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第21章 海も魔族の一員です
388.視察がダメなら謁見しよう
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海を視察すれば、当然陸の視察も必要だ。子どもが生まれて騒がしい各種族に打診すると、一様に「後で」の返事が戻ってきた。どうやら手が離せないらしい。
「視察は後日だな」
「来年あたりに計画しておきます」
アスタロトがいると口うるさいが、仕事の進みが早い。細かな部分の根回しや、許可などの書類処理を任せられるのも大きかった。
「今年の大きな行事はもうないか?」
「ありますよ。確か……」
ごそごそと机の引き出しから取り出したのは、年間予定表だった。毎年使い回すので、かなりボロボロになっている。折り畳んだ角が擦り切れて穴が開き、折り目に沿って分割され始めていた。
広げて修復を行う。魔法で復元をかけようとするルシファーを、慌ててアスタロトが止めた。
「やめてください、机に処理済みの書類があります」
「っ! 危なかった、悪い」
直前で間に合ったが、後少し遅かったら署名や押印が消えるところだった。苦笑いして隣室へ移動する。そこでもう一度広げ直した。だが復元は断る。書き加えた手書きの文字が、復元により消えてしまうのだ。以前の状態に戻すのが目的の魔法陣なので、文字を書き加える前に戻ったら大変だ。
新しい紙に書き写すことが決まった。仕事が一段落していたこともあり、二人で確認しながら複写する。その中で、大きなイベントがひとつ残っていた。
「年に一度の謁見がまだです」
「ああ、ちょうど出産ラッシュと被ったから」
後回しにしてしまった。本来なら毎年、種族ごとに貴族が挨拶に来る時期を過ぎている。アスタロトの休暇が重なったこともあり、誰も指摘しなかったようだ。
「視察も無理なんだぞ? 謁見も来年まとめてでいいだろ」
飄々としたルシファーの物言いに、しかしアスタロトは首を横に振った。
「視察は一族総出で対応しますが、謁見は貴族のみです。貴族に子が生まれたとしても、転移魔法で数時間の外出なので、可能でしょう」
そう言われると、納得できてしまう。保育園の一角を借りて、貴族の子を預かる策も検討された。案がまとまった頃、ルキフェルがベールと顔を覗かせる。
「客間で何してるのさ。あれ? 年鑑じゃん、久しぶりに見た」
「謁見の件でしたら、今年は飛ばしてもいいかと……」
ベールもルシファーと同じ意見だったらしい。アスタロトに説明され、対策を提示されればベールも承諾に回った。
謁見は魔王としての権威を示すものではない。一族の代表者から魔王が意見を聞く場なのだ。陳情のような願い事、近隣種族との揉め事の相談から、名付けまで。様々な話が持ち込まれる。それに加え、世間話のように赤子の数や生活状況も聞けた。
足りない部分を補い、余った物を他所へ回す。その采配を行うのが魔王城で、貴族は現場の管理官のような役割だった。そのため謁見で得られる情報は重要だ。出来ることなら、回数を増やしたい。
力説するアスタロトに根負けし、各種族へ通達が出された。反発を予想したルシファーだが、意外にも好感触の返事が多い。忙しいんじゃないのか? 首を傾げるルシファーをよそに、ベールやアスタロトは理由を理解した。
「さあ、準備しますよ」
「オレのすることは、偉そうに座って話を聞くだけだろ。準備って何をするんだ?」
「「正装です(よ)」」
ハモった二人から逃げられる筈はなく、純白の魔王は即位記念祭以来の正装に身を包んだ。死の呪いがかかった王冠の髪飾りを載せ、ずるずると長衣を引きずった魔王は、謁見の間へと向かう。その後ろを、鼻歌混じりにリリスが追いかけ、手を繋いだイヴが途中で抱き上げられた。
リリスが立派に成長して魔王妃の玉座に腰掛けるようになっても、魔王の膝は幼子が座り続ける。のんびりした光景は平和の象徴だった。
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「視察は後日だな」
「来年あたりに計画しておきます」
アスタロトがいると口うるさいが、仕事の進みが早い。細かな部分の根回しや、許可などの書類処理を任せられるのも大きかった。
「今年の大きな行事はもうないか?」
「ありますよ。確か……」
ごそごそと机の引き出しから取り出したのは、年間予定表だった。毎年使い回すので、かなりボロボロになっている。折り畳んだ角が擦り切れて穴が開き、折り目に沿って分割され始めていた。
広げて修復を行う。魔法で復元をかけようとするルシファーを、慌ててアスタロトが止めた。
「やめてください、机に処理済みの書類があります」
「っ! 危なかった、悪い」
直前で間に合ったが、後少し遅かったら署名や押印が消えるところだった。苦笑いして隣室へ移動する。そこでもう一度広げ直した。だが復元は断る。書き加えた手書きの文字が、復元により消えてしまうのだ。以前の状態に戻すのが目的の魔法陣なので、文字を書き加える前に戻ったら大変だ。
新しい紙に書き写すことが決まった。仕事が一段落していたこともあり、二人で確認しながら複写する。その中で、大きなイベントがひとつ残っていた。
「年に一度の謁見がまだです」
「ああ、ちょうど出産ラッシュと被ったから」
後回しにしてしまった。本来なら毎年、種族ごとに貴族が挨拶に来る時期を過ぎている。アスタロトの休暇が重なったこともあり、誰も指摘しなかったようだ。
「視察も無理なんだぞ? 謁見も来年まとめてでいいだろ」
飄々としたルシファーの物言いに、しかしアスタロトは首を横に振った。
「視察は一族総出で対応しますが、謁見は貴族のみです。貴族に子が生まれたとしても、転移魔法で数時間の外出なので、可能でしょう」
そう言われると、納得できてしまう。保育園の一角を借りて、貴族の子を預かる策も検討された。案がまとまった頃、ルキフェルがベールと顔を覗かせる。
「客間で何してるのさ。あれ? 年鑑じゃん、久しぶりに見た」
「謁見の件でしたら、今年は飛ばしてもいいかと……」
ベールもルシファーと同じ意見だったらしい。アスタロトに説明され、対策を提示されればベールも承諾に回った。
謁見は魔王としての権威を示すものではない。一族の代表者から魔王が意見を聞く場なのだ。陳情のような願い事、近隣種族との揉め事の相談から、名付けまで。様々な話が持ち込まれる。それに加え、世間話のように赤子の数や生活状況も聞けた。
足りない部分を補い、余った物を他所へ回す。その采配を行うのが魔王城で、貴族は現場の管理官のような役割だった。そのため謁見で得られる情報は重要だ。出来ることなら、回数を増やしたい。
力説するアスタロトに根負けし、各種族へ通達が出された。反発を予想したルシファーだが、意外にも好感触の返事が多い。忙しいんじゃないのか? 首を傾げるルシファーをよそに、ベールやアスタロトは理由を理解した。
「さあ、準備しますよ」
「オレのすることは、偉そうに座って話を聞くだけだろ。準備って何をするんだ?」
「「正装です(よ)」」
ハモった二人から逃げられる筈はなく、純白の魔王は即位記念祭以来の正装に身を包んだ。死の呪いがかかった王冠の髪飾りを載せ、ずるずると長衣を引きずった魔王は、謁見の間へと向かう。その後ろを、鼻歌混じりにリリスが追いかけ、手を繋いだイヴが途中で抱き上げられた。
リリスが立派に成長して魔王妃の玉座に腰掛けるようになっても、魔王の膝は幼子が座り続ける。のんびりした光景は平和の象徴だった。
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