【完結】帝国滅亡の『大災厄』、飼い始めました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第二十章 愛し愛される資格

第86話 囚われの姫君(1)

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「ようこそ、死神の姫君」

 緑の髪に瞳、リシュアの黒髪に近い色と違い明るかった。白い肌に薄いベージュのローブを羽織った青年は優しそうな風貌で、長い前髪が顔の半分を隠している。

「……っ」

 声を出そうとしたが、喉が詰まって声が出ない。苦しくはないが、掠れた響きすら漏れない。ぱくぱく口を動かしたルリアージェの姿に、青年は申し訳なさそうに眉を寄せた。

「悪いが、死神を呼ばれると困るので封じさせてもらった」

 穏やかそうな態度と容姿に騙されがちだが、話の内容は悪辣だ。招いたのは自分だと挨拶で白状し、他者の声を縛り行動を抑制する。自分勝手な言い分にルリアージェは拳を握った。

 強者なのはわかる。ルリアージェ自身の軽率な行動があったにしろ、ジル達を出し抜いて攫ったのだ。相当な実力者だろう。魔方陣すら使わずに、容易に声を奪った行為からも推測できた。だからといって納得できるものではない。

 濡れた服が気持ち悪いが、魔術を使わせてくれないだろう。睨みつけるルリアージェを上から下まで眺めたあと、緑髪の青年はぱちんと指を鳴らした。足元に浮かんだ魔方陣が温風を作り出し、一瞬で髪と服を乾かしていく。

「危険な武器は持っていないようだし……このまま閉ざすか」

 風の魔王と呼ばれる存在は、ひとちて、ひらりと手を振った。ルリアージェの銀髪が螺旋の風に舞い上がり、一瞬で透明のガラスに似た球体に閉じ込められる。足元の不安定さに、ルリアージェは座り込んだ。

 ワンピースに合わせた踵の高いサンダルを脱ぎ捨て、ついでに手に持って球体を殴ってみる。この程度の攻撃で割れるはずがないのは承知しているが、声を出せない今、何も反撃しないという選択肢は彼女になかった。

「……奴の好みはわからぬ」

 騒ぎ立てる美女は外見こそ上位魔性並みに整っているが、あまりに乱暴だった。このような性情の女が好みならば、ラーゼンと分かり合えるわけがない。マリニスも攻撃的な性質たちだが、魔王として自覚がある彼はもっとスマートに立ち回る。

 首を横に振って呆れ声を出したラーゼンは、すでにルリアージェなど見ていなかった。彼が望むのは、捕らえた人族の女を人質とした死神の封印だ。あの男と白炎が消えれば、最愛のマリニスの憂いを払ってやれる。

「さて、我が眷属は白い粉を手に入れられるか」

 無理ならば別の手段を用いるのみ。どうしても必要なものではない。一時的に死神の動きを止める効果がある粉に、ラーゼンはさほど期待していなかった。あれば便利な道具だが、必要不可欠ではないのだから。
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