可愛い弟を溺愛しながら生きていく

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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22.行列は遅々として進まない

 しばらくバシリオに買っていく土産で盛り上がるが、馬車は一向に進まない。止まったままなので、軽くノックした。すぐに御者が応じる。

「渋滞を抜けるのは時間がかかりそうか?」

「現在、確認しております」

 侍女ララウは同席してもらったが、侍従が一人補佐役として同行している。彼が走って確認しに向かったらしい。窓から身を乗り出して距離を確認し、眉根を寄せる。まさか、先頭まで確認にいったのか? それは大変だろうに。

「どうでした? お姉様」

「侍従が確認しているようだが、先頭までかなり距離があるぞ。これでは昼飯までに到着するのは無理そうだ」

 朝出てきた時間が早いため、昼食は王都でいつもの定食屋へ寄るつもりだった。だが、昼食の営業時間内に到着できないかもしれない。そう伝えたら、シルベストレも頭を出して行列を確認する。危ないので、腰に腕を回して支えた。

「ありがとうございます、お姉様。これは遠いですね。動いていない気がします」

「いっそ歩いて行ったほうが早いかもしれないぞ。その場合は、私が抱いていこう」

 もちろん横抱きで、お姫様抱っこという形だ。シルベストレも自分の腕で抱き着くため安定するし、私も気分が上がるからな。そんな雑談をしていたら、少しだけ列が動いた。と言っても、馬車一台分だけだ。

 左に寄せて止まる我々の馬車の右側を、別の馬車が通り過ぎる。さきほど行列の中にいた馬車のようだ。諦めて別の町へ向かうつもりなら、早く動くほうがいい。夕方になってからでは、盗賊が出て危険だった。こうやって馬車が抜けるたび、少しずつ前に進むかもしれない。

 ルカが騒ぐので下ろしてやると、近くの馬車でも子供を下ろしていた。どうやらトイレらしい。御者や使用人が背を向けて隠しながら、用を足していた。ルカは動物なので問題ないが、これがベスだったら一大事だぞ。

「ララウ、どう思う?」

「本日は諦めたられたほうがいいかと思います。先ほどの馬車は商人のようでした」

 多くを語らないが、観察眼は鋭い。商人達が諦めるということは、もっと前から行列が動いていない可能性がある。またはそういった情報を得たか。

「ふむ。人だけでも入れないのだろうか」

「前に使った門なら入れそうですけど?」

 ここまで来て戻るのも……と唸る私の呟きに、シルベストレはさらりと道を示す。正面の門であるここを通らずとも、古くて忘れられた門が東側にある。そこはどうだろうと、文字通り抜け道を口にする弟に苦笑いした。

「いや、やめておこう。父上に叱られるのは御免だ」

 これからえにしを繋ぐ可能性のある国に、不法行為はまずいだろう。明日出直そうと相談していたところに、御者から声がかかった。

「失礼いたします。動くようです」

 言葉に続いて、馬車が動き出す。先ほどと違い、今度はしっかりと進んだ。速度が遅いのは、渋滞が解消していく途中なので仕方ない。一度停車し、戻った侍従を乗せてまた走り出した。

「なんだったんだ?」

「不法入国者の情報が入り、一時的に門を閉じて王都内を探していたそうです」

 侍従がもたらした情報に目を見開く。迷惑なことだ、そのせいで可愛いベスを自慢する時間が減り、昼食を食べ損ねるじゃないか。万が一、その不法者を見つけたら、叩きのめしてやる!
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