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第十二章 死神の城
第33話 炎の魔王、屈辱の撤退(1)
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城がある空間は閉じられている。魔王達もそれぞれお気に入りの空間を閉鎖して城を構えているが、やはり外には繋がっていないのだ。閉ざされた空間とは、ガラス玉のようなものだった。
中に不純物を大量に放り込めば、出口がない空間は破裂して消失する。この闇の城がある空間はすでにジルの魔力と霊力が満たされていた。そこに大量の魔物を送り込んだ上級魔性の思惑はひとつ。ジルにとって有利な空間を壊してしまう乱暴な手法だった。
殺されるのを承知で大量の魔物を送りこめば、死神の二つ名をもつジルが魔物を殺すだろう。殺された魔物から解放された魔力は、ガラス玉を破裂させる不純物となる……はずだった。
「オレは綺麗好きなんだよ」
みえみえの手に嵌ってやる義理はない。勝手に放り込まれた不純物を、ガラス玉の外へ転送する。簡単に行われた作業だが、マリニスが驚くほどの緻密な魔術だった。魔力を分類してそれぞれに転送先を振り分ける。自動的に行えるよう、魔法陣を複雑に重ねた。
「ひとつ貸しだ、スピネーに伝えておけ」
水の魔王の側近の名を上げ、ジルは無造作に魔物たちの足元に魔法陣を複数出現させた。それぞれの魔物を主の前に放り出すため、強制転移を仕掛ける。吸い込まれる魔物たちを見送り、半分ほどになったところで魔法陣が消えた。
「リシュア、残りはやる。ライラも好きにしていいぞ。あと……コイツの相手は」
オレがやる。そう続くと思われたが、ジルはにやりと嫌な笑みを浮かべた。右手をかかげて、指をぱちんと鳴らす。
「リオネルに任せる」
名を呼ぶ召還に応じた眷属が、黒衣をさばいて膝をついた。長い黒髪を高い位置で結んだ主の顔を見つめ、それから主の衣の裾に触れる。
「承知いたしました。我が君の仰せのままに」
金髪に縁取られた褐色の青年は、優雅に膝をついてジルの黒衣を掲げる。裾に接吻けて立ち上がった彼は、すこしだけ目を見開いた。
「おや、これは……お久しぶりですね。炎の魔王マリニス」
かつてライバルであった男へ、気負った様子なく挨拶をする。炎の魔王は当初、白炎のリオネルに継承されるはずだった。炎獄のマリニスが必死に手を伸ばして届かない高みである魔王の地位を、彼はあっさりと拒絶したのだ。
中に不純物を大量に放り込めば、出口がない空間は破裂して消失する。この闇の城がある空間はすでにジルの魔力と霊力が満たされていた。そこに大量の魔物を送り込んだ上級魔性の思惑はひとつ。ジルにとって有利な空間を壊してしまう乱暴な手法だった。
殺されるのを承知で大量の魔物を送りこめば、死神の二つ名をもつジルが魔物を殺すだろう。殺された魔物から解放された魔力は、ガラス玉を破裂させる不純物となる……はずだった。
「オレは綺麗好きなんだよ」
みえみえの手に嵌ってやる義理はない。勝手に放り込まれた不純物を、ガラス玉の外へ転送する。簡単に行われた作業だが、マリニスが驚くほどの緻密な魔術だった。魔力を分類してそれぞれに転送先を振り分ける。自動的に行えるよう、魔法陣を複雑に重ねた。
「ひとつ貸しだ、スピネーに伝えておけ」
水の魔王の側近の名を上げ、ジルは無造作に魔物たちの足元に魔法陣を複数出現させた。それぞれの魔物を主の前に放り出すため、強制転移を仕掛ける。吸い込まれる魔物たちを見送り、半分ほどになったところで魔法陣が消えた。
「リシュア、残りはやる。ライラも好きにしていいぞ。あと……コイツの相手は」
オレがやる。そう続くと思われたが、ジルはにやりと嫌な笑みを浮かべた。右手をかかげて、指をぱちんと鳴らす。
「リオネルに任せる」
名を呼ぶ召還に応じた眷属が、黒衣をさばいて膝をついた。長い黒髪を高い位置で結んだ主の顔を見つめ、それから主の衣の裾に触れる。
「承知いたしました。我が君の仰せのままに」
金髪に縁取られた褐色の青年は、優雅に膝をついてジルの黒衣を掲げる。裾に接吻けて立ち上がった彼は、すこしだけ目を見開いた。
「おや、これは……お久しぶりですね。炎の魔王マリニス」
かつてライバルであった男へ、気負った様子なく挨拶をする。炎の魔王は当初、白炎のリオネルに継承されるはずだった。炎獄のマリニスが必死に手を伸ばして届かない高みである魔王の地位を、彼はあっさりと拒絶したのだ。
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