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第十一章 迷惑な客

第29話 サークレラ国王崩御(8)

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 魔力を使い果たして眠ったルリアージェを抱くジルは、心配そうに美貌を歪める。彼の心配する相手が、サークレラ国王ではなく腕の中の美女だと知らなければ、城の住人を騙すに十分な演技だった。

「すぐに運んでくれ」

「医者の手配を」

「いや、治癒魔法を……」

 ばたばた騒がしい彼らを置いて、ジルは再び転移魔法陣を描いて寝室へ飛んだ。白いシーツの上にルリアージェをおろして、ベッドサイドに膝をつく。乱れた銀の髪を指で梳いて、そっと髪飾りを外した。ゆっくり眠れるように帯を緩めようと手をかけたところで、ライラが止めた。

「ちょっと待ちなさい! それはあたくしの役目よ」

「……? いや、オレがやる」

 主人であるルリアージェのことは自分の担当だと切り返すジルだが、ライラは譲らない。いくら主従の契約をしていようと、女性の服を緩める作業を男性に任せる気はなかった。

 腕を組んで怒るライラの様子に首をかしげ、振り返ったリアの少し緩んだ胸元に気付く。

 ああ、なるほど。やっと得心が行ったジルは、にっこり笑顔で残酷な言葉を吐いた。

「問題ないぞ、胸がないからな」

「余計なお世話だっ!」

 パンといい音を立てて、ジルの頬に平手が飛んだ。むっとした表情で身を起こすルリアージェに、眉尻を下げたジルが言い訳を始める。

「大丈夫、オレはぺったんこでも気にしないというか、ささやかな胸の方が好きだぞ」

「……それ以上言ったら、二度と口をきかないぞ」

 本気のルリアージェの脅しに、ジルはお手上げだと降参を示す態度で床に座り込んだ。ベッドから起き上がったルリアージェは解けた髪を手櫛で梳かしながら、まだ頬を膨らませている。

「たらしのジフィールが、リアに翻弄されてるなんて……本当に素敵な光景ね」

 嫌味たっぷりのライラだが、ジルが女魔性を次々と美貌でたらしこんだのは事実だった。その行為が魔王達への嫌がらせという裏事情を知らなければ、たらしのジフィールは不名誉な二つ名と言えよう。もっとも、ジルは気にしていないが。

「女心がわからない奴だ」

 尖らせた唇で抗議するルリアージェの姿に、ライラは転げるほど大笑いし始めた。堪えようとした笑いが決壊したらしく、涙が滲んでも笑い続ける。

「ところで、リシュア達はどうした?」

 笑いやみそうにないライラを諦めて、ルリアージェはジルに向き直った。民族衣装をするする脱いで、ジルが手渡すドレスに着替えていく。そこにジルを男として見る感覚は皆無だった。

「あのさ、一応オレも男なんだけど」

「知っているぞ」

 ……男の意味が通じていない。異性だと認識されていないのか。
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