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第五章 復活

第17話 歪んだ悪意(4)

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「ルリアージェ」

 抱き寄せられ、転移するのかと素直に黒衣の袖を握った。しかしルリアージェの予想は外れた。

「まだ魔力が足りないだろ。ほら」

 顎をくいっと持ち上げられ、抵抗する間もなく接吻けられる。見開いた目をジルの手が覆った。暗闇の中で感じる唇は冷たく、何かが流れ込む感覚に気付く。細く冷たい何かは、触れた唇から体内を循環した。

 すっからかんになるまで使った魔力が急激に回復していく。

「ん……っ」

 満たされる感覚は心地よく、怠かった身体が軽くなった。魔力を注いだジルが舌を舐めて唇を離す。巡る魔力が体内で馴染むのがわかった。

「助かった」

 素直に礼を言えば、楽しそうに言葉を待っていたジルが肩を落とす。残念だと態度で示す男に、美女は小首を傾げる。

 何か言葉を間違えただろうか。

「いや……何でもない」

 手を振り、気にしなくていいと示されるが、明らかにがっかりした態度だ。少し考えるが、結局分からずにルリアージェは放置した。

 封印が解けてから数ヶ月も一緒にいて、寝食も共にした異性がキスまでしたのに、まったく意識されないとジルが拗ねる。言葉にすれば意識してくれるかと願う反面、彼女に「それがどうした」と切り捨てられたらショックなので、溜め息ひとつで諦めた。

 彼女が男女の機微に疎く、晩熟おくてで幼児並に純粋なのは先刻承知。今更焦っても仕方ない。分かっていても勝手に期待したジルが悪い。

 腕の中に抱き寄せたままの美女は、きょろきょろ周囲を見回し、今更ながらの質問を口にする。

「ところで、ここはどこだ?」

「神族の都があった場所だよ」

 過去の記憶が、草原に白亜の城を重ねる。人間が作る神殿に似た建物がいくつも並び、中央に大きな城が聳え立っていた。すべて白い天然石で構成された輝かしい都市は、常に精霊が満ちる美しくも力溢れる丘の上にあったのだ。

 懐かしい記憶を首を振って打ち消し、それ以上質問される前に転移した。ルリアージェが尋ねるならば何でも答えてやりたいが、封印により眠っていたジルにとって1000年は一瞬だった。凄惨な光景は生々しく胸に刻まれている。

 塞がらない傷を抉られる前にこの場を離れたい、と魔法陣を展開した。
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