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本編
27.縛り上げて王城へ運搬
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周囲が騒がしい。『前回』という単語が特別な意味で使われ始めた。騒がしさを理解しながら、老人は首を横に振る。腰が痛くて立ち上がるのも億劫……と言い訳しながら寝転がった。
実際は先日のパン泥棒との追いかけっこで、ぶつけた尻が痛い。捕まえた直後、落ちてきた大きな箱が尻に直撃した。痛くて呻いたが、パン泥棒は離さなかった。その場では笑顔で「問題ない」と手を振ったものの、翌日は激痛で寝込む。
これがいけなかった。堕落した生活など最低だ、と常々口にしていたのに、快適さに負けたのだ。動くのが面倒になり、ここ数日寝転がって過ごしている。
「ジーモンさんはいるか?」
ノックの音がしても知らん顔した。ジーモンは留守だと言ってやりたいが、声に出したら存在がバレる。老人はごろりと寝返りを打った。今日は日差しが心地よい……?! 正面の窓から人影が差し込み、勢いよく窓が破られた。
派手な音を立てて転がる窓枠をよける。慌てて立ち上がり、迎撃姿勢を取った。が、まだ尻が痛い。恰好悪いから、腰と言い換えているが痛いのは尻だ。足を踏ん張ってぐっと力を入れれば、とんでもない痛みが走った。
「っ、いてぇ」
ぼやいた隙をついて、乱入した騎士三人に取り押さえられた。王城を出るとき二人だった騎士は、取っ組み合いに発展した場合の懸念を払拭するため、仲間を増やしていた。まだ外に二人待機している。
「ジーモン隊長」
「元隊長だ。俺は引退したんだ」
口達者な元上司を、騎士達は手際よく拘束していく。麻袋を利用して足の自由を奪い、縄で縛りあげて担いだ。
「こらっ! それが隊長への礼儀か?!」
「元隊長だって、自分で仰ったじゃないっすか」
「そうですよ、年寄りの振りして狡いんだから」
海老のように反って騒ぐ上司を言い包めながら、騎士はジーモンの簀巻きを運び出した。近所の奥さんが「あらまあ」と笑いながら見送る。以前も訓練の参加をさぼったジーモンを縛って出勤させたことがあり、隣に住む露天商の奥さんは手を振った。
「仕事がんばってねぇ」
のんきな声に送られ、ジーモンは馬車に積まれた。
「馬車だと?! 腑抜けおって」
「ジーモン元隊長のためですよ。俺らは騎乗のが楽ですから」
労わりというより、最初から拘束する前提だったと白状しながら馬車が動き出す。ベンチ式の座面に転がされたジーモンは、すぐに落下して呻きながら床を行き来する。上に乗せてもまた落ちるだろうと、同乗した部下二人に見守られながら転がり続けた。
さすがに酔ったジーモンが気持ち悪くなった頃、ようやく王城に到着する。待ちかねたとばかりに、停車した馬車の扉が開いた。
「待っていました。さあ、ジーモン元隊長の出番です。全力で働いてください」
笑顔のアンテス子爵ヴィリが、両手を広げて大歓迎だった。その目元に隈を発見し、ジーモンが「嫌だ」と騒ぐ。絶対に厄介な案件だ。そうに違いない。
「……どうやら、ジーモンには『前回』の記憶がなさそうですね」
暴れるジーモンを見るヴィリは、真顔になって呟いた。ここ数日何度か耳にした『前回』という単語に、ジーモンの動きが止まる。
「何かあったんだな?」
「ありました。説明しますのでどうぞ……っと、歩けないでしょう。抱っこがいいですか?」
「絶対に断る!」
とんでもない提案に、断固拒否するジーモンは……肩に担いで移動となった。引退した老人をこき使うとは……騒ぐ彼の姿を目撃した古株の使用人達が、ひそひそと噂を始める。脳筋騎士団きっての頭脳派が復帰したと――。
実際は先日のパン泥棒との追いかけっこで、ぶつけた尻が痛い。捕まえた直後、落ちてきた大きな箱が尻に直撃した。痛くて呻いたが、パン泥棒は離さなかった。その場では笑顔で「問題ない」と手を振ったものの、翌日は激痛で寝込む。
これがいけなかった。堕落した生活など最低だ、と常々口にしていたのに、快適さに負けたのだ。動くのが面倒になり、ここ数日寝転がって過ごしている。
「ジーモンさんはいるか?」
ノックの音がしても知らん顔した。ジーモンは留守だと言ってやりたいが、声に出したら存在がバレる。老人はごろりと寝返りを打った。今日は日差しが心地よい……?! 正面の窓から人影が差し込み、勢いよく窓が破られた。
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「っ、いてぇ」
ぼやいた隙をついて、乱入した騎士三人に取り押さえられた。王城を出るとき二人だった騎士は、取っ組み合いに発展した場合の懸念を払拭するため、仲間を増やしていた。まだ外に二人待機している。
「ジーモン隊長」
「元隊長だ。俺は引退したんだ」
口達者な元上司を、騎士達は手際よく拘束していく。麻袋を利用して足の自由を奪い、縄で縛りあげて担いだ。
「こらっ! それが隊長への礼儀か?!」
「元隊長だって、自分で仰ったじゃないっすか」
「そうですよ、年寄りの振りして狡いんだから」
海老のように反って騒ぐ上司を言い包めながら、騎士はジーモンの簀巻きを運び出した。近所の奥さんが「あらまあ」と笑いながら見送る。以前も訓練の参加をさぼったジーモンを縛って出勤させたことがあり、隣に住む露天商の奥さんは手を振った。
「仕事がんばってねぇ」
のんきな声に送られ、ジーモンは馬車に積まれた。
「馬車だと?! 腑抜けおって」
「ジーモン元隊長のためですよ。俺らは騎乗のが楽ですから」
労わりというより、最初から拘束する前提だったと白状しながら馬車が動き出す。ベンチ式の座面に転がされたジーモンは、すぐに落下して呻きながら床を行き来する。上に乗せてもまた落ちるだろうと、同乗した部下二人に見守られながら転がり続けた。
さすがに酔ったジーモンが気持ち悪くなった頃、ようやく王城に到着する。待ちかねたとばかりに、停車した馬車の扉が開いた。
「待っていました。さあ、ジーモン元隊長の出番です。全力で働いてください」
笑顔のアンテス子爵ヴィリが、両手を広げて大歓迎だった。その目元に隈を発見し、ジーモンが「嫌だ」と騒ぐ。絶対に厄介な案件だ。そうに違いない。
「……どうやら、ジーモンには『前回』の記憶がなさそうですね」
暴れるジーモンを見るヴィリは、真顔になって呟いた。ここ数日何度か耳にした『前回』という単語に、ジーモンの動きが止まる。
「何かあったんだな?」
「ありました。説明しますのでどうぞ……っと、歩けないでしょう。抱っこがいいですか?」
「絶対に断る!」
とんでもない提案に、断固拒否するジーモンは……肩に担いで移動となった。引退した老人をこき使うとは……騒ぐ彼の姿を目撃した古株の使用人達が、ひそひそと噂を始める。脳筋騎士団きっての頭脳派が復帰したと――。
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