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第二十二章 世界の色が変わる瞬間
第101話 紅石の指輪と赤いスプーン(2)
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「リア、そろそろツガシエに移動するぞ。あっちは雪だったか」
ジルの確認に「ツガシエは雪の彫刻です」とリオネルが穏やかに追加する。氷のリュジアン、雪のツガシエと言われる北の大国だが、氷の像を削り出した透明感のあるリュジアンの作品は人の背丈程度の物が多い。しかしツガシエは雪の塊を積み上げて、大きな建造物を作ることで有名だった。
雪に水を掛けて固める手法で、城や巨大な滑り台、中にはドラゴンに似た生物を模したものまで、幅広い種類が並ぶ。前回のツガシエ訪問は家具だけだったので、実はかなり楽しみだった。
「移動は馬車か?」
「いや、一度戻って転移した方が早い」
人族の移動手段より、各段に早い。しかし早くつきすぎても、祭りまで時間がありそうだった。不思議そうなルリアージェに、リシュアが魅力的な提案を持ち掛ける。
「以前にサイドテーブルを購入した工房が代替わりしたそうですよ。新しい家具が増えているのを見に行きませんか?」
「見たい!!」
即答したルリアージェに、パウリーネ達が柔らかな笑みを浮かべた。主が満足する姿を見るのが、彼女ら魔性にとって最高の幸せなのだ。注目を集める美男美女の集団は、公爵家の家紋を隠した馬車に乗り込んでから転移した。
中に誰もいない空の馬車は街を出たところで忽然と行方をくらますが、目撃者は誰もいなかった。
ワンピース姿で、少し裕福な商家の奥様を装ったルリアージェは駆け出す。以前も訪れた工房は古びたが、看板は新しかった。代替わりしたときに掛け替えたのだろう。飾り文字が刻まれた看板は何と読むのかわからない。この辺りが堅物だった先代との違いを表していた。
リシュアが予約していたため、すんなりと中に通される。かつて作業場だった一角にカウンターや棚が設けられ、観光地のお土産屋に模様替えした感じだった。先代の武骨な雰囲気が気に入っていたので、すこし残念に思う。
これが時間の流れというものだろう。人族では何回も遭遇する場面ではないが、奥にある古い工具に見覚えがあった。あれは引き継いだものかも知れない。懐かしさと目新しさにきょろきょろと見回し、小さな机の前にあるお婆さんに気づいた。風景に同化した彼女の指に、紅石の指輪がはまっている。
「素敵なお店ですね」
ルリアージェの視線に気づいたリシュアが穏やかに、老婆へ語り掛ける。ゆっくり顔をあげた彼女は目がほとんど見えていないらしい。目を細めていたが、諦めた様子で瞼を伏せた。
「ああ、息子が頑張って、今は孫の代だから」
ジルの確認に「ツガシエは雪の彫刻です」とリオネルが穏やかに追加する。氷のリュジアン、雪のツガシエと言われる北の大国だが、氷の像を削り出した透明感のあるリュジアンの作品は人の背丈程度の物が多い。しかしツガシエは雪の塊を積み上げて、大きな建造物を作ることで有名だった。
雪に水を掛けて固める手法で、城や巨大な滑り台、中にはドラゴンに似た生物を模したものまで、幅広い種類が並ぶ。前回のツガシエ訪問は家具だけだったので、実はかなり楽しみだった。
「移動は馬車か?」
「いや、一度戻って転移した方が早い」
人族の移動手段より、各段に早い。しかし早くつきすぎても、祭りまで時間がありそうだった。不思議そうなルリアージェに、リシュアが魅力的な提案を持ち掛ける。
「以前にサイドテーブルを購入した工房が代替わりしたそうですよ。新しい家具が増えているのを見に行きませんか?」
「見たい!!」
即答したルリアージェに、パウリーネ達が柔らかな笑みを浮かべた。主が満足する姿を見るのが、彼女ら魔性にとって最高の幸せなのだ。注目を集める美男美女の集団は、公爵家の家紋を隠した馬車に乗り込んでから転移した。
中に誰もいない空の馬車は街を出たところで忽然と行方をくらますが、目撃者は誰もいなかった。
ワンピース姿で、少し裕福な商家の奥様を装ったルリアージェは駆け出す。以前も訪れた工房は古びたが、看板は新しかった。代替わりしたときに掛け替えたのだろう。飾り文字が刻まれた看板は何と読むのかわからない。この辺りが堅物だった先代との違いを表していた。
リシュアが予約していたため、すんなりと中に通される。かつて作業場だった一角にカウンターや棚が設けられ、観光地のお土産屋に模様替えした感じだった。先代の武骨な雰囲気が気に入っていたので、すこし残念に思う。
これが時間の流れというものだろう。人族では何回も遭遇する場面ではないが、奥にある古い工具に見覚えがあった。あれは引き継いだものかも知れない。懐かしさと目新しさにきょろきょろと見回し、小さな机の前にあるお婆さんに気づいた。風景に同化した彼女の指に、紅石の指輪がはまっている。
「素敵なお店ですね」
ルリアージェの視線に気づいたリシュアが穏やかに、老婆へ語り掛ける。ゆっくり顔をあげた彼女は目がほとんど見えていないらしい。目を細めていたが、諦めた様子で瞼を伏せた。
「ああ、息子が頑張って、今は孫の代だから」
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