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第十章 サークレラ
第25話 花の国の物騒な王(2)
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魔力の絶対値の問題なので、種族も関係ないのだと聞かされて納得する。あの吸い込まれるような感覚は、魅了の力らしい。
「失礼いたしました。我が君、こちらのご令嬢は…?」
「ルリアージェ、オレの主になった人族だ」
「は?」
失礼だと考えるより早くリシュアの口から声が漏れた。驚きすぎて、ジルの顔を正面から凝視している。まるで彼の意図を表情から読み取ろうとするように。
明るい広間に間抜けな声が響き渡り、ライラはくすくす笑い出した。磨かれた美しい木目の床が、柔らかな光を受けて足音を響かせる。こつこつと音をさせて近づいたライラが、ルリアージェの手を取った。
「200年ぶりくらいかしら、リシュア。あたくしもリアを主と仰いだのよ」
これからは仲間ね。そんな言葉を呆然としながら聞いたリシュアの頭の中は、真っ白だった。聞いた言葉が右から左へ流れていき、留まる様子はない。
「我が君の、あるじ?」
「そんなに驚くなんて失礼だぞ、リシュア」
なんと声をかけたらいいか迷うルリアージェを他所に、ジルは少し不満そうな顔を作る。慌てて頭を下げたリシュアが「申し訳ありません」と謝罪を口にした。
少し離れた玉座から、王冠が転がり落ちる。カランと金属音を響かせて床に転がる王冠は、リシュアの動揺を示しているように見えた。
「……他の者は知っているのでしょうか」
国王の威厳など感じさせないリシュアの声は弱弱しい。確認する言葉にジルは容赦なく楔を打ち込んで塩を塗った。
「リオネルは知ってるが、パウリーネはまだ封印されたままだ」
「2人も解放するほど魔力が戻ってないものね」
笑いながら指摘するライラは、繋いだリアの手を振ってご機嫌だ。
ジルの左右のピアスにそれぞれ眷属が封印されていた。右の赤はリオネル、左の青はパウリーネだ。最初にリオネルを解放したのは、影を操るリオネルの方がレンの追跡に向いていたから。次に魔力が満ちたときは、パウリーネを解放する予定でいる。
「あたくしが手を貸してもよくてよ?」
「冗談、お前に借りを作る気はないね」
ライラの提案をジルはあっさり却下した。目の前のリシュアの魔力をすべて借りれば足りるだろうが、国王としてサークレラを統治する彼が消えるのは問題だろう。そこまで急いでいるわけではない。
「では私が」
「いや、それもいい」
リシュアの申し出も断る。自分勝手で奔放なジルは、サークレラの未来ではなく「国王崩御になったら祭りがなくなる」心配をしていた。ルリアージェが楽しんでいるのだから、それより優先する事項はない。
「失礼いたしました。我が君、こちらのご令嬢は…?」
「ルリアージェ、オレの主になった人族だ」
「は?」
失礼だと考えるより早くリシュアの口から声が漏れた。驚きすぎて、ジルの顔を正面から凝視している。まるで彼の意図を表情から読み取ろうとするように。
明るい広間に間抜けな声が響き渡り、ライラはくすくす笑い出した。磨かれた美しい木目の床が、柔らかな光を受けて足音を響かせる。こつこつと音をさせて近づいたライラが、ルリアージェの手を取った。
「200年ぶりくらいかしら、リシュア。あたくしもリアを主と仰いだのよ」
これからは仲間ね。そんな言葉を呆然としながら聞いたリシュアの頭の中は、真っ白だった。聞いた言葉が右から左へ流れていき、留まる様子はない。
「我が君の、あるじ?」
「そんなに驚くなんて失礼だぞ、リシュア」
なんと声をかけたらいいか迷うルリアージェを他所に、ジルは少し不満そうな顔を作る。慌てて頭を下げたリシュアが「申し訳ありません」と謝罪を口にした。
少し離れた玉座から、王冠が転がり落ちる。カランと金属音を響かせて床に転がる王冠は、リシュアの動揺を示しているように見えた。
「……他の者は知っているのでしょうか」
国王の威厳など感じさせないリシュアの声は弱弱しい。確認する言葉にジルは容赦なく楔を打ち込んで塩を塗った。
「リオネルは知ってるが、パウリーネはまだ封印されたままだ」
「2人も解放するほど魔力が戻ってないものね」
笑いながら指摘するライラは、繋いだリアの手を振ってご機嫌だ。
ジルの左右のピアスにそれぞれ眷属が封印されていた。右の赤はリオネル、左の青はパウリーネだ。最初にリオネルを解放したのは、影を操るリオネルの方がレンの追跡に向いていたから。次に魔力が満ちたときは、パウリーネを解放する予定でいる。
「あたくしが手を貸してもよくてよ?」
「冗談、お前に借りを作る気はないね」
ライラの提案をジルはあっさり却下した。目の前のリシュアの魔力をすべて借りれば足りるだろうが、国王としてサークレラを統治する彼が消えるのは問題だろう。そこまで急いでいるわけではない。
「では私が」
「いや、それもいい」
リシュアの申し出も断る。自分勝手で奔放なジルは、サークレラの未来ではなく「国王崩御になったら祭りがなくなる」心配をしていた。ルリアージェが楽しんでいるのだから、それより優先する事項はない。
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