可愛い弟を溺愛しながら生きていく

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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24.お土産を買う時間がない!

 ちらっと視線を合わせたベスが、口角を持ち上げる。一つ大きく息を吸って「きゃぁああああ!」大きな悲鳴を放った。声変わり前のシルベストレの甲高い声は、少女の悲鳴となって注意を引く。

 足元で崩れたままの侍従を避けた少女に、不法者の視線が向いた。煩い女を黙らせようと踏み出したところへ、腕を伸ばした。無造作な動きに見せて、計算した位置へ滑り込ませる。短剣を持つ男の左腕に絡めるように肘を掴み、ぐっと力を込めた。

「ぎゃぁあああ、くそっ! 離せ」

 ぐぎっ、と嫌な音がして男の絶叫が響いた。耳障りな声を発し、関節に激痛の走った男が倒れる。左肘を抱えて転げ回った。しばらく物を掴めないだろうが、可愛いベスに剣先を向けた罰だ。諦めてもらおう。

 この時点で通報の必要はなくなったはずだ。可愛い少女の悲鳴と野太いおっさんの苦痛の声、どう聞いても不審だろう。衛兵が到着するまで、こちらに被害がない状態で拘束すれば終わりだった。

「……すごい、お姉様。今の技はどうやったんですか?」

「ん? ああ、関節へ逆方向の力をかけた」

 人の体はどこもかしこも痛いものだ。小さな針一つでも、飛び上がるほど痛い。その上、関節は一つの方向にしか曲がらないよう出来ていた。逆方向へ力をかけて曲げれば、折れる。折れなくても激痛で動けなくなるし、しばらく腕や足は使い物にならなかった。

 訓練で学んだ技を実戦で生かす。習う際に危険なため、まだシルベストレは教えてもらっていないようだ。簡単に説明しながら、伏せて呻く男の手首を踏む。痛みで落とした短剣を拾おうとした男は、これで動けなくなった。

「つぇえな、姐さん。立派だぜ」

 いかつい顔の店主は、いつもと違う「ねえさん」の響きで私を褒めているらしい。素直に「ありがとう」と答えて椅子に座り直した。店主とセシリオだけにして、衛兵が来るまでに逃げられても困る。

 体幹や足捌きを見る限りは戦えるだろうセシリオだが、店主の無事は別の話だ。それにせっかくの手柄なら、父上への土産にちょうどいい。土産っ!

「大変だ、土産を買ってこないと!」

「本当だ、衛兵に説明するとお姉様が動けない」

 今日の目的を思い出した私の声に、シルベストレが慌てる。衛兵が来たら説明が必要になるだろうから、時間が潰れてしまう。最悪は帰る時間になって、手ぶらのパターンだ。午前中の渋滞も重なり、時間が足りなかった。

「私達が倒したことにしますので、どうぞお二人は裏口から……」

 侍女ララウが、侍従と目配せするが……衛兵の到着が予想より早かった。扉が開き、一気に六人も飛び込んでくる。私が手首を踏んだままの不法入国者を見て、足から辿る形で私を……腕を組んだベスへと視線が流れた。

「……ご協力に感謝します。ご足労いただけますでしょうか?」

 どこへと聞く気はない。何度か遊びに来て絡まれた際に、叩きのめしたゴロツキを突き出した。もう顔見知りの衛兵もいる。土産は間に合わないか。がくりと項垂れたところへ、思わぬ助け舟が出された。

「あのさ、説明なら俺がするよ。彼と彼女は用事があるみたいだし」

 整った顔ににこにこと笑みを浮かべ、セシリオが立ち上がる。手にしたハンカチで口元を軽く拭いた男は、意味ありげに私へウィンクを寄こした。気障な仕草だが……私が戦っている間、お前……食事をしていたのか?
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