45 / 92
第5章 悪魔は女神を踊らせる
45
しおりを挟む
※流血表現、吸血行為があります。
***************************************
「きゃぁあ……」
「平気だ。すぐに塞がる」
「でもっ……」
「いいから! 必要なんだ」
騒いだリンカティーナを安心させる言葉を吐きながら、傷から吸い上げた鮮血を口移しでシリルに与えた。迷いながら受け取ったシリルは、離れた唇の赤い色に泣きそうな表情で目を伏せる。
血を得るのは生きる術なのに、初めて罪悪感を覚えた。
すでに塞がり始めた傷をシャツの袖で隠し、シリルを抱き寄せる。人間の血と違い、不老不死の民であるライアンの血液が吸血鬼に与える効果は桁違いだった。すぐに頬が染まり、体温が戻り始める。
「気にするなよ」
囁いても俯いているシリル。シンと静まってしまった場で、フレディは紅茶のポットを手にした。
「お茶、新しく淹れ直しますね。リスキアは中国茶でしょう? アイザックも同じでいいですか?」
すでに顔見知りの2人に好みを確認し、彼は明るく振舞いながら場の緊張を解いていく。目の前で見た血に顔色を変えていたリンカティーナも落ち着き、ニクスは安心したように抱き締めていた腕を解いた。
「悪いけど、オレとシリルはいいや」
目配せで意味を察したのか。フレディは優雅な仕草で了承の頷きを返す。恋人の細い体を抱き上げると、ライアンは女性陣に会釈して部屋を後にした。
2人きりになった部屋で、シリルは俯いていた顔を上げた。優しい笑みを浮かべる恋人に、何かを言いかけて……言葉を失う。
「シリルは、後悔してるのか?」
漠然とした質問に、目を見開いた吸血鬼は唇を噛み締めた。それが肯定に思えて、ライアンは苦笑しながら恋人を抱き寄せる。ベッドの上で向かい合ったまま座り、吸い込まれそうな紅い瞳を覗き込んで待った。
視線を彷徨わせながら、ようやくライアンを見つめてくれた美しい色に誘われて、そっと瞼に接吻ける。触れるだけのキスが擽ったいのか、肩を竦めたシリルの耳に囁いた。
「オレはシリルの役に立てて嬉しいよ。こんなにキレイな存在を独り占めしてるんだから、もっと我が侭に振舞ったらいい」
「……だが」
「恋人に我が侭も言わせてやれない男じゃ、オレは『甲斐性なし』の烙印押されちゃうぜ」
くすくす笑って、いつもの唯我独尊な恋人を望む。誰よりも孤独を知っていて、それすら艶に変えてしまう――世界で唯一の純粋な魂。この存在を自由に甘えさせてやれなければ、自分の存在価値を見失うほど、ライアンにとってシリルは世界そのものだった。
どう伝えたら、理解してもらえるだろう?
言葉は薄っぺらくて、キスじゃ物足りなくて、抱き合っても伝え切れない。この血を与えることに喜びを感じているのに、罪悪感を感じているらしい優しい吸血鬼へどう説明したら、愛情を笑顔で受け取って貰えるだろうか。
***************************************
「きゃぁあ……」
「平気だ。すぐに塞がる」
「でもっ……」
「いいから! 必要なんだ」
騒いだリンカティーナを安心させる言葉を吐きながら、傷から吸い上げた鮮血を口移しでシリルに与えた。迷いながら受け取ったシリルは、離れた唇の赤い色に泣きそうな表情で目を伏せる。
血を得るのは生きる術なのに、初めて罪悪感を覚えた。
すでに塞がり始めた傷をシャツの袖で隠し、シリルを抱き寄せる。人間の血と違い、不老不死の民であるライアンの血液が吸血鬼に与える効果は桁違いだった。すぐに頬が染まり、体温が戻り始める。
「気にするなよ」
囁いても俯いているシリル。シンと静まってしまった場で、フレディは紅茶のポットを手にした。
「お茶、新しく淹れ直しますね。リスキアは中国茶でしょう? アイザックも同じでいいですか?」
すでに顔見知りの2人に好みを確認し、彼は明るく振舞いながら場の緊張を解いていく。目の前で見た血に顔色を変えていたリンカティーナも落ち着き、ニクスは安心したように抱き締めていた腕を解いた。
「悪いけど、オレとシリルはいいや」
目配せで意味を察したのか。フレディは優雅な仕草で了承の頷きを返す。恋人の細い体を抱き上げると、ライアンは女性陣に会釈して部屋を後にした。
2人きりになった部屋で、シリルは俯いていた顔を上げた。優しい笑みを浮かべる恋人に、何かを言いかけて……言葉を失う。
「シリルは、後悔してるのか?」
漠然とした質問に、目を見開いた吸血鬼は唇を噛み締めた。それが肯定に思えて、ライアンは苦笑しながら恋人を抱き寄せる。ベッドの上で向かい合ったまま座り、吸い込まれそうな紅い瞳を覗き込んで待った。
視線を彷徨わせながら、ようやくライアンを見つめてくれた美しい色に誘われて、そっと瞼に接吻ける。触れるだけのキスが擽ったいのか、肩を竦めたシリルの耳に囁いた。
「オレはシリルの役に立てて嬉しいよ。こんなにキレイな存在を独り占めしてるんだから、もっと我が侭に振舞ったらいい」
「……だが」
「恋人に我が侭も言わせてやれない男じゃ、オレは『甲斐性なし』の烙印押されちゃうぜ」
くすくす笑って、いつもの唯我独尊な恋人を望む。誰よりも孤独を知っていて、それすら艶に変えてしまう――世界で唯一の純粋な魂。この存在を自由に甘えさせてやれなければ、自分の存在価値を見失うほど、ライアンにとってシリルは世界そのものだった。
どう伝えたら、理解してもらえるだろう?
言葉は薄っぺらくて、キスじゃ物足りなくて、抱き合っても伝え切れない。この血を与えることに喜びを感じているのに、罪悪感を感じているらしい優しい吸血鬼へどう説明したら、愛情を笑顔で受け取って貰えるだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
希望したのは、医療班だった。
それなのに、配属されたのはなぜか“炊事班”。
「役立たずの掃き溜め」と呼ばれるその場所で、僕は黙々と鍋をかき混ぜる。
誰にも褒められなくても、誰かが「おいしい」と笑ってくれるなら、それだけでいいと思っていた。
……けれど、婚約者に裏切られていた。
軍から逃げ出した先で、炊き出しをすることに。
そんな僕を追いかけてきたのは、王国軍の最高司令官――
“雲の上の存在”カイゼル・ルクスフォルト大公閣下だった。
「君の料理が、兵の士気を支えていた」
「君を愛している」
まさか、ただの炊事兵だった僕に、こんな言葉を向けてくるなんて……!?
さらに、裏切ったはずの元婚約者まで現れて――!?
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる