377 / 386
第二十二章 世界の色が変わる瞬間
第106話 ドラゴンは臆病だったらしく(3)
しおりを挟む
翼はあっても尻尾はない。己の姿形に物足りなさを覚えるのは、初めての経験だった。人族や魔族の中で飛びぬけて整った外見を持ち、神族の翼をもち、罵られる黒色でさえ個性だと言い放つ。そんな男が、己の容姿に劣等感を持つ様子に、側近は肩を竦めた。
「リア様にもっとも近い位置におられるのに、まだ嫉妬なさるのですか」
疑問ですらなく笑いながら告げるパウリーネが、ふっと外に目を向けた。
「リシュアですわね」
ぶわっと風が吹き込んで、羽の届く手前で中和される。洞窟の中に飛び込んだリシュアの風を相殺したジルが黒い翼を広げた。洞窟内に小さな光が急速に増えていく。
「精霊を呼んだの?」
「勝手に来ただけ」
黒翼と霊力の波長が好みなのか、呼ばずとも勝手に集まってくるのだとジルは肩を竦めた。ルリアージェの白い羽にも多くの光が集まってくる。今はジルに集まってくる精霊の方が多いが、精霊達の情報伝達は早い。たいした時をかけず、ルリアージェに惹かれてより多く集まるようになると知っていた。
何しろ彼女のもつ翼の霊力は、神族と遜色ない色や性質を保っているのだから。失われた物ほど惜しむのは、人族だけの特性ではない。魔族や神族、精霊にとっても同様だった。手が届かないから欲しい、失われたから探し求める。生きている以上、貪欲に手を伸ばすのは本質なのだろう。
「申し訳ございません。風を操り損ねました」
「珍しいな」
お前がそんなミスをするなんて……言いかけた言葉が喉の奥で止まった。詫びたリシュアが頭を上げると、その手が尻尾を掴んでいることに気づく。どう見ても爬虫類の尻尾だ。ということは、風竜を見つけて引っ張ってきたのか?
「リシュア。その……尻尾は」
ルリアージェの戸惑いがちの声に、艶のある黒髪を揺らしたリシュアは悪びれることなく尻尾の主を引っ張り込んだ。ずるずると爪を立てたドラゴンが、抵抗空しく狭い洞窟に詰め込まれる。
「風竜ではなく、雷竜を先に見つけたのですよ。変異種ですがぜひお見せしたいと思いまして」
かつて人族の国王だった過去がある男だけに、一般常識があると思い込んでいた。それが粉々に砕け散った瞬間だ。他の魔性達もここまでしなかったのに。
ライラは最初に穏やかな木竜を探すために森に下りた。ジルは雪竜を見せるために雪山に移動したし、パウリーネだって寒い場所にいるのを確認してから転移魔法で引っ張ってくる。どれもドラゴンの生態を考えたうえで、自然な状態を保とうとしていたが……リシュアの行動は雷竜を強引に物理的な方法で誘拐してきた。
怯える雷竜が「くひゃぁ……」と情けない声を上げる。洞窟に響いた嘆きに、ルリアージェは頭を抱えた。
「可哀想じゃないか。離してやれ」
「離したら逃げてしまうではありませんか」
一理あるが……どう説明したら理解させられるのだろう。苦笑したジル達は顔を見合わせ、リシュアはきょとんと立ち尽くすばかり。それでも尻尾を掴まれた雷竜は逃げることが出来ず、必死で懇願する悲鳴を上げ続けた。
「リア様にもっとも近い位置におられるのに、まだ嫉妬なさるのですか」
疑問ですらなく笑いながら告げるパウリーネが、ふっと外に目を向けた。
「リシュアですわね」
ぶわっと風が吹き込んで、羽の届く手前で中和される。洞窟の中に飛び込んだリシュアの風を相殺したジルが黒い翼を広げた。洞窟内に小さな光が急速に増えていく。
「精霊を呼んだの?」
「勝手に来ただけ」
黒翼と霊力の波長が好みなのか、呼ばずとも勝手に集まってくるのだとジルは肩を竦めた。ルリアージェの白い羽にも多くの光が集まってくる。今はジルに集まってくる精霊の方が多いが、精霊達の情報伝達は早い。たいした時をかけず、ルリアージェに惹かれてより多く集まるようになると知っていた。
何しろ彼女のもつ翼の霊力は、神族と遜色ない色や性質を保っているのだから。失われた物ほど惜しむのは、人族だけの特性ではない。魔族や神族、精霊にとっても同様だった。手が届かないから欲しい、失われたから探し求める。生きている以上、貪欲に手を伸ばすのは本質なのだろう。
「申し訳ございません。風を操り損ねました」
「珍しいな」
お前がそんなミスをするなんて……言いかけた言葉が喉の奥で止まった。詫びたリシュアが頭を上げると、その手が尻尾を掴んでいることに気づく。どう見ても爬虫類の尻尾だ。ということは、風竜を見つけて引っ張ってきたのか?
「リシュア。その……尻尾は」
ルリアージェの戸惑いがちの声に、艶のある黒髪を揺らしたリシュアは悪びれることなく尻尾の主を引っ張り込んだ。ずるずると爪を立てたドラゴンが、抵抗空しく狭い洞窟に詰め込まれる。
「風竜ではなく、雷竜を先に見つけたのですよ。変異種ですがぜひお見せしたいと思いまして」
かつて人族の国王だった過去がある男だけに、一般常識があると思い込んでいた。それが粉々に砕け散った瞬間だ。他の魔性達もここまでしなかったのに。
ライラは最初に穏やかな木竜を探すために森に下りた。ジルは雪竜を見せるために雪山に移動したし、パウリーネだって寒い場所にいるのを確認してから転移魔法で引っ張ってくる。どれもドラゴンの生態を考えたうえで、自然な状態を保とうとしていたが……リシュアの行動は雷竜を強引に物理的な方法で誘拐してきた。
怯える雷竜が「くひゃぁ……」と情けない声を上げる。洞窟に響いた嘆きに、ルリアージェは頭を抱えた。
「可哀想じゃないか。離してやれ」
「離したら逃げてしまうではありませんか」
一理あるが……どう説明したら理解させられるのだろう。苦笑したジル達は顔を見合わせ、リシュアはきょとんと立ち尽くすばかり。それでも尻尾を掴まれた雷竜は逃げることが出来ず、必死で懇願する悲鳴を上げ続けた。
0
あなたにおすすめの小説
最強の滅竜士(ドラゴンバスター)と呼ばれた俺、チビドラゴンを拾って生活が一変する
八神 凪
ファンタジー
滅竜士(ドラゴンバスター)の通り名を持つ冒険者ラッヘ、二十八歳。
彼の住んでいた町はその昔ドラゴンの攻撃により焦土と化し、両親や友人、知り合いを多く失った。
それから逃げ去ったドラゴンを倒すため、復讐の日々が始まる。
死を何度も覚えるような修行の末、ドラゴンをたった一人で倒せるほど鍛えることができた。
そして十年の月日が流れ、約三十頭のドラゴンを討滅した彼は『滅竜士(ドラゴンバスター)』として有名になっていた。
だが、とある日に受けたドラゴン討伐から、彼の生活は変わっていく。
ドラゴンに関する秘密と共に――
【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる