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第2章 呼ばれざる客の訪問
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失いたくない。
自分1人が生き残って死ねない……そんな孤独の世界は嫌だった。
「ライアン」
振り返ったライアンは、ごくりと喉を鳴らした。
嫣然と笑うシリルの楽しそうな瞳と、歪められた口元――まさか?!
「シリル、おまえ……」
「何を憂う? 人間など価値はない」
家畜以下だと嘲笑うシリルは艶っぽく、自分の血で塗れた唇でキスを強請る。誘われて右手を取り、跪いて接吻けた。指に唇を押し当て、次いで耳に触れるシリルの吐息に気づいて顔を上げれば、目の前の魅惑的な唇が笑みを浮かべる。
「……おまえが仕組んだ、のか」
振り返れば思い当たる。
シリルが人前で吸血行為を行ったこと。いくら三日月の時期とはいえ、城内へ人間の侵入を許したこと。アレックスへ伸ばした手がナイフを避けなかったこと。以前は簡単にライアンのナイフを退けたのに。
独占欲を満たすために、ライアンの知り合いだと理解していて殺させた。いや、もしかしたら情報をバラ撒いて誘き寄せたのさえ、シリルかも知れない。数千年を生きたシリルにとって、人間を操ることなど簡単だろう。
今まで忌々しそうにしながらもライアンの希望に沿って人間を逃がしてくれたのは、ハンター達を洗脳する為だったのだろうか。
3ヶ月前に2手に別れたハンター達の襲撃は?
あれでシリルを失うことを極端に恐れ出したライアンの心も、当時から操られていたとしたら。
疑い出せばキリがなかった。
酷薄に笑うシリルの口元が、小さく動く。
「お前は俺のモノだ」
上から重ねられるキスを受け、舌を絡めて熱い接吻けを交わす。流れ込む唾液は血の味がして、自分達に相応しい気がした。
目の前に死体が転がる現状を無視し、ライアンは片膝をついたままシリルを見上げる。柔らかい黒髪に縁取られた白い顔は美しく、魅惑的だった。
中にどんな悪魔が潜んでいようと……。
「ああ、オレはおまえのもんだ」
以前に誓った宣誓なら、今更迷う必要もない。
――完全に堕ちた。
絶対に失えない男を、この手に受け止める。
ライアンの知り合いが行方を探していると知って、怖くなった。不吉な予感はいつも消えない。彼が俺ではなく友人を選んだら?
今までの孤独は耐えられたが、一度知った甘い時間を失うことは出来ない。ライアンが人間サイドに戻らないよう、自分の隣を離れられないよう、雁字搦めに縛りたかった。
強くて美しくてしなやかな獣のような男だ……誰にも渡さない!
足元で跪く愛しい存在に身を委ね、その首に手を回した。しな垂れかかる体を抱き締めた男は、もう逃げられはしない。
頚動脈の動きを唇で感じながら、触れた肌に囁いた。
「……滅びるまで、共に」
自分1人が生き残って死ねない……そんな孤独の世界は嫌だった。
「ライアン」
振り返ったライアンは、ごくりと喉を鳴らした。
嫣然と笑うシリルの楽しそうな瞳と、歪められた口元――まさか?!
「シリル、おまえ……」
「何を憂う? 人間など価値はない」
家畜以下だと嘲笑うシリルは艶っぽく、自分の血で塗れた唇でキスを強請る。誘われて右手を取り、跪いて接吻けた。指に唇を押し当て、次いで耳に触れるシリルの吐息に気づいて顔を上げれば、目の前の魅惑的な唇が笑みを浮かべる。
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振り返れば思い当たる。
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独占欲を満たすために、ライアンの知り合いだと理解していて殺させた。いや、もしかしたら情報をバラ撒いて誘き寄せたのさえ、シリルかも知れない。数千年を生きたシリルにとって、人間を操ることなど簡単だろう。
今まで忌々しそうにしながらもライアンの希望に沿って人間を逃がしてくれたのは、ハンター達を洗脳する為だったのだろうか。
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あれでシリルを失うことを極端に恐れ出したライアンの心も、当時から操られていたとしたら。
疑い出せばキリがなかった。
酷薄に笑うシリルの口元が、小さく動く。
「お前は俺のモノだ」
上から重ねられるキスを受け、舌を絡めて熱い接吻けを交わす。流れ込む唾液は血の味がして、自分達に相応しい気がした。
目の前に死体が転がる現状を無視し、ライアンは片膝をついたままシリルを見上げる。柔らかい黒髪に縁取られた白い顔は美しく、魅惑的だった。
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「ああ、オレはおまえのもんだ」
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――完全に堕ちた。
絶対に失えない男を、この手に受け止める。
ライアンの知り合いが行方を探していると知って、怖くなった。不吉な予感はいつも消えない。彼が俺ではなく友人を選んだら?
今までの孤独は耐えられたが、一度知った甘い時間を失うことは出来ない。ライアンが人間サイドに戻らないよう、自分の隣を離れられないよう、雁字搦めに縛りたかった。
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足元で跪く愛しい存在に身を委ね、その首に手を回した。しな垂れかかる体を抱き締めた男は、もう逃げられはしない。
頚動脈の動きを唇で感じながら、触れた肌に囁いた。
「……滅びるまで、共に」
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