わたくしは何も存じません

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
46 / 96
本編

46.誰が敵で誰を信じてもいいか

しおりを挟む
 グスタフ王から届いた返信に目を通し、ヨーゼフは目を閉じて椅子にもたれた。かつてはグスタフ王に仕えた。それが当たり前だと思っていたし、生涯、主君を違える気はなかったのだ。

 彼が自分達を殺したわけではない。だが、王の育てた息子が我々を冤罪で処刑したのは事実だった。我が子のなした罪を「知らぬ」で通せないのは、親として当然だろう。ガブリエルやラファエルより早く首を落とされたが、その後あの子らが殺されたのは間違いない。

 やり直しを命じた女神アルティナ様の言葉に『可愛いガブリエルを殺したのは』とあった。私が殺され……次はミヒャエラ。最後はどちらだったのか。家族が目の前で殺される姿を見て、泣き続けただろう。想像だけで胸が痛んだ。

 発狂したくなるほど悲しく、恐ろしく、心が砕ける出来事だったはず。女神の加護を受けた子を「天使」と称するのは、教会で学んでいた。ガブリエルが天使と呼ばれる存在なら、この世界であの子に課せられた義務があるのだろう。

 必ずや守り抜かなくてはならない。幸いにも、妻ミヒャエラはゼークト王国の王族の血を引いている。公爵家の先代夫人が王姉だった。現王の伯母に当たる。従弟である国王陛下との仲もよく、何度も手紙で交流を続けていた。

 ロイスナー公国を承認したゼークト王国に続き、交易していたカペル共和国が賛同を表明する。残るはウテシュ王国のみ。ここは国境を接しておらず、アードラー帝国との繋がりも薄かった。閉鎖的な国家で、カペル共和国がかろうじて交易で関係する程度だ。

 ウテシュ王国の賛同はないが、アードラー帝国が独立を阻む理由はない。いや、国力を削りたくなくてごねても、我が弟バーレ伯爵アウグストや民が許さない。騎士団も敵に回すことになる。あのグスタフ王がそこまで愚かな振る舞いをするとは思えなかった。

 独立を承認し、詫びを連ねた手紙を置いた。その後ろに書かれていたのは、王太子ニクラウスと聖女となるリリーを地下牢へ入れた処置について。ニクラウスは飢え死寸前まで追い込まれ、騎士団が救った。簡単に殺して許す気はない、アウグストの仕業だろう。

 リリーは気狂いの兆候を見せ、一人でくすくす笑いながら過ごしているらしい。なんとも気楽で羨ましいことだ。幻想に逃げ込む彼女を現実に引き戻すため、教会が管理する修道院へ移動させたと記されていた。

「……この程度で終わるはずがない」

 報告書をくしゃりと握り、深呼吸して机の上に放った。持っていると千切ってしまいそうだ。ヨーゼフは目を閉じて考え込んだ。先日、弟アウグストから届いた手紙には、横領や裏工作があった可能性が並んでいた。あれが事実なら、国内貴族に起こせる騒動だろうか……と懸念を抱く。

 親族であるゼークト王国、交易繋がりのカペル共和国、反応がないウテシュ王国。どこが関与していても、ロイスナー公国に手出しはさせない。目を開けて身を起こしたヨーゼフは、便箋を取り出してペンを取った。手遅れになる前に動く必要がある。『前回』のような失敗を繰り返す気はなかった。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

【完結】出来の悪い王太子殿下の婚約者ですって? 私達は承諾しておりません!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
真実の愛は策略で生まれる ~王太子殿下の婚約者なんて絶対に嫌ですわ~  勉強は出来ず、実技も酷い。顔だけしか取り柄のない一番最初に生まれた王子というだけで、王太子の地位に就いた方。王国を支える3つの公爵家の令嬢達は、他国にも名の知れた淑女であり、王太子レオポルドの婚約者候補に名を連ねた。 「絶対にお断りだわ」 「全員一緒に断りましょうよ」  ちょうど流行している物語の主人公のように演出し、道化を演じて退場していただきましょう。王家も貴族のひとつ、慣習や礼儀作法は守っていただかないと困ります。公爵令嬢3人の策略が花開く!   ハッピーエンド確定、6話完結 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、ノベルアップ+ ※2022/05/25、小説家になろう 恋愛日間20位 ※2022/05/25、カクヨム 恋愛週間27位 ※2022/05/24、小説家になろう 恋愛日間19位 ※2022/05/24、カクヨム 恋愛週間29位 ※2022/05/23、小説家になろう 恋愛日間27位  ※2022/05/21、完結(全6話) ※2022/05/21、カクヨム 恋愛週間41位 ※2022/05/20、アルファポリス HOT21位 ※2022/05/19、エブリスタ 恋愛トレンド28位

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

処理中です...