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第7章 幼子は小さな暴君である
105.思わぬ最強赤子だった可能性大
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中庭に陣取り、多くの実験を重ねた。通りすがりの魔族を片っ端から捕まえ、魔法を使ってみてもらう。すぐに解放されるが、魔王の奇行はすぐに噂となった。
「魔王様が、我が子を虐待してるらしいぞ」
「それは違う。魔王妃様が育児ノイローゼだとか。きっとそのせいだ」
よく分からない噂が広まってもルシファーは気にしていないが、周囲が慌ててフォローに入った。アデーレやベリアルなど、魔王城の使用人はもちろん、事情を知るエルフ達も協力する。
「魔王様は姫様が使うお力を計測しておられるの」
「これは今後のために必要なことなのよ」
噂は徐々に打ち消される。元から魔王のイメージが悪くないことも手伝い、あっという間に噂は消えた。
「今のところ、ほとんどの魔力を無効にするね。ある意味、最強かも」
検証結果を睨むルキフェルは、思いがけない状況に唸った。魔王ルシファーから魔王妃リリス、ここまでは判明した事実だ。エルフ、ドラゴン、吸血種と魔力量に自信がある種族を軒並み無効化した。だが、さらに調べていくと矛盾が出てくる。
魔力量が少ないのに、魔法を無効化出来ない相手が存在するのだ。文官として出勤したアベルとアンナも、その珍しい存在だった。ヤンの魔力も通用する。魔法の形を取っていなくても、ルシファーの魔力を打ち消すイヴが、ヤンには勝てない。通常、強い者が弱い者に負ける法則はない。たとえばドラゴンが魔狼に絶対勝てない、などという原則はなかった。
どこまで行っても、魔力量と魔法の質が上の者が勝つが原則だった。つまりイヴの状態は、特例に近い。
「変だよね」
「だが事実は事実だからな」
うーん。部屋に戻ったルシファーの膝で、イヴは無邪気に笑う。大量の魔力実験に付き合っても、まったく疲れていないようだ。そこで新たな疑問が浮かんだ。
「なあ、魔力の打ち消しに魔力を使ってるのか?」
「当然じゃない。それが普通……この子なら、普通じゃないかも」
ルシファーの言いたいことに気づいたルキフェルが、考え込んでしまった。原則は魔力同士が相殺し合う。その際に霧散した魔力は、魔の森に還るのだが……。
期せずして同時にイヴの顔を見つめた。この子なら、特に理由も原則も関係なく、魔力を使わずに相殺しているかも。浮かんだ疑惑に、ルシファーが乾いた笑いを浮かべた。
「まさか、な」
「そう言い切れる?」
研究者魂に火がついたルキフェルの追求に、ルシファーは否定できなかった。あり得る。
「ねえ、イヴの授乳……どうしたらいいと思う? 半透明でも出るかしら」
真剣に考え込む魔王と大公の傍で、リリスはけろりと現実的な心配を始めた。こういうとき、現実を優先するのが母という生き物である。まずは娘の腹を満たしてから。研究も実験も最後にしてもらおう。そんな意図が透けて見える。
いや、実際に体も透けているので洒落にならないが。
「試してみるか?」
「見たい!」
研究者として見逃せない。そう口にしたルキフェルは、すごい勢いで部屋の外へ飛ばされた。ぱっと開いた扉はルキフェルを廊下まで通過させた後、バタンと閉じる。そのまま結界でがっちり鍵を掛けられた。
「ちょ! 見せてよ!! いいじゃん、研究に必要だから。お願い! リリスからも言ってよぉ」
邪な感情がなくとも、つい先頃まで幼子だったとしても。許せない境界線がある。踏み越えようとしたルキフェルは、魔王特製の硬いガードに阻まれ、授乳シーンを見ることは出来なかった。
「ったく……そんなの許すわけないだろ」
オレの妻だぞ。可愛いリリスの胸を……いや、サイズじゃないぞ。思わず心の中で言い訳する間に、リリスはさっさと我が子に手を伸ばした。だが持ち上げることが叶わず、ルシファーの手を借りる。
