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第3章 守護者の見極めと嫉妬
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「へぇ、やれるんならやってみろ」
ライアンに気圧されることなく、少年は三日月型の刃を持つ剣を取り出す。それが青龍刀と呼ばれるものだと知らないライアンは、すっと目を眇めて間合いを計った。
一瞬で跳躍した少年が切りかかるのを、ナイフで弾く。かなり硬い金属で鍛えたナイフが、キンと乾いた音を立てた。腕に痺れがくる程の振り下ろしに、口元の笑みが深まる。
本当に楽しめそうだ。
手ごたえのない相手にウンザリしていたライアンの表情が一変し、弾いたナイフを突き出す。ふわっと軽い所作で避けられ、続いて蹴りを放った。しゃがみこんで躱した少年の青龍刀が下から繰り出され、咄嗟に身を捩る。ギリギリの位置を抜けた刃が、三つ編みを掠めた。
「……っぶね!」
思わず呟いたライアンの背に、解けた髪が散らばる。光を弾く金髪は肩のあたりで斬りおとされ、波打って広がった。鬱陶しそうにライアンが掻き上げた。
「避けきるとは……大したものだ」
感心しているのか、バカにしているのか。紙一重の賞賛に、ライアンはぺろりと唇を舐める。
「そっちもなッ!」
叫んだ声が余韻を引くまま、予備動作なく跳躍したライアンがナイフを左手に持ち替えて薙いだ。ふわっと髪が視界を遮り、次の瞬間かすかな血の臭いが広まる。
「……っ……」
息を呑んだ声と血の臭いに、仕掛けたライアンの口元が歪められた。
「貴様っ!」
叫んだ少年の右腕を掠めた傷は、表面を切り裂いただけに過ぎない。もう少し深く抉ったつもりのライアンにしてみれば不満だが、相手にしてみれば屈辱でさえあるのだろう。
かなり自信家のようだった。
「リスキア」
加勢せずに見つめていた青年が近づき、少年の名を呼ぶ。不思議な響きは、彼の衣装と同じく異国のものらしい。
そっと差し伸べた手で傷を確認し始めた。どこかで見たような風景に、ライアンは眉を顰める。既視感を振り切り、たいした傷でもないのに確認する青年の行為を見守った。
「大丈夫だ、アイザック」
苛立ちに絞り出すような声が響き、少年は青龍刀をライアンの方へ突きつける。自分の血を左手の指先で掬い取り、青龍刀の表面へ走らせた。
ぼうっと光る刃に、ライアンは不吉な予感を覚えて、一歩下る。
あれは危険だ!
警告する本能に従い、さらに後退った。
目を凝らさねば気づかないほどの輝きは、やがて少しずつ明るさを増す。その光ごと振り下ろそうと構えたリスキアは、突然動きを止めた。
「……シリル?!」
リスキアを挟んだ向こう側、城の廊下へ続くドアに寄りかかって立つシリルに気づいて、ライアンが叫んだ。咄嗟に床を蹴り、転がり込むようにしてシリルとリスキアの間に立つ。
「ライアン、リスキアは一族だ。心配は要らない」
緊張しているライアンの腕にぽんと手を当て、少し押しのけるようにして前に出る。
一族……つまり、彼も吸血鬼なのだと聞き、ライアンは溜め息をついた。
ライアンに気圧されることなく、少年は三日月型の刃を持つ剣を取り出す。それが青龍刀と呼ばれるものだと知らないライアンは、すっと目を眇めて間合いを計った。
一瞬で跳躍した少年が切りかかるのを、ナイフで弾く。かなり硬い金属で鍛えたナイフが、キンと乾いた音を立てた。腕に痺れがくる程の振り下ろしに、口元の笑みが深まる。
本当に楽しめそうだ。
手ごたえのない相手にウンザリしていたライアンの表情が一変し、弾いたナイフを突き出す。ふわっと軽い所作で避けられ、続いて蹴りを放った。しゃがみこんで躱した少年の青龍刀が下から繰り出され、咄嗟に身を捩る。ギリギリの位置を抜けた刃が、三つ編みを掠めた。
「……っぶね!」
思わず呟いたライアンの背に、解けた髪が散らばる。光を弾く金髪は肩のあたりで斬りおとされ、波打って広がった。鬱陶しそうにライアンが掻き上げた。
「避けきるとは……大したものだ」
感心しているのか、バカにしているのか。紙一重の賞賛に、ライアンはぺろりと唇を舐める。
「そっちもなッ!」
叫んだ声が余韻を引くまま、予備動作なく跳躍したライアンがナイフを左手に持ち替えて薙いだ。ふわっと髪が視界を遮り、次の瞬間かすかな血の臭いが広まる。
「……っ……」
息を呑んだ声と血の臭いに、仕掛けたライアンの口元が歪められた。
「貴様っ!」
叫んだ少年の右腕を掠めた傷は、表面を切り裂いただけに過ぎない。もう少し深く抉ったつもりのライアンにしてみれば不満だが、相手にしてみれば屈辱でさえあるのだろう。
かなり自信家のようだった。
「リスキア」
加勢せずに見つめていた青年が近づき、少年の名を呼ぶ。不思議な響きは、彼の衣装と同じく異国のものらしい。
そっと差し伸べた手で傷を確認し始めた。どこかで見たような風景に、ライアンは眉を顰める。既視感を振り切り、たいした傷でもないのに確認する青年の行為を見守った。
「大丈夫だ、アイザック」
苛立ちに絞り出すような声が響き、少年は青龍刀をライアンの方へ突きつける。自分の血を左手の指先で掬い取り、青龍刀の表面へ走らせた。
ぼうっと光る刃に、ライアンは不吉な予感を覚えて、一歩下る。
あれは危険だ!
警告する本能に従い、さらに後退った。
目を凝らさねば気づかないほどの輝きは、やがて少しずつ明るさを増す。その光ごと振り下ろそうと構えたリスキアは、突然動きを止めた。
「……シリル?!」
リスキアを挟んだ向こう側、城の廊下へ続くドアに寄りかかって立つシリルに気づいて、ライアンが叫んだ。咄嗟に床を蹴り、転がり込むようにしてシリルとリスキアの間に立つ。
「ライアン、リスキアは一族だ。心配は要らない」
緊張しているライアンの腕にぽんと手を当て、少し押しのけるようにして前に出る。
一族……つまり、彼も吸血鬼なのだと聞き、ライアンは溜め息をついた。
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