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186.お母さんを傷つけないで
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お母さんの背中は、お父さんより少し狭い。でも心地良さは同じだった。すべすべする青い鱗が、空の色を写して輝く。すごく綺麗。トム達の籠をお母さんの背中に縛り付けてもらった。これで落ちちゃう心配はない。首が苦しくないか不安だったけど、お母さんは平気と笑ってくれた。
少し飛んだ先で、緑の木々が途絶える。まるで大きな爪で引っ掻いたみたいに、山の一部が崩れていた。木は抜けて根っこが出て、苦しそう。それに土が変な臭いを出してる。
「セティ、怖いね」
「ああ。人間はいつも他の種族のことを考えずに利益を追う」
『金銀は取り合うから価値が上がるのに、人間は増やそうとするんだよ』
呆れたと呟くセティの声に、お母さんが口を挟んだ。意味がわからなくて、少し考える。量がちょっとの果物を誰かが独り占めにする話? たくさんあればたくさん食べられるのに。
「イシスには難しかったか」
くすくす笑うセティをぽかっと叩く。僕、ちゃんと考えてるもん。
「ごめんごめん。キラキラする金が5つあったら、どうする?」
「5つ?」
セティ、お父さん、お母さん、お兄さんが3人とボリス。足りない。セティ、お父さん、お母さん、ボリス……トムとガイアはどうしよう。シェリアとゲリュオンもいるのに。
「もっとないと分けられない」
「うん。人間はそう考えたんだ。だから山に埋まってる金を奪いにくる。その度に山を壊し、あの山で暮らす動物を殺して木を倒すんだ。それでも欲しいか?」
「僕、いらない」
酷いことして、誰かを泣かせてまで欲しくない。セティがいれば、金がなくても平気だよ。キラキラして綺麗だけど、見るだけでいいもん。
「イシスみたいな人間は少ない。誰かを傷つけてでも増やしたい人が多いんだ。だから争いが起きるし、こうして山を壊す」
「すごく悪いことだね」
「ああ。人間の欲は計り知れない。いつか世界そのものを壊すのは、欲深い人間なんだろうな」
ぐぎゃぁあああ! 悲鳴みたいな声が聞こえて、お母さんが向きを変える。一番身軽なフェリクスお兄さんが、下へ降りて行った。地上から何か飛んできて、お兄さんがそれを焼き払っている。お母さんは左へ旋回し、お父さんは逆へ向かった。ルードルフお兄さんはまっすぐ進む。
「どうして同じ方へ行かないの?」
「固まってると攻撃されやすくなる。舌を噛むから黙ってろ」
慌てて口を押さえるが、目の前で籠が滑るのが見えた。あの中にはガイアとトムがいるの! 僕はトムのお母さんだから!! 絶対に見捨てたりしない。結んだ紐を引っ張ろうと手を伸ばした僕は、セティの腕から転がり落ちた。
その時、お母さんに向かって鋭い物が飛んでいく。翼の先に当たって、お母さんが悲鳴を上げた。痛そうな声に、フェリクスお兄さんが慌てている。早くお母さんを助けてあげて。もう誰もお母さんを傷つけないで!
籠から顔を出したガイアが飛び降り、トムは籠の中で必死に鳴いていた。その声が遠くなって、お母さんの青い姿が小さくなる。耳がひゅーという音で聞こえなくなった。肌に触れる風が痛い。
「イシスっ!!」
叫んだセティの声が頭の中で聞こえた気がする。後ろ向きに落ちる僕の黒髪を掴んだテン姿のガイアを抱きしめ、僕は体を丸めた。ガイアがケガして痛くなりませんように。
少し飛んだ先で、緑の木々が途絶える。まるで大きな爪で引っ掻いたみたいに、山の一部が崩れていた。木は抜けて根っこが出て、苦しそう。それに土が変な臭いを出してる。
「セティ、怖いね」
「ああ。人間はいつも他の種族のことを考えずに利益を追う」
『金銀は取り合うから価値が上がるのに、人間は増やそうとするんだよ』
呆れたと呟くセティの声に、お母さんが口を挟んだ。意味がわからなくて、少し考える。量がちょっとの果物を誰かが独り占めにする話? たくさんあればたくさん食べられるのに。
「イシスには難しかったか」
くすくす笑うセティをぽかっと叩く。僕、ちゃんと考えてるもん。
「ごめんごめん。キラキラする金が5つあったら、どうする?」
「5つ?」
セティ、お父さん、お母さん、お兄さんが3人とボリス。足りない。セティ、お父さん、お母さん、ボリス……トムとガイアはどうしよう。シェリアとゲリュオンもいるのに。
「もっとないと分けられない」
「うん。人間はそう考えたんだ。だから山に埋まってる金を奪いにくる。その度に山を壊し、あの山で暮らす動物を殺して木を倒すんだ。それでも欲しいか?」
「僕、いらない」
酷いことして、誰かを泣かせてまで欲しくない。セティがいれば、金がなくても平気だよ。キラキラして綺麗だけど、見るだけでいいもん。
「イシスみたいな人間は少ない。誰かを傷つけてでも増やしたい人が多いんだ。だから争いが起きるし、こうして山を壊す」
「すごく悪いことだね」
「ああ。人間の欲は計り知れない。いつか世界そのものを壊すのは、欲深い人間なんだろうな」
ぐぎゃぁあああ! 悲鳴みたいな声が聞こえて、お母さんが向きを変える。一番身軽なフェリクスお兄さんが、下へ降りて行った。地上から何か飛んできて、お兄さんがそれを焼き払っている。お母さんは左へ旋回し、お父さんは逆へ向かった。ルードルフお兄さんはまっすぐ進む。
「どうして同じ方へ行かないの?」
「固まってると攻撃されやすくなる。舌を噛むから黙ってろ」
慌てて口を押さえるが、目の前で籠が滑るのが見えた。あの中にはガイアとトムがいるの! 僕はトムのお母さんだから!! 絶対に見捨てたりしない。結んだ紐を引っ張ろうと手を伸ばした僕は、セティの腕から転がり落ちた。
その時、お母さんに向かって鋭い物が飛んでいく。翼の先に当たって、お母さんが悲鳴を上げた。痛そうな声に、フェリクスお兄さんが慌てている。早くお母さんを助けてあげて。もう誰もお母さんを傷つけないで!
籠から顔を出したガイアが飛び降り、トムは籠の中で必死に鳴いていた。その声が遠くなって、お母さんの青い姿が小さくなる。耳がひゅーという音で聞こえなくなった。肌に触れる風が痛い。
「イシスっ!!」
叫んだセティの声が頭の中で聞こえた気がする。後ろ向きに落ちる僕の黒髪を掴んだテン姿のガイアを抱きしめ、僕は体を丸めた。ガイアがケガして痛くなりませんように。
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