の速度を遅らせる。今は王城から離れることが先決だった。距離を取り、何かあってもすぐに手が出せない状況を作る必要がある。

 ヨーゼフの目配せを受け、ミヒャエラがぽんと手を叩いた。ガブリエルとラファエルの注意を引き、笑顔を作って二人を焚きつける。

「勉強道具はいらないわ。着替えや身の回りの物を優先してね。どちらが先にできるか、競争よ」

「競争? 負けないわよ」

「ぼ、僕だって」

 覚えていないガブリエルは、控えていた侍女バネッサの手を取って衣装室へ向かう。ラファエルも自室へ駆け戻った。二人が荷物を作る間に、出かける準備を整えなくては。ミヒャエラは侍女達に指示し、装飾品から包ませた。

 高価な飾り物や絵画はすべて地下室へ運ばせる。王家が攻め込んでくる危惧があるからだ。地下ならば、上の屋敷を焼かれても残る可能性があった。ドレスなどは梱包し、後で荷馬車に運ばせる。

 玄関ホールに使用人達を集め、領地へ引き揚げる説明をした。王都に家族のいる者は残ってもいい。もし家族ともども領地へ引っ越す覚悟があれば、受け入れる旨を伝えた。老齢の執事が一礼し、使用人の管理を請け負う。使用人の半数近くが涙ぐんでいた。

「奥様、私も連れて行ってくださいませ。何も未練はございません。あのような暴挙、女神様への背信、すべてに愛想が尽きました」

 侍女長であるイレネが申し出た。その言葉に、ミヒャエラが目を見開く。隣に立つ夫を見上げれば、ヨーゼフも驚いた表情を隠さなかった。

「お前達は……その……」

「女神様が仰せになった言葉、お叱りのすべてを覚えております。あの日、お助けできず申し訳ございませんでした」

 阻まれて近づけなかった。声の限りに叫んだが届かなかった。そんな言葉は言い訳に過ぎない。事実として、公爵家のご一家は処刑されてしまったのだから。代表して謝罪した執事ブルーノに続いて、イレネや侍女達も頭を下げた。何人か状況の掴めない者がいるようだが、記憶を共有していないのだろう。

 記憶の有無の差は気になるが、まずは脱出優先だ。ヨーゼフの命令に再び頭を下げ、使用人達は大急ぎで手配を始めた。荷馬車も必要だが、まずは公爵家のご家族を領地へ送り届けること。屋敷の処分や家具の搬出はその後の手配でも構わない。

 優先順位を確認し、ブルーノは大仕事に取り掛かった。
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