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第十七章 迷宮という封印

第64話 幻妖の森の所以(1)

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 カラフルな植物が走り回る幻妖の森に再び降り立ったルリアージェは、夜明け前の森で声を失った。以前は騒がしく走り回っていた茂みや木々は動きを止め、僅かに小さな花々が動いているだけ。求める日差しがない時間帯の森は、驚くほど静かだった。

「この森はこんなに静かになるのか」

「うーん、動物がいないから余計に静かに感じるかもね」

 ジルに手を離さないよう言われたので、しっかり腕を組んでいる。動きやすい格好に着替えると主張したが、戦うわけじゃないと押し切られて、結局裾の長いロングドレスだった。歩きやすいようヒールが低い靴に履き替えたが、アクセサリーをつけた盛装姿が似合う場所ではない。

「ジル、やはり着替えた方がよくないか?」

 遠まわしに着替えたいと再度の希望を伝えるが、尋ねた相手以外から反論がきた。

「私の選んだドレスではお気に召しませんか?」

「リア様によくお似合いですよ」

「危険もない迷宮ですから、着替える必要はないかと」

 死神の眷属3人からの言葉に、これ以上着替えの話を持ち出せなくなってしまう。なぜか自分が悪いような気がしたのだ。こういった話術自体、魔性の得意分野だった。

 性格は子供で自分の我が侭を振りかざす魔性だが、生きた年数だけは長い。遠まわしな言い方を好む者、直接的な表現を使う者とタイプは分かれるが、どちらも己が望む方向へ相手を誘導する話術は自然とけていく傾向があった。

「もうすぐ夜が明けるわ。植物が動く前に中心へ行きましょう」

 ライラは迷う素振りもなく、まっすぐに左側へ歩き出した。そちらは植物が密集しており、人が入れる隙間などなさそうだ。

≪道をあけなさい≫

 精霊王の娘の命令に、大地は静かに従った。密集して絡みついた植物が身を捩り、ゆっくり花びらが開くように中央に隠された宝が現れる。

「これは?」

 輝く大粒のエメラルドがあった。親指と人差し指で円を描いたほどのサイズだろうか。くすみがない深緑の宝石は、明らかに人為的なものだ。

「あたくしのお父様、大地の精霊王だった霊力とお母様の魔力が混じった宝石なの」

 得意げに告げるライラに悲しむ色はなかった。子を成しても引き裂かれた異種族の2人が、別れずに済む方法として選んだ封印は、娘にとって愛の証なのだろう。優しい目で見つめた彼女は無造作にエメラルドを手に取った。
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