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第十章 サークレラ

第27話 思ったよりも単純な見落とし(7)

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 怖ろしい発言をしながら、ジルはけろりとしていた。

「ところで孤児の件だけど、なんでお前が知らなかったの?」
 
 話を向けられたリシュアは、困ったように眉根を寄せた。言葉を選びながら説明を始める。その内容は意外だが、ある意味納得できるものだった。

「私はを一番にしてきました。そのやり方を100年以上続けたため、国の貴族や官僚にも同じ考えが浸透しています。だから『国民』は守られています。しかし、彼らにとっての『国民』に『他国から来た難民』が含まれていなかった。そして私もその事実に気付きませんでした」

 観光客ならば災害時は守る対象になる。国民はもちろん保護する対象だ。しかし勝手に住み着いた流れの民や難民を、国民に分類しなかったため、行政の手から滑り落ちていた。孤児はもちろん、他の難民もすべて行政の支援が届かず、この国の中で『いない存在』となっていたのだ。

 存在が認識されなければ、支援される対象にならない。そうして自国民以外を排除していた現実を、国王も貴族も気付かなかった。気付いた国民からの陳情が官僚で止まったことも、大きく影響している。

「……それでは」

「ええ。遅くなりましたが、すぐに支援を始めます。まずは国民証を持っていない難民の数を把握し、孤児は最優先で保護しましょう。難民への食料やテントの配給も必要です。教育を施して言語を統一して、彼らも国民になってもらえれば…」

 指を折りながら支援策を出す国王の斜め後ろで、戻ってきた侍従がメモを取っていく。手元のお茶を飲み干したジルが、ルリアージェの肩に薄絹をかけた。淡い黒か紺か、迷う微妙な色合いの薄絹は透けている。肩に纏うと色が交じり合って不思議な色合いになった。

「難しい話は任せる。夜の見所は?」

 ルリアージェを政治の話から切り離すようなジルの言葉に、リシュアは濃淡の瞳を細めて笑う。穏やかな笑みを窓の外へ向け、薄暗くなった空を指差した。

「もうすぐ花火があがります。魔術で打ち上げるので、他国の火薬花火と違って美しいですよ。ご覧になるには城の塔がお勧めですが、祭りの屋台を楽しむなら中央から左に2本目の通りにある公園です」

「リア、あたくしは屋台がいいわ」

「そうだな、折角だから街に下りるか」
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