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第十二章 死神の城
第33話 炎の魔王、屈辱の撤退(3)
しおりを挟む広間を改装したばかりの部屋に戻ると、ルリアージェの姿が見えない。いや、ベッドが膨らんでいるので寝ているらしい。近づいて覗き込んだジルは、そっと顔をみせた銀髪の美女に微笑んだ。
「どうしたの? 眠い?」
「……違う」
見惚れた自分が恥ずかしかったのだが、それを説明すると根掘り葉掘り聞かれそうな気がした。だが眠くはないので否定だけしておく。
「リシュアやライラは?」
「リオネル含めて3人で遊んでるぞ。オレは抜けてきたけど」
遊んでいるという表現に、どうやら苦戦するほどの実力者はいなかったのだと安心する。ほっと表情を和らげたルリアージェに、ジルは手を差し出した。顔と手を交互に見つめるルリアージェが手を乗せる。そこに警戒心や不安は見られなかった。
「たいした危険もないし、窓から見物でもする?」
「観れるのか?」
「うーん、上の窓が一番観やすいだろうから、階段でも作るか」
ジルは無造作に魔力を操作する。膨大な魔力があるせいで、望んだことはほぼ叶えてきた。魔王達が所有する城は、自分の魔力を満たした空間に作られている。そして城自身も魔力の塊だった。そのため形状の変化は容易に行えるのだ。
魔力を物質化した部屋の内側へ螺旋階段を作り出す。円錐状の部屋の内側を取り巻く形で、洒落た手すりがついた階段が浮かび上がった。艶のある黒い石材のようにみえるが、触れても冷たくない。
「すごいな」
「この空間自体がオレの魔力だからね。形を変えるのは造作もない」
この空間を作り出し、満たし、巨大建造物を維持する魔力量にただ感心する。人には到底届かない領域の話であり、魔族の中でも特に魔力が多いジルならではだった。
広間の上部、天井に当たる部分はもともと透明の水晶のような素材で、外から光を取り込んでいる。螺旋階段の上に扉が出来ており、その先がテラスのように張り出していた。
「さて、もう片付いていないといいが」
ジルは笑いながらルリアージェの腰に手を回した。何をするのか理解したルリアージェは首に抱きつく。ふわりと抱き上げたジルは一瞬で扉の外側へ転移していた。
「便利だな」
「リアのために階段作ったけど、落ちたら危ないし……やっぱり塞いでおこうか」
子供の心配をする親のような発言だが、テラスの上は確かに危険だった。足元は闇になっており落ちる底が見えないし、上も青空は存在しない。薄灰色の空間が広がり、そこに数十まで減らされた魔物がいた。ほんのり明るい空間に地面がなく浮いている城は非常識なのに、どこか違和感が薄い。
見上げた先で、魔物はほとんど残っていない。リオネルの炎で燃やされ、リシュアの風で切り裂かれた魔物は次々と消滅した。ライラは魔物を屠ることに飽きたのか、こちらに転移する。
「マリニスったら、あの後ですぐ逃げたのよ」
不満たらたらでライラがぼやく。普段は三つ編みにする茶髪が解けていた。聞いたことがある名前だが思い出せないルリーアジェを他所に、ジルは楽しそうにくつくつ喉を鳴らして笑った。
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