【完結】破天荒な妖精姫は醜い夫を切望する

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
3 / 113

03.他の方に嫁げと仰るなら命を絶ちます

しおりを挟む
「ですが……」

 言い淀んだアレクシス様は、言葉に出来なかった部分を仕草で示されました。ドラゴンを屠った時、顔に受けた大きな傷痕を撫でる指先は震えています。抉られたような傷は、塞がった部分がケロイド状になっていました。その上、周囲は引きれて元の優しいお顔が台無しですね。

 ただ、私が惚れたのは昔のお顔ではありません。もちろん外見がまったく気にならないと言えば、嘘になります。傷が怖いとは思いませんが、痛そうだなと感じました。

「お顔の傷が気になりますか?」

「顔だけではない。ご令嬢が見れば卒倒するような悍ましい傷痕が……体の至る所に残っているのだ。夫婦になるなど、簡単に口になさらない方がよろしい」

 国王陛下との会話ではないせいか、少し砕けた口調になりました。こちらの方が素敵ですわ。アレクシス様の雰囲気に似合っていますもの。ふわりと微笑んだ私から、真っ赤になった彼が目を逸らした。

 どうやら色仕掛けは通用しそうですね。今は、妖精姫と称される美貌の持ち主に生まれて良かったと思いますわ。意中の殿方を落とせそうです。

「私はレードルンド辺境伯閣下以外の方に嫁ぐ気はございませんわ。もし他の方に嫁げと仰るなら、私は命を絶ちます」

 申し訳ございませんが、逃がしません。あなた様の自由意思を奪う償いは、一生かけてお傍にいることで代えさせてください。きっぱり強く言い放った私の言葉に、王妃殿下が感動したご様子。ご想像された内容ではないと思いますわ……たぶん。

「強さだけなら他にも男はいるだろう」

「ええ、顔の整った美しい方も、財力や権力に溢れた方も……私は選び放題です。だからこそ、あなた様を選んだのですわ。これでも審美眼しんびがんは自信がありますの」

「……審美眼はゼロだな」

 ぼそっと仰いました言葉、私には聞こえておりました。国王陛下や王妃殿下は気付いておられないようですね。お父様は心配そうに額の汗をしきりに拭います。嫌ですわ、いくら私でも国王陛下の前で気はございませんのに。

「国王陛下、ならびに王妃殿下。お約束通り、私の選んだ方との婚約をお認め下さいませ」

「ああ、もちろんだ!」

「我が国に留まってくれるんですもの、断る理由がないわ」

 そうでしょう? ふふっと笑い、困惑して渋面じゅうめんになった未来の夫の腕に触れた。びくりと揺れた肩にも、触れた左腕にも大きな傷が走っている。心配なさらなくても知っております。そう匂わせて、意味ありげに服の上から撫でた。

「お名前を、アレクシス様と呼ぶ許しを頂けますか」

 妖精姫渾身の笑顔で口説きにかかる。大丈夫、アレクシス様は私を嫌っていない。今のうちに私の存在を刷り込んで、手離せなくしてしまわなくては! 一歩近づけば、アレクシス様は一歩下がる。縮まらない距離に耐えかねて、お名前を呼ぶ許可を願う。

 王太子殿下が羨ましそうな表情で私達を見つめる。あなた様には立派な婚約者がおられるでしょう? 淑女の鑑と称される美しい隣国の姫との結婚が決まっていました。ちなみに王太子殿下は、私が社交界デビューした15歳の頃から毎年告白され、すべてお断りしてきました。

 王太子殿下の視線、壁に立つ騎士や侍女の無言の圧力、国王陛下や王妃殿下の期待の眼差し……すべてを受けて、アレクシス様の喉がごくりと動きます。

「……途中で断るなら、いま言ってくれ」

 引導を渡されるなら早い方が良い――潔いですが、おあきらめくださいね。私、諦めが悪いんですの。
しおりを挟む
感想 251

あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

召喚先は、誰も居ない森でした

みん
恋愛
事故に巻き込まれて行方不明になった母を探す茉白。そんな茉白を側で支えてくれていた留学生のフィンもまた、居なくなってしまい、寂しいながらも毎日を過ごしていた。そんなある日、バイト帰りに名前を呼ばれたかと思った次の瞬間、眩しい程の光に包まれて── 次に目を開けた時、茉白は森の中に居た。そして、そこには誰も居らず── その先で、茉白が見たモノは── 最初はシリアス展開が続きます。 ❋他視点のお話もあります ❋独自設定有り ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付いた時に訂正していきます。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...