わたくしは何も存じません

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
79 / 96
本編

79.仕方ないわ、不審者だもの

しおりを挟む
 騎士を連れた双子が顔を見合わせる。それから無遠慮にガブリエルを指さした。

「コレが、ゼークト王国のお姫様?」

「聞いてたより幼く見えるけど……」

 立ち上がってガブリエルを庇う姿勢を取ったカールが、抜いた短剣を構える。屋敷の敷地内ということもあり、長剣を持ってこなかったことが悔やまれる。今後は常に持ち歩くことを決めた彼の隣で、弟ケヴィンが周囲に視線を走らせた。小脇に抱えたラファエルが、しっかりしがみつく。

 いざとなれば、二人を逃がして足止めするか。目配せで合図を送りあう二人だが、すぐに肩から力が抜けた。

「誰に許可を得て、ここにいるんだ? あん?」

 鞘に収まった長剣を肩に担いだ乱暴な口調の男……アウグストの登場だ。寝起きなのか、髪はぼさぼさで寝癖がついていた。加えて髭も剃っていない。贔屓目に見ても騎士団長ではなかった。

「下男に用はな……ぐふっ」

 下男扱いした騎士を、アウグストの剣が叩きのめす。防具を突き抜けたかと思う衝撃で、騎士は膝をついた。鞘を払っていない剣をこん棒扱いし、敵を沈める。後ろから息を切らせて走ってきたヴィリが、抱えた剣を投げた。

 片手で受け取ったカールとケヴィンが、鞘を払わずに構える。片手で構えて距離を取りながら、警護対象であるロイスナーの姉弟を背中に庇った。その状態で互いに背を預けるように立ち、隙を見せない。

「まあまあか、剣を忘れたから減点だが」

「それは……まあ、反論できないな」

 厳しすぎないかと言いかけ、先ほど反省したことを思い出したカールが苦笑いする。無視された形の双子がきょとんとした顔で見回した。

「違うっぽい」

「ええ? ネロがゼークトのお姫様だって言ったんだろ」

「いや、そうかもと思っただけ」

 まったく反省の色も、何をしでかしたかも理解していない双子に、アウグストが厳しい顔で歩み寄った。止めようとする護衛の騎士を、乱暴に鞘で殴り倒す。無造作な動きに見えるが、騎士は避けられずに腹部や肩に受けた。

「すげぇ」

 感心するミロの声に緊張感はない。後ろからヴィリが「捕獲ですよ」と叫んだ。振り上げた鞘付き剣で叩いたら、命が危ない。侵入者だとしても、いきなり殺害は問題だと伝えた。わかってると頷いたアウグストが、造作もなく二人を確保する。

 双子ならではの連携で左右に走ろうとしたが、その程度の小細工が通用するアウグストではない。筋肉に特化した男は、バネの俊敏さを発揮して双子の足を払った。脛を殴られた二人が呻いて転がり、ガブリエルが飛び出す。

「叔父様、やりすぎよ」

「かなり手加減したぞ? 骨も折っていない」

 安心しろと微笑む叔父に、それならいいかとガブリエルも頷いた。なんだかんだ、王妃教育に込められた厳しい内容は、少女を年齢以上に成長させている。敵でなくても不審者なら仕方ない。そう結論付けたガブリエルは、カールの腕にしがみつきながら双子を観察した。
しおりを挟む
感想 156

あなたにおすすめの小説

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

【完結】出来の悪い王太子殿下の婚約者ですって? 私達は承諾しておりません!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
真実の愛は策略で生まれる ~王太子殿下の婚約者なんて絶対に嫌ですわ~  勉強は出来ず、実技も酷い。顔だけしか取り柄のない一番最初に生まれた王子というだけで、王太子の地位に就いた方。王国を支える3つの公爵家の令嬢達は、他国にも名の知れた淑女であり、王太子レオポルドの婚約者候補に名を連ねた。 「絶対にお断りだわ」 「全員一緒に断りましょうよ」  ちょうど流行している物語の主人公のように演出し、道化を演じて退場していただきましょう。王家も貴族のひとつ、慣習や礼儀作法は守っていただかないと困ります。公爵令嬢3人の策略が花開く!   ハッピーエンド確定、6話完結 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、ノベルアップ+ ※2022/05/25、小説家になろう 恋愛日間20位 ※2022/05/25、カクヨム 恋愛週間27位 ※2022/05/24、小説家になろう 恋愛日間19位 ※2022/05/24、カクヨム 恋愛週間29位 ※2022/05/23、小説家になろう 恋愛日間27位  ※2022/05/21、完結(全6話) ※2022/05/21、カクヨム 恋愛週間41位 ※2022/05/20、アルファポリス HOT21位 ※2022/05/19、エブリスタ 恋愛トレンド28位

処理中です...