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第十三章 龍炎と氷雷の舞

第41話 届かない果実ほど…(1)

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 戦いに興じていたラヴィアの目に飛び込んだのは、死神の鎌アズライルを振り翳したジフィールの姿だった。その先にいたのは、いつも近くにいる氷雷レイリの二つ名をもつ魔性。

 彼女の豊満な胸の間を、美しい曲線の刃が走り抜ける。傷口から血が吹き出ることもなく、肉片が飛び散ることもなかった。ただ静かに身体が二つに裂けていく。

 鮮やか過ぎる切り口で、内臓がまだ動いている姿まで確認できた。切られたことに細胞が気付けぬほどの鋭さで、彼女は真っ二つになる。

「レイリっ!」

 叫んで動いた。到底届く距離じゃないのに、特別ではない女へ手を伸ばす。その指先を水虎が食いちぎった。咄嗟に手を引くが、その間にもレイリは無残な姿になる。

 ジフィールが球体を作って封じた途端、左手からアズライルが消えた。続いて真っ赤に染まる封じ玉の様子に、中で起きている凄惨な状況は想像できる。聞こえるはずのない彼女の悲鳴が聞こえる気がした。

 落ちた半身を受け取ったライラは、植物から作り出した少女にレイリを渡す。あっという間に少女は人の形を捨てて、氷雷の二つ名を持つ魔性を飲み込んだ。手足を蔦や枝に変化させ、絡めとったレイリを吸収していく。養分を吸い取って、少女だった植物は白い花の蕾をつけた。

「うそだっ、嘘だ」

 食いちぎられた右手首を掴んだまま、ラヴィアは叫んでいた。彼女はずっと傍にいてくれたのだ。戦闘狂の性質をもつが故に、どの魔王にも所属俺を、それで構わないと許容した。変わらなくていいと声をかけ、戦いに明け暮れる俺を肯定してくれたのに。

 美しい肢体も淡い水色の髪も、無残にすり潰されていく。その恐怖は全身を震わせた。初めて他の魔族に対して恐怖心を抱いた。魔王すら恐怖を感じず麻痺していたラヴィアの手が震える。

「リシュア、どうしたの?」

「いえ、我が君とライラ殿に獲物を取られましたので」

「譲って欲しいの? 嫌よ」

 パウリーネは手元に残った水虎の頭を撫でながら、形のいい眉をひそめた。我が侭を言っている自覚はあるので、リシュアも苦笑いをして肩を竦める。

「私の獲物だもの」

 その誇らしげな物言いは、「ジル様がくださった」という枕詞が透けてみえた。下手に手出しをすれば、こちらも敵だと認識されますね。そんな感想をいだいたリシュアは溜め息を吐く。

「レイリっ!」
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