80 / 530
第5章 各家庭の教育方針
79.魔法陣を解体する簡単でないお仕事
しおりを挟む
連れていかれた部屋で、しょんぼりと立ち尽くす。美人でスタイルのいい女性の項垂れた姿は哀れだが、中身があのルシファーなので同情はなかった。ソファに座らせて、問題点を洗い出すための話し合いが始まる。ルキフェルは魔法陣を取りだして分解した。その脇でベールとアスタロトが議論しながら動画を再確認する。
動画の中に異常な光景はない。魔法陣が発動し、決められた通りに作用した様子が映っていた。
「問題のないことが問題です」
これではどこで問題が発生したのか分からない。困惑した顔の二人に、ルキフェルが声をかけた。
「手が空いたら手伝って。これを1枚ずつ確認するから」
69枚も重ねた美しい芸術品のような魔法陣タワーを指さす。ルキフェルはすでに3枚を解体していた。
「元に戻せますか?」
「安心して、完成版の複写まだあるから」
複製するほど精度が落ちると言われるが、ルキフェル達大公クラスなら完璧に複写可能だ。元を残したまま、新しく複写した方をバラしたらしい。安心してアスタロトも数枚手元に引き寄せた。ベールも同様に解析を始める。
のそりと動いたルシファーが、彼らの隅に並んで座り、一緒に魔法陣の分解に着手した。反省の時間は終わったようだ。慣れた様子でパズルのような魔法陣を崩し、作動する種類別に分類した。
「ルシファー、説明して」
ルキフェルは興味深そうに分類を眺める。
「いいぞ。これが女性化に必要な変換関連だ。こっちは体内の変化を促すもの、そっちが戻る時のための安全装置。一番向こうのは母乳の成分だ」
「ん?」
「なんですか」
奇妙な単語が混じっていた。そんな顔で魔王を凝視する側近達の眼差しは冷たい。
「母乳……」
「ああ。リリスの時は思いつかなくて残念だったが、イヴに母乳を与えたくて。リリスの母乳を分析して再構成した」
得意げに胸を張り主張することではないし、その胸が今はたわわに実っているので控えて欲しい。いくらルシファーだとしても、目のやり場に困るのだ。これがベルゼビュートなら見慣れているが。
「ルシファー様、母乳の魔法陣が妙な作用をした可能性が高いと思いますが」
男性に本来は存在しない母乳を作り出す器官を埋め込んだとしたら、失敗の原因になりかねない。アスタロトのもっともな指摘で、母乳部分を徹底的に分析した。合計8枚にも及ぶ力作である。手分けして一言一句目を通した。どこかに原因があると疑いの目を向けた母乳関連の魔法陣は……まったく問題なかった。
「おかしいな」
「何もないことがおかしいです」
「会心の出来だったからな」
なぜか満足げなルシファーだが、このままではリリスの夫ではなく妻になってしまう。魔王が女性になってもなんら問題はないが、夫婦生活は大事件だった。指摘されたルシファーの顔色が青くなる。
「離婚だと言われたらどうしよう」
「そう思うなら、真剣に欠陥を探してください」
ベールに叱られ、残った魔法陣を手元に引き寄せる。次に疑わしいのは、元に戻るための情報を保存する魔法陣だった。女性になるところまで問題なく発動したのだから、戻れない原因は残りの魔法陣のはず。ルキフェルも同じ推測を立て、16枚に及ぶ魔法陣を分業でバラした。
組み立て工程に矛盾はない。じっくり目を通す途中で、ルシファーが立ち上がった。昔から煮詰まると、ぐるぐる歩き回る癖がある。両手に持った魔法陣を眺めながら歩く彼が、足元に寝転がるルキフェルの足に躓き、魔法陣を庇って胸から転んだ。
「うわっ、痛そう」
「ベルゼビュートではないのですから」
素直に同情したルキフェルと、溜め息をつきながら失礼な発言のベール。しかしアスタロトは言葉ではなく動いた。咄嗟に主君の背から腕を回し、ルシファーを支える。が転びそうになり、隣のベッドへ倒れた。覆い被さる形で、魔王へ体重をかけないよう堪えたアスタロトは、無事な姿に安堵の息を吐く。
「ルシファー、イヴの哺乳瓶……嘘っ……浮気!?」
ノックもなしに開けるのはリリスの十八番。そして開いた扉の先で、純白の髪をベッドに散らしたルシファーがいた。胸の上に手を置いたアスタロトが覆いかぶさった状態で。
誤解される要素満載の光景を、忙しく左右に首を動かして確認したルキフェルは大笑いした。そのおかげで誤解は解けるが、早急に男性体へ戻りたいと願うルシファーだった。
動画の中に異常な光景はない。魔法陣が発動し、決められた通りに作用した様子が映っていた。
「問題のないことが問題です」
これではどこで問題が発生したのか分からない。困惑した顔の二人に、ルキフェルが声をかけた。
