22 / 90
22.行列は遅々として進まない
しばらくバシリオに買っていく土産で盛り上がるが、馬車は一向に進まない。止まったままなので、軽くノックした。すぐに御者が応じる。
「渋滞を抜けるのは時間がかかりそうか?」
「現在、確認しております」
侍女ララウは同席してもらったが、侍従が一人補佐役として同行している。彼が走って確認しに向かったらしい。窓から身を乗り出して距離を確認し、眉根を寄せる。まさか、先頭まで確認にいったのか? それは大変だろうに。
「どうでした? お姉様」
「侍従が確認しているようだが、先頭までかなり距離があるぞ。これでは昼飯までに到着するのは無理そうだ」
朝出てきた時間が早いため、昼食は王都でいつもの定食屋へ寄るつもりだった。だが、昼食の営業時間内に到着できないかもしれない。そう伝えたら、シルベストレも頭を出して行列を確認する。危ないので、腰に腕を回して支えた。
「ありがとうございます、お姉様。これは遠いですね。動いていない気がします」
「いっそ歩いて行ったほうが早いかもしれないぞ。その場合は、私が抱いていこう」
もちろん横抱きで、お姫様抱っこという形だ。シルベストレも自分の腕で抱き着くため安定するし、私も気分が上がるからな。そんな雑談をしていたら、少しだけ列が動いた。と言っても、馬車一台分だけだ。
左に寄せて止まる我々の馬車の右側を、別の馬車が通り過ぎる。さきほど行列の中にいた馬車のようだ。諦めて別の町へ向かうつもりなら、早く動くほうがいい。夕方になってからでは、盗賊が出て危険だった。こうやって馬車が抜けるたび、少しずつ前に進むかもしれない。
ルカが騒ぐので下ろしてやると、近くの馬車でも子供を下ろしていた。どうやらトイレらしい。御者や使用人が背を向けて隠しながら、用を足していた。ルカは動物なので問題ないが、これがベスだったら一大事だぞ。
「ララウ、どう思う?」
「本日は諦めたられたほうがいいかと思います。先ほどの馬車は商人のようでした」
多くを語らないが、観察眼は鋭い。商人達が諦めるということは、もっと前から行列が動いていない可能性がある。またはそういった情報を得たか。
「ふむ。人だけでも入れないのだろうか」
「前に使った門なら入れそうですけど?」
ここまで来て戻るのも……と唸る私の呟きに、シルベストレはさらりと道を示す。正面の門であるここを通らずとも、古くて忘れられた門が東側にある。そこはどうだろうと、文字通り抜け道を口にする弟に苦笑いした。
「いや、やめておこう。父上に叱られるのは御免だ」
これから縁を繋ぐ可能性のある国に、不法行為はまずいだろう。明日出直そうと相談していたところに、御者から声がかかった。
「失礼いたします。動くようです」
言葉に続いて、馬車が動き出す。先ほどと違い、今度はしっかりと進んだ。速度が遅いのは、渋滞が解消していく途中なので仕方ない。一度停車し、戻った侍従を乗せてまた走り出した。
「なんだったんだ?」
「不法入国者の情報が入り、一時的に門を閉じて王都内を探していたそうです」
侍従がもたらした情報に目を見開く。迷惑なことだ、そのせいで可愛いベスを自慢する時間が減り、昼食を食べ損ねるじゃないか。万が一、その不法者を見つけたら、叩きのめしてやる!
「渋滞を抜けるのは時間がかかりそうか?」
「現在、確認しております」
侍女ララウは同席してもらったが、侍従が一人補佐役として同行している。彼が走って確認しに向かったらしい。窓から身を乗り出して距離を確認し、眉根を寄せる。まさか、先頭まで確認にいったのか? それは大変だろうに。
「どうでした? お姉様」
「侍従が確認しているようだが、先頭までかなり距離があるぞ。これでは昼飯までに到着するのは無理そうだ」
朝出てきた時間が早いため、昼食は王都でいつもの定食屋へ寄るつもりだった。だが、昼食の営業時間内に到着できないかもしれない。そう伝えたら、シルベストレも頭を出して行列を確認する。危ないので、腰に腕を回して支えた。
「ありがとうございます、お姉様。これは遠いですね。動いていない気がします」
「いっそ歩いて行ったほうが早いかもしれないぞ。その場合は、私が抱いていこう」
もちろん横抱きで、お姫様抱っこという形だ。シルベストレも自分の腕で抱き着くため安定するし、私も気分が上がるからな。そんな雑談をしていたら、少しだけ列が動いた。と言っても、馬車一台分だけだ。
左に寄せて止まる我々の馬車の右側を、別の馬車が通り過ぎる。さきほど行列の中にいた馬車のようだ。諦めて別の町へ向かうつもりなら、早く動くほうがいい。夕方になってからでは、盗賊が出て危険だった。こうやって馬車が抜けるたび、少しずつ前に進むかもしれない。
ルカが騒ぐので下ろしてやると、近くの馬車でも子供を下ろしていた。どうやらトイレらしい。御者や使用人が背を向けて隠しながら、用を足していた。ルカは動物なので問題ないが、これがベスだったら一大事だぞ。
「ララウ、どう思う?」
「本日は諦めたられたほうがいいかと思います。先ほどの馬車は商人のようでした」
多くを語らないが、観察眼は鋭い。商人達が諦めるということは、もっと前から行列が動いていない可能性がある。またはそういった情報を得たか。
「ふむ。人だけでも入れないのだろうか」
「前に使った門なら入れそうですけど?」
ここまで来て戻るのも……と唸る私の呟きに、シルベストレはさらりと道を示す。正面の門であるここを通らずとも、古くて忘れられた門が東側にある。そこはどうだろうと、文字通り抜け道を口にする弟に苦笑いした。
「いや、やめておこう。父上に叱られるのは御免だ」
これから縁を繋ぐ可能性のある国に、不法行為はまずいだろう。明日出直そうと相談していたところに、御者から声がかかった。
「失礼いたします。動くようです」
言葉に続いて、馬車が動き出す。先ほどと違い、今度はしっかりと進んだ。速度が遅いのは、渋滞が解消していく途中なので仕方ない。一度停車し、戻った侍従を乗せてまた走り出した。
「なんだったんだ?」
「不法入国者の情報が入り、一時的に門を閉じて王都内を探していたそうです」
侍従がもたらした情報に目を見開く。迷惑なことだ、そのせいで可愛いベスを自慢する時間が減り、昼食を食べ損ねるじゃないか。万が一、その不法者を見つけたら、叩きのめしてやる!
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった
歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。
だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」
追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。
一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。
誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。
「その言葉は、もう翻訳できません」
「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした
しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」
十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。
会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。
魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。
※小説家になろう様にも投稿しています※
「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った
歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。
だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」
追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。
舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。
一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。
「もう、残業はしません」
姉の婚約者と結婚しました。
黒蜜きな粉
恋愛
花嫁が結婚式の当日に逃亡した。
式場には両家の関係者だけではなく、すでに来賓がやってきている。
今さら式を中止にするとは言えない。
そうだ、花嫁の姉の代わりに妹を結婚させてしまえばいいじゃないか!
姉の代わりに辺境伯家に嫁がされることになったソフィア。
これも貴族として生まれてきた者の務めと割り切って嫁いだが、辺境伯はソフィアに興味を示さない。
それどころか指一本触れてこない。
「嫁いだ以上はなんとしても後継ぎを生まなければ!」
ソフィアは辺境伯に振りむいて貰おうと奮闘する。
2022/4/8
番外編完結
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。