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第2章 呼ばれざる客の訪問
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「……そういうことか」
自分の失態だ。この城で痕跡を消したから、最高のハンターを滅ぼした純血種がいると、情報を撒いてしまった。
後ろからシリルが袖を引く。そっと後ろから顔を出したシリルの指が、幼い仕草で三つ編みの先を握った。シリルの些細な所作に、心は乱れる。失いたくない存在なのだ、シリルなしで生きるなど考えられないから……3ヶ月前の心臓が凍るような痛みを、再び味わいたくなかった。
「大丈夫だ」
囁き、そっとシリルの手に触れる。
ライアンは振り返らない、だから知らなかった。そのときに浮かべたシリルの満足そうな微笑の意味と、残酷な色を刷いた口元を。
「ライアン……」
ゆっくりとシリルの手がライアンの首に絡みつき、首筋に唇を押し当てる。僅かなキスの間に流れ込んだ甘い血を、ごくりと喉を鳴らして飲み下した。紅い眼差しは色を濃くし、まるで闇色だ。
少し見つめあった後、ライアンはくしゃっと黒髪を撫でた。
「その子供は……まさか?!」
「ライアン、あんたっ」
人間を裏切るのか?!
叫んだ2人は顔を見合わせると、一瞬で戦闘態勢を整えた。抜いたナイフは綺麗に磨かれており、三日月の僅かな月光に鈍く輝く。
時間の流れから隔離されているシリルには、あまりにゆっくりとしたスローモーションのような動きに見えた。人間の動きなど、いかに素早くても高が知れている。自分が敵わないスピードと能力を誇るのは、ライアン1人だけだった。
「だったら?」
肯定する響きを持たせた問いかけに、ハンターの目が厳しくなる。愛用のナイフを左手で抜いて、現れた銀色の輝きに舌を這わせた。久しぶりの興奮が体を支配する。
戦場の緊迫した空気が、ライアンは好きだった。ぴりぴりする緊張感も、ぞくぞくする殺気の鋭さも、この身を楽しませてくれる。
殺しさえしなければ、シリルに記憶を消してもらうことも可能だ。相手の能力を推し量りながら、ゆっくりと1歩踏み出した。その直後に叩きつけられる敵意に目を伏せ、自嘲する。
人間じゃない、と思い知らされる瞬間だった。
「シリル、下ってろ」
お前を守るのはオレだと、暗に含ませた言葉に頷く気配がした。三つ編みの先を引っ張っていた指が離され、ライアンはさらに足を進める。
躊躇う仕草はなく、目に映る敵のナイフも目に入っていない様子で、軽い足取りで絨毯を踏みしめた。しなやかな足取りは音を立てず、猫科の猛獣に似た所作が、彼の瞬発力と殺傷能力の高さを物語る。
「吸血鬼に誑かされたのか!」
にっと口元に笑みを浮かべ、ライアンは一気にハンターとの距離を詰めた。一呼吸で目の前に立つ青年に手出しできぬまま、短髪の男が床に沈む。
本来、ライアンの身体能力は吸血鬼のそれを遥かに凌ぐ。人間など相手になる筈もなかった。
「……あんたが……裏切る、なんて」
掠れた声と震えるナイフ、青ざめた顔が印象的だ。肩の力を抜いたライアンは、笑顔でナイフを突きつけた。
「裏切る? 人聞き悪いこと言うなよ」
オレは最初から人間じゃない、味方なんかじゃなかった。吸血鬼に襲われる人間を助けようなんて、考えたこともない。自分の成長が止まった理由を知りたくて、そのために長寿の吸血鬼に答えを求めただけなのだ。
そして――答えと、生涯の伴侶を得た。
自分の失態だ。この城で痕跡を消したから、最高のハンターを滅ぼした純血種がいると、情報を撒いてしまった。
後ろからシリルが袖を引く。そっと後ろから顔を出したシリルの指が、幼い仕草で三つ編みの先を握った。シリルの些細な所作に、心は乱れる。失いたくない存在なのだ、シリルなしで生きるなど考えられないから……3ヶ月前の心臓が凍るような痛みを、再び味わいたくなかった。
「大丈夫だ」
囁き、そっとシリルの手に触れる。
ライアンは振り返らない、だから知らなかった。そのときに浮かべたシリルの満足そうな微笑の意味と、残酷な色を刷いた口元を。
「ライアン……」
ゆっくりとシリルの手がライアンの首に絡みつき、首筋に唇を押し当てる。僅かなキスの間に流れ込んだ甘い血を、ごくりと喉を鳴らして飲み下した。紅い眼差しは色を濃くし、まるで闇色だ。
少し見つめあった後、ライアンはくしゃっと黒髪を撫でた。
「その子供は……まさか?!」
「ライアン、あんたっ」
人間を裏切るのか?!
叫んだ2人は顔を見合わせると、一瞬で戦闘態勢を整えた。抜いたナイフは綺麗に磨かれており、三日月の僅かな月光に鈍く輝く。
時間の流れから隔離されているシリルには、あまりにゆっくりとしたスローモーションのような動きに見えた。人間の動きなど、いかに素早くても高が知れている。自分が敵わないスピードと能力を誇るのは、ライアン1人だけだった。
「だったら?」
肯定する響きを持たせた問いかけに、ハンターの目が厳しくなる。愛用のナイフを左手で抜いて、現れた銀色の輝きに舌を這わせた。久しぶりの興奮が体を支配する。
戦場の緊迫した空気が、ライアンは好きだった。ぴりぴりする緊張感も、ぞくぞくする殺気の鋭さも、この身を楽しませてくれる。
殺しさえしなければ、シリルに記憶を消してもらうことも可能だ。相手の能力を推し量りながら、ゆっくりと1歩踏み出した。その直後に叩きつけられる敵意に目を伏せ、自嘲する。
人間じゃない、と思い知らされる瞬間だった。
「シリル、下ってろ」
お前を守るのはオレだと、暗に含ませた言葉に頷く気配がした。三つ編みの先を引っ張っていた指が離され、ライアンはさらに足を進める。
躊躇う仕草はなく、目に映る敵のナイフも目に入っていない様子で、軽い足取りで絨毯を踏みしめた。しなやかな足取りは音を立てず、猫科の猛獣に似た所作が、彼の瞬発力と殺傷能力の高さを物語る。
「吸血鬼に誑かされたのか!」
にっと口元に笑みを浮かべ、ライアンは一気にハンターとの距離を詰めた。一呼吸で目の前に立つ青年に手出しできぬまま、短髪の男が床に沈む。
本来、ライアンの身体能力は吸血鬼のそれを遥かに凌ぐ。人間など相手になる筈もなかった。
「……あんたが……裏切る、なんて」
掠れた声と震えるナイフ、青ざめた顔が印象的だ。肩の力を抜いたライアンは、笑顔でナイフを突きつけた。
「裏切る? 人聞き悪いこと言うなよ」
オレは最初から人間じゃない、味方なんかじゃなかった。吸血鬼に襲われる人間を助けようなんて、考えたこともない。自分の成長が止まった理由を知りたくて、そのために長寿の吸血鬼に答えを求めただけなのだ。
そして――答えと、生涯の伴侶を得た。
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