【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
407 / 530
第22章 いろいろ増えるのは良いこと?

405.焼き菓子は私が作りました

しおりを挟む
 得体の知れない焼き菓子は没収された。ルキフェルが厳重に結界を張り、誰かが間違って食べないよう手配する中。ノックなしで執務室の扉が開いた。

「あら、お茶の時間だったの?」

「リリスか」

 説教が終わったルシファーへ抱きつき、リリスは小首を傾げた。お茶の支度がされているのに、ほぼ手をつけた様子がない。さらに何故か茶菓子に厳重な結界が施されていた。危険物の封印をするのかと思うほど、きっちり密封されたお菓子を眺めた。

「あ、これ……私が作ったのよ」

「……は?」

「え……」

「本当ですか?!」

 全員が奇妙な返答を漏らしたところで、リリスに抱っこされたイヴが目を輝かせた。

「ちゅの!」

 指差して触らせろと訴える。体を揺するイヴが重いのか、リリスは早々にルシファーへ押し付けた。

「そろそろイヴも歩かせなくちゃ」

「ん? リリスもこのくらいの頃は抱っこだったぞ」

「覚えてないわ」

 首を傾げる夫婦の会話に、アスタロトが首を突っ込む。ようやく我に返ったのだ。

「イヴ姫の話は後です。それより、あの焼き菓子はリリス様のお手製ですか?」

「そうよ、ずっと昔に作ったの」

 リリスは生まれて二十年余り。外見そのままの短い人生しか送っていない。その彼女の「ずっと昔」は、おそらく十数年だろう。

「だが、オレがリリスの作った菓子を忘れるわけないぞ」

 絶対に見極めるし、記憶に焼きついている。記憶力に妙な自信を見せる魔王の断言に、アスタロトとルキフェルは顔を見合わせた。リリスに関することなら、異常な記憶力を誇るルシファーだ。忘れたとは考えにくい。

 もし今、3歳の春に着せた服リストを要求しても、あっさり毎日思い出して手持ちのコレクションと一緒に思い出も提示するくらいの能力があった。その彼が覚えていないのだ。リリスの思い違いか。そう結論付けた二人は同時に頷いた。

「あれはアデーレと一緒に作ったの。それで食べずに保管したのよ。後で出そうと思って忘れちゃったのね。なくなっちゃった」

 状況は半分ほど理解できたが、どこへ保管し、どうやってルシファーが収納したのか。しかも収納した記憶がないルシファーが、唸る。

「そもそも収納した記憶がない。どうやって入ったんだ?」

「……ついにボケたんでしょうか」

「ルシファーって僕の五倍くらい生きてるじゃん」

 気の毒そうに見つめる側近達に、むっとしたルシファーが言い募る。

「絶対にオレはしまってないからな!」

「当然じゃない、私がしまったんだもの」

 またもや、リリスがとんでも発言をした。抱っこされたイヴは腕を伸ばし、さらにルシファーによじ登ろうとする。どうやら隣で首を傾げるアスタロトのツノに触れたいらしい。頑張るが、落ちそうになってルシファーに抱き直されてしまった。

「話が通じないな」

「いつものことです」

「リリスがしまったら、どうしてルシファーが引っ張り出すのさ」

「知らないわ」

 自分の収納へ片付けた記憶があるリリスは、その後の焼き菓子の動きを尋ねられても知らない。素直にそう答えた。謎は深まるばかり。

「どちらにしろ、私がアデーレと焼いたのよ。美味しかった?」

「アスタロトのツノが変形したけどね。味は美味しかったよ」

 ルキフェルが苦笑いする。立派になったツノを撫でたアスタロトも、ルキフェルを示した。

「ルキフェルの翼が一対増えましたよ。味は満足です」

「美味しかったならいいわ」

 危険だから誰かに食べさせるのはやめよう。話の方向性が固まった大公達は、ひとまず焼き菓子を隔離した。

「あっ!!」

 突然大声を出したルシファーに、全員が注目する。

「オレ、あの菓子を食べてないぞ」

 リリスが作ったのに、味わっていない。すごく重要そうに言われ、ルキフェルが脱力し……アスタロトは二度目の説教の準備を始めた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...