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第四章 王宮炎上
第14話 帝国の遺産(3)
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彼の黒髪は不思議と濡れておらず、まだ僅かに風に揺れていた。対照的に全身を雨に濡らしたルリアージェが低い声で問いただす。
「渡したら何をする気だ?」
「お前の記憶を奪ったのは、コレだろう。ならば報いが必要だ」
人格ある存在として扱うつもりがない彼の態度は、人間であれば不敬罪が適用された。だが人外には通用しない。ましてや王都を造作なく破壊する魔性相手に、何を主張しても価値はなかった。
「私が記憶を失ったのは、私の所為だ」
「原因が分かっていると?」
この男を庇っているんだろう? そう匂わせた魔性へ、ルリアージェは湿った髪を揺らして首を横に振った。
雨に張り付いたドレスが色を僅かに濃くして身体にまとわり付く。煩わしさに溜め息を吐いた。
「馬車の前に飛び出した」
だから自分が悪い。
切り捨てられても、まだ義弟を庇う女性に驚いた王太子が目を見開く。
意外だった。人間とは常に己の利害で動く生き物で、特に貴族や王族はその傾向が強い。そんな世界で育った王太子にとって、ルリアージェの言動は信じがたいものだった。
義理も繋がりもない人間が、己を切り捨てようとする他人のために動くなんて。
「なるほど……その馬車の持ち主は?」
ライオットが原因だと確信を持って尋ねる魔性が、腕を組んで美女を見つめる。ふてくされたような態度は、ひどく人間くさい。
「それは……」
嘘をつけずに答えを躊躇うルリアージェに溜め息をついて、ジルは組んだ腕を解いた。
「ほらみろ、ソレが原因じゃないか」
「でもっ、ダメだ」
徐々に子供の言い合いレベルに落ちてきているが、彼らは気付いていないらしい。いや、元が子供の振る舞いで強大な力を揮う魔性なのだから、これが通常なのか。
両手のひらを上に向け、ジルが「ほら」と促した。向き合う美女が迷いながらその手を取る。途端に抱き寄せる青年を中心に風が動いた。
温かな風は彼女の髪や服を乾かし、そのまま吹き抜ける。
記憶を失くしていても、自分に害を与える存在ではないと認識できた。だからルリアージェは素直に手を取る。そんな些細な信頼に、ジルが頬を緩めて笑みを浮かべた。
「風邪引くぞ」
街を焼き払った魔性らしからぬ、優しい声色だった。
「渡したら何をする気だ?」
「お前の記憶を奪ったのは、コレだろう。ならば報いが必要だ」
人格ある存在として扱うつもりがない彼の態度は、人間であれば不敬罪が適用された。だが人外には通用しない。ましてや王都を造作なく破壊する魔性相手に、何を主張しても価値はなかった。
「私が記憶を失ったのは、私の所為だ」
「原因が分かっていると?」
この男を庇っているんだろう? そう匂わせた魔性へ、ルリアージェは湿った髪を揺らして首を横に振った。
雨に張り付いたドレスが色を僅かに濃くして身体にまとわり付く。煩わしさに溜め息を吐いた。
「馬車の前に飛び出した」
だから自分が悪い。
切り捨てられても、まだ義弟を庇う女性に驚いた王太子が目を見開く。
意外だった。人間とは常に己の利害で動く生き物で、特に貴族や王族はその傾向が強い。そんな世界で育った王太子にとって、ルリアージェの言動は信じがたいものだった。
義理も繋がりもない人間が、己を切り捨てようとする他人のために動くなんて。
「なるほど……その馬車の持ち主は?」
ライオットが原因だと確信を持って尋ねる魔性が、腕を組んで美女を見つめる。ふてくされたような態度は、ひどく人間くさい。
「それは……」
嘘をつけずに答えを躊躇うルリアージェに溜め息をついて、ジルは組んだ腕を解いた。
「ほらみろ、ソレが原因じゃないか」
「でもっ、ダメだ」
徐々に子供の言い合いレベルに落ちてきているが、彼らは気付いていないらしい。いや、元が子供の振る舞いで強大な力を揮う魔性なのだから、これが通常なのか。
両手のひらを上に向け、ジルが「ほら」と促した。向き合う美女が迷いながらその手を取る。途端に抱き寄せる青年を中心に風が動いた。
温かな風は彼女の髪や服を乾かし、そのまま吹き抜ける。
記憶を失くしていても、自分に害を与える存在ではないと認識できた。だからルリアージェは素直に手を取る。そんな些細な信頼に、ジルが頬を緩めて笑みを浮かべた。
「風邪引くぞ」
街を焼き払った魔性らしからぬ、優しい声色だった。
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