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第二十章 愛し愛される資格
第89話 断罪と許しの天使(3)
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「どうした?」
頷くだけで何も言わないジルの姿に、3人の眷属はライラを連れて姿を消す。風の魔王の領域である渓谷に作られた洞窟城の奥で、ジルは子供のようにしがみ付いて離れなかった。
「ジル……ジフィールと呼んだらいいのか?」
ジフィールは過去の名だった。今は違うが、ルリアージェがジルと呼ぶならそれが正しい。
「ジルでいい」
勝てる戦いを捨てさせてしまった。そう呟いたルリアージェへ、ようやくジルが顔を上げた。不安そうな表情で「ごめん」と謝る。彼の謝罪の意味がわからなくて、じっと続きを待った。
白い翼を畳んで、首を傾げた。
「ごめん、いつか……ぜんぶ話すけど、オレを許さなくていいから」
ジルが何かを悔いているのが伝わる。内容がわからないまま、ルリアージェはジルを立たせた。目の前で申し訳なさそうにするジルが隠した秘密を暴くのは、簡単だろう。命じれば彼は逆らわない。それでも……いつか話してくれるというなら、待つのも悪くないと思った。
ジルが弱った姿を見せるのは、数えるほどしかいない。自分より高い位置にある頭を撫でながら、自然と口元が緩んだ。信頼されているのだ、私は。
ライラが教えてくれた話の中に、ジルは絶対に自分の過去を口にしないとあった。己の過去を探ったり他人に話そうとする存在を許さず、すべて殺してしまうほど憎んだ話も……それは殺伐とした己の生きざまを恥じたのではなく、自分自身を嫌っていたため。
大嫌いな自分を否定するジルが、ようやく自らを許して話してくれた相手が私だとしたら――なんて幸運だろう。主に選ばれたこと以上に、彼の心を捧げられた事実に胸は躍った。だから、どんな話でも受け入れられる。
心で感情が整理されたら、ジルは隠さずに教えてくれるだろう。その時に彼の隣に自分がいればいいだけ。許されないと決めつけて嘆く男を、許したいと思った。
「いつか話してくれればいい。ジルは私の隣にいるのだろう?」
自分を捨てた家族と違い、いつまでも傍にいると言った。その心を信じるから、悩み、選ぶ必要はない。これからも続くはずの日々だけでなく、過去さえ愛しいと感じる。
魔王すら退ける男に求められる自覚が芽生え、ルリアージェの心を浮足立たせた。
「愛して、いいのか」
「愛して愛されるのに、資格なんていらないと思うぞ」
くすくす笑ったルリアージェが両手を広げて、首をかしげる。待つ姿勢を見せた美女は、ぎこちなく微笑んだ死神の腕に飛び込んだ。
頷くだけで何も言わないジルの姿に、3人の眷属はライラを連れて姿を消す。風の魔王の領域である渓谷に作られた洞窟城の奥で、ジルは子供のようにしがみ付いて離れなかった。
「ジル……ジフィールと呼んだらいいのか?」
ジフィールは過去の名だった。今は違うが、ルリアージェがジルと呼ぶならそれが正しい。
「ジルでいい」
勝てる戦いを捨てさせてしまった。そう呟いたルリアージェへ、ようやくジルが顔を上げた。不安そうな表情で「ごめん」と謝る。彼の謝罪の意味がわからなくて、じっと続きを待った。
白い翼を畳んで、首を傾げた。
「ごめん、いつか……ぜんぶ話すけど、オレを許さなくていいから」
ジルが何かを悔いているのが伝わる。内容がわからないまま、ルリアージェはジルを立たせた。目の前で申し訳なさそうにするジルが隠した秘密を暴くのは、簡単だろう。命じれば彼は逆らわない。それでも……いつか話してくれるというなら、待つのも悪くないと思った。
ジルが弱った姿を見せるのは、数えるほどしかいない。自分より高い位置にある頭を撫でながら、自然と口元が緩んだ。信頼されているのだ、私は。
ライラが教えてくれた話の中に、ジルは絶対に自分の過去を口にしないとあった。己の過去を探ったり他人に話そうとする存在を許さず、すべて殺してしまうほど憎んだ話も……それは殺伐とした己の生きざまを恥じたのではなく、自分自身を嫌っていたため。
大嫌いな自分を否定するジルが、ようやく自らを許して話してくれた相手が私だとしたら――なんて幸運だろう。主に選ばれたこと以上に、彼の心を捧げられた事実に胸は躍った。だから、どんな話でも受け入れられる。
心で感情が整理されたら、ジルは隠さずに教えてくれるだろう。その時に彼の隣に自分がいればいいだけ。許されないと決めつけて嘆く男を、許したいと思った。
「いつか話してくれればいい。ジルは私の隣にいるのだろう?」
自分を捨てた家族と違い、いつまでも傍にいると言った。その心を信じるから、悩み、選ぶ必要はない。これからも続くはずの日々だけでなく、過去さえ愛しいと感じる。
魔王すら退ける男に求められる自覚が芽生え、ルリアージェの心を浮足立たせた。
「愛して、いいのか」
「愛して愛されるのに、資格なんていらないと思うぞ」
くすくす笑ったルリアージェが両手を広げて、首をかしげる。待つ姿勢を見せた美女は、ぎこちなく微笑んだ死神の腕に飛び込んだ。
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