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「さて、手続きがあるから出掛けるぞ……タカヤも一緒においで」

 置いて行かれるかと表情を曇らせたタカヤに、悪戯成功と笑顔を向ける。付け加えられたセリフに顔を上げれば、白いコートを手渡された。肩に掛けてくれる手に甘えながら袖を通すと、少しサイズが大きい。どうやらサリエルのコートのようだった。

「タカヤの服は帰りに買うけど、寒いからとりあえず羽織ってないとな」

 風邪引くだろ?

 頬に降ってきたキスが擽ったくて、首を竦めるとマフラーも巻かれてしまった。部屋を出て地下の駐車場へ向かいながら、タカヤは疑問を口にする。

「どこへ行くんだ?」

「弁護士のとこ、タカヤを引き取るのに手続きが必要だから。後はアイツにも顔出さないと騒ぐだろうし……」

 問題の「アイツ」への文句を付け加えながら、愛車のドアを開ける。世に言う高級スポーツカーの助手席に落ち着いたタカヤは、きょろきょろと中を見回した。父親もスポーツカーが好きで、よくカタログを眺めていたのを思い出す。

 流線型が特徴的なホワイトパールの車体は、スムーズに地上へ走り出した。



 訪れた弁護士事務所はビルの上階で、かなり家賃が高そうだと感心しきりのタカヤが、出された紅茶とケーキを平らげる頃、話はついていた。

「じゃ、後は任せる」

 言い切ったサリエルがサングラスを掛けると、タカヤの腰を抱いて立ち上がる。柔らかな物腰のロマンスグレーの弁護士は、穏やかな笑みを浮かべながら、見送りに立った。柔和な雰囲気に騙されそうだが、そこは敏腕で知られる弁護士だ。最後にサリエルへ釘を刺すのを忘れない。

「そうそう、弟さんが紹介を楽しみにしておられますよ」

「……わかってる」

 嫌そうに鼻に皺を寄せるサリエルに苦笑して送り出され、タカヤは不思議そうに首を傾げた。ぎゅっと握った三つ編みを少し引っ張る。

「ん? どうした、タカヤ」

「弟がいるのか?」

「ああ、一応」

 一応の意味がわからず、続きの説明を待つ。

 出来れば説明せずに済ませたかった。というか、複雑な関係なので説明が難しいのだ。少し視線を漂わせて、ビルの1Fにある喫茶店を思い出した。

「お茶でも飲みながら、説明するよ」

 長いからね。

 こくんと素直に頷いたタカヤとエレベーターに乗り、サリエルはサングラスを外しかけ……結局そのままに店へ入った。

 コーヒーとカフェオレを注文し、サングラスを取ったサリエルが迷いながら口を開く。

「説明が難しいんだけど、アイツとオレは腹違いなんだ。オレの母親は愛人でね、ある男の子供を生んだんだけど、それがオレ。数年後に本妻が生んだのが、弟ってわけ」
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