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第二十章 愛し愛される資格
第89話 断罪と許しの天使(1)
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「やめろ、エアリデ」
借りがあるラーゼンの命令に、エアリデは顔を歪めた。こんな奴は魔王じゃない、おれの主じゃない。千載一遇のチャンスを手放す奴が、魔王を名乗る資格なんてないはずだ。おれのほうが……! そうだ、おれの方がよほど魔王に相応しいじゃないか! 秘めた欲望が燃え上がる。
「煩い! 死神に膝をおる魔王など、主君ではない!!」
主従の契りを否定したエアリデの声に、ラーゼンが舌打ちした。直後、リシュアの手から風の支配権が奪われる。それはエアリデも同様だった。膨大な魔王の魔力を制御につぎ込んだラーゼンの手に、透き通った風の刃が現れる。握っているのではなく、手から離れた位置に浮かんでいた。
「もう一度言う、手を引け。エアリデ」
ラーゼンの警告にもエアリデは頷かない。なんとか風の制御を取り戻そうと魔力を練る姿に、風の魔王はやれやれと首を横に振った。言うことを聞かない幼子を叱るように、淡々と口にする。
「ならば死ね」
言葉と同時に、振り抜くこともなく剣はエアリデの眉間を突きとおした。風に乗ると透明になり見えなくなった剣は、避ける余裕のないエアリデの額を貫いて消失する。急速に目が光を失い、エアリデだった身体は塵になった。
緩んだ手から白い粉の入った瓶が落ちる。騒動を横目に、ジルは切り落とされた右手を拾い上げた。己の血で治癒しながら振り返る。
「これは……まさか?」
蔦で受け止めたライラが手元で粉を眺める。それは神族の骨を砕いて作る粉に似ていた。
「貸してみろ」
ジルは無造作に瓶を開けて中身を振りまいた。まだ風が渦巻く渓谷の中を粉が躍り、霊力を纏ったままのジルへ降り注ぐ。
「ジル!?」
また苦しむのではないか。過去に見た記憶がよみがえったルリアージェが抱き着く。しかしジルは粉を浴びても笑みを浮かべていた。苦しむどころか平然と笑みを浮かべる。
「レンに偽物を掴まされたな。アイツが渡すわけない」
そこには信頼に似た絆があった。長い年月を行き過ぎて寿命という概念すら曖昧な傍観者が、死ぬ心配もないのに、魔性相手に駆け引きで負けるはずがない。適当に痛めつけられたフリでもして、偽物を渡せばいいのだから。死神を敵に回して、エアリデに味方する義理はなかった。
赤毛の青年の姿を思い出し、可能な限り力になると言ってくれた言葉が浮かんでくる。ほっとしたルリアージェの腰に手を回し、銀髪にジルが唇を落とした。
「さっきの貸しはチャラにしてやるから、消えろ」
ひらひら手を振って、ラーゼンを追い払う仕草をみせた。苦笑いしたラーゼンが、マリニスを促して転移する。死神の気が変わる前に退散する彼の潔さは、称賛ものだった。
借りがあるラーゼンの命令に、エアリデは顔を歪めた。こんな奴は魔王じゃない、おれの主じゃない。千載一遇のチャンスを手放す奴が、魔王を名乗る資格なんてないはずだ。おれのほうが……! そうだ、おれの方がよほど魔王に相応しいじゃないか! 秘めた欲望が燃え上がる。
「煩い! 死神に膝をおる魔王など、主君ではない!!」
主従の契りを否定したエアリデの声に、ラーゼンが舌打ちした。直後、リシュアの手から風の支配権が奪われる。それはエアリデも同様だった。膨大な魔王の魔力を制御につぎ込んだラーゼンの手に、透き通った風の刃が現れる。握っているのではなく、手から離れた位置に浮かんでいた。
「もう一度言う、手を引け。エアリデ」
ラーゼンの警告にもエアリデは頷かない。なんとか風の制御を取り戻そうと魔力を練る姿に、風の魔王はやれやれと首を横に振った。言うことを聞かない幼子を叱るように、淡々と口にする。
「ならば死ね」
言葉と同時に、振り抜くこともなく剣はエアリデの眉間を突きとおした。風に乗ると透明になり見えなくなった剣は、避ける余裕のないエアリデの額を貫いて消失する。急速に目が光を失い、エアリデだった身体は塵になった。
緩んだ手から白い粉の入った瓶が落ちる。騒動を横目に、ジルは切り落とされた右手を拾い上げた。己の血で治癒しながら振り返る。
「これは……まさか?」
蔦で受け止めたライラが手元で粉を眺める。それは神族の骨を砕いて作る粉に似ていた。
「貸してみろ」
ジルは無造作に瓶を開けて中身を振りまいた。まだ風が渦巻く渓谷の中を粉が躍り、霊力を纏ったままのジルへ降り注ぐ。
「ジル!?」
また苦しむのではないか。過去に見た記憶がよみがえったルリアージェが抱き着く。しかしジルは粉を浴びても笑みを浮かべていた。苦しむどころか平然と笑みを浮かべる。
「レンに偽物を掴まされたな。アイツが渡すわけない」
そこには信頼に似た絆があった。長い年月を行き過ぎて寿命という概念すら曖昧な傍観者が、死ぬ心配もないのに、魔性相手に駆け引きで負けるはずがない。適当に痛めつけられたフリでもして、偽物を渡せばいいのだから。死神を敵に回して、エアリデに味方する義理はなかった。
赤毛の青年の姿を思い出し、可能な限り力になると言ってくれた言葉が浮かんでくる。ほっとしたルリアージェの腰に手を回し、銀髪にジルが唇を落とした。
「さっきの貸しはチャラにしてやるから、消えろ」
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