「もう少し上、行き過ぎ」
「この辺か?」
「やや左」
難しい注文を受けながらも、リリスの授乳は成功した。どうやら体が透けていても、母乳まで半透明にならないらしい。その結果は、後でそっとルキフェルに提供された。
「魔王様が、我が子を虐待してるらしいぞ」
「それは違う。魔王妃様が育児ノイローゼだとか。きっとそのせいだ」
よく分からない噂が広まってもルシファーは気にしていないが、周囲が慌ててフォローに入った。アデーレやベリアルなど、魔王城の使用人はもちろん、事情を知るエルフ達も協力する。
「魔王様は姫様が使うお力を計測しておられるの」
「これは今後のために必要なことなのよ」
噂は徐々に打ち消される。元から魔王のイメージが悪くないことも手伝い、あっという間に噂は消えた。
「今のところ、ほとんどの魔力を無効にするね。ある意味、最強かも」
検証結果を睨むルキフェルは、思いがけない状況に唸った。魔王ルシファーから魔王妃リリス、ここまでは判明した事実だ。エルフ、ドラゴン、吸血種と魔力量に自信がある種族を軒並み無効化した。だが、さらに調べていくと矛盾が出てくる。
魔力量が少ないのに、魔法を無効化出来ない相手が存在するのだ。文官として出勤したアベルとアンナも、その珍しい存在だった。ヤンの魔力も通用する。魔法の形を取っていなくても、ルシファーの魔力を打ち消すイヴが、ヤンには勝てない。通常、強い者が弱い者に負ける法則はない。たとえばドラゴンが魔狼に絶対勝てない、などという原則はなかった。
どこまで行っても、魔力量と魔法の質が上の者が勝つが原則だった。つまりイヴの状態は、特例に近い。
「変だよね」
「だが事実は事実だからな」
うーん。部屋に戻ったルシファーの膝で、イヴは無邪気に笑う。大量の魔力実験に付き合っても、まったく疲れていないようだ。そこで新たな疑問が浮かんだ。
「なあ、魔力の打ち消しに魔力を使ってるのか?」
「当然じゃない。それが普通……この子なら、普通じゃないかも」
ルシファーの言いたいことに気づいたルキフェルが、考え込んでしまった。原則は魔力同士が相殺し合う。その際に霧散した魔力は、魔の森に還るのだが……。
期せずして同時にイヴの顔を見つめた。この子なら、特に理由も原則も関係なく、魔力を使わずに相殺しているかも。浮かんだ疑惑に、ルシファーが乾いた笑いを浮かべた。
「まさか、な」
「そう言い切れる?」
研究者魂に火がついたルキフェルの追求に、ルシファーは否定できなかった。あり得る。
「ねえ、イヴの授乳……どうしたらいいと思う? 半透明でも出るかしら」
真剣に考え込む魔王と大公の傍で、リリスはけろりと現実的な心配を始めた。こういうとき、現実を優先するのが母という生き物である。まずは娘の腹を満たしてから。研究も実験も最後にしてもらおう。そんな意図が透けて見える。
いや、実際に体も透けているので洒落にならないが。
「試してみるか?」
「見たい!」
研究者として見逃せない。そう口にしたルキフェルは、すごい勢いで部屋の外へ飛ばされた。ぱっと開いた扉はルキフェルを廊下まで通過させた後、バタンと閉じる。そのまま結界でがっちり鍵を掛けられた。
「ちょ! 見せてよ!! いいじゃん、研究に必要だから。お願い! リリスからも言ってよぉ」
邪な感情がなくとも、つい先頃まで幼子だったとしても。許せない境界線がある。踏み越えようとしたルキフェルは、魔王特製の硬いガードに阻まれ、授乳シーンを見ることは出来なかった。
「ったく……そんなの許すわけないだろ」
オレの妻だぞ。可愛いリリスの胸を……いや、サイズじゃないぞ。思わず心の中で言い訳する間に、リリスはさっさと我が子に手を伸ばした。だが持ち上げることが叶わず、ルシファーの手を借りる。
「もう少し上、行き過ぎ」
「この辺か?」
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