【完結】紅く染まる夜の静寂に ~吸血鬼はハンターに溺愛される~

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第5章 悪魔は女神を踊らせる

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※流血表現、吸血行為があります。
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「きゃぁあ……」

「平気だ。すぐに塞がる」

「でもっ……」

「いいから! 必要なんだ」

 騒いだリンカティーナを安心させる言葉を吐きながら、傷から吸い上げた鮮血を口移しでシリルに与えた。迷いながら受け取ったシリルは、離れた唇の赤い色に泣きそうな表情で目を伏せる。

 血を得るのは生きる術なのに、初めて罪悪感を覚えた。

 すでに塞がり始めた傷をシャツの袖で隠し、シリルを抱き寄せる。人間の血と違い、不老不死の民であるライアンの血液が吸血鬼に与える効果は桁違いだった。すぐに頬が染まり、体温が戻り始める。

「気にするなよ」

 囁いても俯いているシリル。シンと静まってしまった場で、フレディは紅茶のポットを手にした。

「お茶、新しく淹れ直しますね。リスキアは中国茶でしょう? アイザックも同じでいいですか?」

 すでに顔見知りの2人に好みを確認し、彼は明るく振舞いながら場の緊張を解いていく。目の前で見た血に顔色を変えていたリンカティーナも落ち着き、ニクスは安心したように抱き締めていた腕を解いた。

「悪いけど、オレとシリルはいいや」

 目配せで意味を察したのか。フレディは優雅な仕草で了承の頷きを返す。恋人の細い体を抱き上げると、ライアンは女性陣に会釈して部屋を後にした。





 2人きりになった部屋で、シリルは俯いていた顔を上げた。優しい笑みを浮かべる恋人に、何かを言いかけて……言葉を失う。

「シリルは、後悔してるのか?」

 漠然とした質問に、目を見開いた吸血鬼は唇を噛み締めた。それが肯定に思えて、ライアンは苦笑しながら恋人を抱き寄せる。ベッドの上で向かい合ったまま座り、吸い込まれそうな紅い瞳を覗き込んで待った。

 視線を彷徨わせながら、ようやくライアンを見つめてくれた美しい色に誘われて、そっと瞼に接吻ける。触れるだけのキスが擽ったいのか、肩を竦めたシリルの耳に囁いた。

「オレはシリルの役に立てて嬉しいよ。こんなにキレイな存在を独り占めしてるんだから、もっと我が侭に振舞ったらいい」

「……だが」

「恋人に我が侭も言わせてやれない男じゃ、オレは『甲斐性なし』の烙印押されちゃうぜ」

 くすくす笑って、いつもの唯我独尊な恋人を望む。誰よりも孤独を知っていて、それすら艶に変えてしまう――世界で唯一の純粋な魂。この存在を自由に甘えさせてやれなければ、自分の存在価値を見失うほど、ライアンにとってシリルは世界そのものだった。

 どう伝えたら、理解してもらえるだろう?

 言葉は薄っぺらくて、キスじゃ物足りなくて、抱き合っても伝え切れない。この血を与えることに喜びを感じているのに、罪悪感を感じているらしい優しい吸血鬼へどう説明したら、愛情を笑顔で受け取って貰えるだろうか。
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