「手が空いたら手伝って。これを1枚ずつ確認するから」
69枚も重ねた美しい芸術品のような魔法陣タワーを指さす。ルキフェルはすでに3枚を解体していた。
「元に戻せますか?」
「安心して、完成版の複写まだあるから」
複製するほど精度が落ちると言われるが、ルキフェル達大公クラスなら完璧に複写可能だ。元を残したまま、新しく複写した方をバラしたらしい。安心してアスタロトも数枚手元に引き寄せた。ベールも同様に解析を始める。
のそりと動いたルシファーが、彼らの隅に並んで座り、一緒に魔法陣の分解に着手した。反省の時間は終わったようだ。慣れた様子でパズルのような魔法陣を崩し、作動する種類別に分類した。
「ルシファー、説明して」
ルキフェルは興味深そうに分類を眺める。
「いいぞ。これが女性化に必要な変換関連だ。こっちは体内の変化を促すもの、そっちが戻る時のための安全装置。一番向こうのは母乳の成分だ」
「ん?」
「なんですか」
奇妙な単語が混じっていた。そんな顔で魔王を凝視する側近達の眼差しは冷たい。
「母乳……」
「ああ。リリスの時は思いつかなくて残念だったが、イヴに母乳を与えたくて。リリスの母乳を分析して再構成した」
得意げに胸を張り主張することではないし、その胸が今はたわわに実っているので控えて欲しい。いくらルシファーだとしても、目のやり場に困るのだ。これがベルゼビュートなら見慣れているが。
「ルシファー様、母乳の魔法陣が妙な作用をした可能性が高いと思いますが」
男性に本来は存在しない母乳を作り出す器官を埋め込んだとしたら、失敗の原因になりかねない。アスタロトのもっともな指摘で、母乳部分を徹底的に分析した。合計8枚にも及ぶ力作である。手分けして一言一句目を通した。どこかに原因があると疑いの目を向けた母乳関連の魔法陣は……まったく問題なかった。
「おかしいな」
「何もないことがおかしいです」
「会心の出来だったからな」
なぜか満足げなルシファーだが、このままではリリスの夫ではなく妻になってしまう。魔王が女性になってもなんら問題はないが、夫婦生活は大事件だった。指摘されたルシファーの顔色が青くなる。
「離婚だと言われたらどうしよう」
「そう思うなら、真剣に欠陥を探してください」
ベールに叱られ、残った魔法陣を手元に引き寄せる。次に疑わしいのは、元に戻るための情報を保存する魔法陣だった。女性になるところまで問題なく発動したのだから、戻れない原因は残りの魔法陣のはず。ルキフェルも同じ推測を立て、16枚に及ぶ魔法陣を分業でバラした。
組み立て工程に矛盾はない。じっくり目を通す途中で、ルシファーが立ち上がった。昔から煮詰まると、ぐるぐる歩き回る癖がある。両手に持った魔法陣を眺めながら歩く彼が、足元に寝転がるルキフェルの足に躓き、魔法陣を庇って胸から転んだ。
「うわっ、痛そう」
「ベルゼビュートではないのですから」
素直に同情したルキフェルと、溜め息をつきながら失礼な発言のベール。しかしアスタロトは言葉ではなく動いた。咄嗟に主君の背から腕を回し、ルシファーを支える。が転びそうになり、隣のベッドへ倒れた。覆い被さる形で、魔王へ体重をかけないよう堪えたアスタロトは、無事な姿に安堵の息を吐く。
「ルシファー、イヴの哺乳瓶……嘘っ……浮気!?」
ノックもなしに開けるのはリリスの十八番。そして開いた扉の先で、純白の髪をベッドに散らしたルシファーがいた。胸の上に手を置いたアスタロトが覆いかぶさった状態で。
誤解される要素満載の光景を、忙しく左右に首を動かして確認したルキフェルは大笑いした。そのおかげで誤解は解けるが、早急に男性体へ戻りたいと願うルシファーだった。
50
あなたにおすすめの小説
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ
蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。
とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。
どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。
など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。
そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか?
毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる