【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第十九章 滅びゆく風の音

第78話 毒を盛るのがツガシエの流儀ですか(2)

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「……ジル。話し合いを」

 怒りに震える魔性達を宥めるように、ルリアージェが細い声を振り絞る。リュジアンの時のように、彼らが過剰に王族を罰しようとする可能性が脳裏を過ぎった。

 ツガシエの王族は驚き固まっていたが、ルリアージェの声に金縛りが解けたらしい。王子や王女達は青ざめて顔を見合わせ、ざわめいた。声も出ずに卒倒した王太后を支える侍女は震えており、王妃は力が入らずに崩れ落ちる。

 彼らにとっても予想外の毒殺未遂事件なのだ。グリゴリー王の顔色は青を通り越して白くなっていた。自らが意図しないところで毒ワインが振舞われ、もっとも怒らせてはならない国の王家に連なる一族を敵に回した。

 よりによって、マスカウェイル公爵家で絶対に傷つけてはならない公爵夫人が毒を口にしたなど。取り返しがつかない事態だ。

「こ……」

 殺すしかない。この国に彼らが来た痕跡を消さないと……もう引き返せない状況だ。引きつった喉を震わせて命じようとしたグリゴリー王へ、ジルが淡々と事実を突きつけた。

「晩餐への招待は国元へ連絡してある。我らに手を出せば、国は自治領すら残らない」

 完全に破壊しつくしてやる。それは人族の一公爵家の発言としては不遜だった。しかし、ジルは上級魔性の頂点に立つ魔王と互角以上に戦える存在だ。

 彼が滅ぼすと決めれば、この国は歴史を含めて抹殺される運命が待っていた。

 気圧けおされて息を飲んだグリゴリー王から視線を外し、ジルは腕の中のルリアージェの様子を窺う。まさか毒を盛られるのが彼女になるとは思わなかった。自分か別の誰かが飲んだのなら、この場で王族を追い詰める交渉も楽しめただろう。

 青ざめた美女の銀髪を指先で整えながら、汗ばんだ肌にキスを落とす。落ち着いて呼吸しないと、痛めた喉がまた咳き込む原因になるのだ。治癒魔法陣を生み出して、キスのタイミングで発動させた。

「帰るぞ、リア」

「しかし……っ」

 戦争になることは回避したいルリアージェに微笑み、ジルは指先に魔法陣を呼び出して彼女の項に触れた。直後、がくりと意識を失った美女が倒れこむ。

「やっぱり、苦しみを我慢されていたのですね」

「お気の毒なお母様」

 リオネルとライラが口々にフォローする。毒に体力を奪われたフリをしているパウリーネを、リシュアが抱き上げた。肩を貸す手もあるが、弟夫妻の肩書きからすれば毒で弱った妻を抱き上げる方が一般的だ。

 視線の先で、ジルもルリアージェを横抱きにしていた。首を自分の肩によりかけ、重さなど感じない動きで立ち上がる。

「失礼する」

 吐き捨てるように声を残し、ジルが扉に向かった。
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