【完結】真珠姫と野獣王

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

78.罵倒されると思った

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 太陽の光がアンネリースの銀髪を輝かせる。白いドレスの宝石や真珠と相まって、人ならざる存在に思えた。

「ルド、こちらへ」

 斜め後ろに控える夫を引っ張り、腕を組んだ。民に手を振れば、歓声はさらに大きくなる。驚いて目を見開くルードルフへ、アンネリースは微笑み返した。

「民に手を振って。ほら」

 促されて手を振る。わっと声が大きくなった。ルードルフは驚きすぎて固まる。アンネリースはムンパールの王族だったから、民が喜んで迎えるだろう。だが自分は若き王を弑逆しいぎゃくしたも同然、歓迎されるはずがない。

 強く思い込んでいた彼の心は、予想しなかった現実を前に狼狽えた。罵声を浴びせられると思っていたのだ。お前が真珠姫に相応しいはずはないと、そう罵られる覚悟だった。真逆の反応に、困惑したルードルフの顔は泣きそうに崩れる。

「あら、花嫁より先に泣いてはだめよ」

 主君と定め、妻になってくれた美しい人は、残酷な言葉で涙を封じた。なんとか感情を立て直し、ルードルフは手を振り続ける。後ろの貴族からも拍手が送られ、結婚式は無事終わった。

 来賓と挨拶を交わし、貴族の祝福を受け取り、神殿から降りて街へ向かう。馬に乗ったルードルフの前に、横抱きで支えられる女王は始終笑顔を絶やさなかった。

 途中で女の子の差し出す花束を貰う。高価ではないが、気持ちの籠った花束だった。丁寧にリボンで結んだ花を受け取るたび、ルードルフは愛馬の脚を止めた。時間をかけて街を一周し、お披露目のパレードは大成功で締められた。

 一度分かれて支度を整える。ルードルフは用意された控え室で、手早く宴会用の衣装を纏った。一族の女性達が刺繍を施した、ずっしりと重い布はまるで期待を示すようだ。副官カミルは自らも民族衣装に身を包み、着替えを手伝った。

「ボス、おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

 ルードルフが初めて惚れて、心も魂も命も捧げた女性だ。もし結ばれなくとも、ずっとアンネリースを思い続けただろう。兄の仇と憎むこともできるのに、彼女は平和を選んだ。手を赤く染めるより、白い手で民を守りたいと願う。

 女神パールの化身とみまごうばかりの美女が、一部族の長を選んだ。奇跡のような出来事だが、結婚式を行なったことで現実感が増す。スマラグドスの民は、このムンティア王国に根付くのか。これが神のお告げであるなら、従うのみだった。

「ばぁば様が、疲れたから先に寝るとさ」

 カミルは伝言を受け取り、苦笑いして紙をひらひら動かす。くしゃりと握って、ゴミを入れる箱へ投げた。

「しっかりやれ、失敗するでないぞ。とか、笑っちゃいますよ」

 母親みたいな発言だとカミルは笑うが、ルードルフは顔を引き攣らせた。そうだ、結婚したら閨事がある。どうしよう、あの女神に俺が触れる? 壊してしまうのではないか。いや、拒んで泣かれたら……。

 悪い想像がぐるぐると頭を巡り、顔色が青白くなっていく。気づいたカミルが慌ててフォローを入れた。

「大丈夫ですよ、女王陛下がボスを選んだんですし。愛があれば……」

 愛という単語に、ルードルフは目に見えて落ち込む。俯いた彼の肩を叩き、カミル天井を仰いだ。マリッジブルーって、男性側がなるもんでしたっけ?
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