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7章 療養という名の隔離
87. トカゲじゃなくてドラゴンな
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「パパぁ?」
「見ちゃいけません」
抱っこしたリリスを血の臭いから庇うように抱き締める。アスタロトの怒りはわかるが、幼子の前でこんなバラバラにしなくても……そんなルシファーの非難の眼差しへ、穏やかさを取り戻した側近は一礼して剣を収めた。
「ヤン、よく守りました。空の警備はもう少し手厚くしましょう」
フェンリルを労うアスタロトの声に、リリスがもぞもぞ動く。どうしても顔を出したいようで、うまく力を入れられない腕を押しのけて、ぴょこんと飛び出した。頑張った彼女の頬は赤く染まり、興味深そうに瞳を輝かせて周囲を見回す。
見せたくなかった虐殺現場に、リリスは興奮した。
「すごい! 燃えるトカゲ、ばらばら!」
「……バラバラ、だね」
トカゲじゃなくてドラゴンな。あと、燃えるんじゃなくて火を吐いたんだけど。
相槌を打ちながら、無邪気に喜ぶリリスに苦笑いする。魔族として育った影響なのか、リリスも強いものを尊ぶ傾向が強い。血塗れの庭を前に泣き出さないのは、さすが魔王の養い子と褒めるべきか。
「ところで陛下」
近づいたアスタロトがにっこり笑う。釣られて愛想笑いするルシファーは次の言葉に固まった。
「リリス嬢の抱っこ、許可を出した覚えはありませんよ」
左腕にしがみついてはしゃぐ娘を見つめ、ゆっくり視線をアスタロトへ向ける。同じ赤い瞳なのに、どうしてこんなに恐怖心を煽るのだろう。アスタロトの口元は笑みを浮かべているが、目は厳しい輝きを宿していた。
「えっと……緊急、だったから。そう! 緊急事態だぞ」
襲われたからついリリスを庇っただけと言い張るルシファーへ、額を押さえたアスタロトが止めを刺した。
「私が知る情報ですと、あのドラゴンと対峙する前に、リリス嬢のお強請りに負けて抱き上げましたよね」
ちゃんと知っていますと告げられ、ルシファーが後ろを振り返る。知らん顔の灰色毛玉を「裏切り者」と睨むと、アスタロトが苦笑いして否定した。
「違いますよ。この城には監視用の目が常に作動しています。そうでなければ、私が今のあなたを置いて出掛けるはずがないでしょう?」
「……ごめん」
ぽんとヤンの背中を叩いて疑ったことを謝罪し、ルシファーは笑顔の側近に向き直る。後ろから吹いた秋の風が、さきほどかいた汗を冷やしていく。急に寒くなったような気がした。
アスタロトの言葉を要約すれば、監視しているから安心して出かけたという意味だ。魔力が使えない今のルシファーに仕掛けを探すのは難しそうだった。
「うーん。監視はちょっと……」
「自然の目ですから、気にならないでしょう。それに監視を外すなら、常に私が寄り添うことになります」
リリスとまったり昼寝する間も、食事中も、近くでべったり警護しますと提案されれば、折れるしかなかった。今の魔王城復興事業をベールだけに押し付けるのは無理がある。真面目で神経が細かい彼のこと、きっと倒れるだろう。
部下達の性格を理解しているルシファーが溜め息を吐いた。
「城が早く直ればいいんだが」
「それについてご報告がございます。完成にはまだかかりますが、居住区と謁見の間に全ドワーフを投入した結果、どうやら来月には住めるようになります」
「……どんだけブラック」
24時間建てられますか♪を実践したのか? 保育園以来の大きな建築現場に、彼らが気合入れたのは当然だが……公共事業だから予算取り放題だっただろうし。引きつったルシファーの考えを肯定するように、アスタロトが報告書を読み上げた。
「まず居住区ですが、彫刻以外は再来週に終わります。建物を大きく3つの工区に分けたそうで、謁見の間は比較的居住区に近いので、来週から取り掛かれそうです。陛下のお部屋の隣にリリス嬢のお部屋も用意させたのですが……前より大きいみたいですね」
設計図を広げるアスタロトの横に近づくと、ひょいっとリリスを奪われた。奪い返そうと手を伸ばすが、アスタロトは上手に避けてリリスを肩車する。こんな不安定な状態じゃ、迂闊に手をだせない。
普段みたいに落ちかけたリリスを魔力で支えられないし、腕もうまく動かせない今、落としたら取り返しがつかないのだ。
「うぅ……」
唸るような声で不満を表明するルシファーに、高い位置ではしゃぐリリスが手を振った。なんだか微笑ましくなる。文句は言うが、魔王城の関係者は最終的にリリスに甘い。正確にはルシファーに甘いのだが、本人は気付かぬまま設計図を覗き込んだ。
「見ちゃいけません」
抱っこしたリリスを血の臭いから庇うように抱き締める。アスタロトの怒りはわかるが、幼子の前でこんなバラバラにしなくても……そんなルシファーの非難の眼差しへ、穏やかさを取り戻した側近は一礼して剣を収めた。
「ヤン、よく守りました。空の警備はもう少し手厚くしましょう」
フェンリルを労うアスタロトの声に、リリスがもぞもぞ動く。どうしても顔を出したいようで、うまく力を入れられない腕を押しのけて、ぴょこんと飛び出した。頑張った彼女の頬は赤く染まり、興味深そうに瞳を輝かせて周囲を見回す。
見せたくなかった虐殺現場に、リリスは興奮した。
「すごい! 燃えるトカゲ、ばらばら!」
「……バラバラ、だね」
トカゲじゃなくてドラゴンな。あと、燃えるんじゃなくて火を吐いたんだけど。
相槌を打ちながら、無邪気に喜ぶリリスに苦笑いする。魔族として育った影響なのか、リリスも強いものを尊ぶ傾向が強い。血塗れの庭を前に泣き出さないのは、さすが魔王の養い子と褒めるべきか。
「ところで陛下」
近づいたアスタロトがにっこり笑う。釣られて愛想笑いするルシファーは次の言葉に固まった。
「リリス嬢の抱っこ、許可を出した覚えはありませんよ」
左腕にしがみついてはしゃぐ娘を見つめ、ゆっくり視線をアスタロトへ向ける。同じ赤い瞳なのに、どうしてこんなに恐怖心を煽るのだろう。アスタロトの口元は笑みを浮かべているが、目は厳しい輝きを宿していた。
「えっと……緊急、だったから。そう! 緊急事態だぞ」
襲われたからついリリスを庇っただけと言い張るルシファーへ、額を押さえたアスタロトが止めを刺した。
「私が知る情報ですと、あのドラゴンと対峙する前に、リリス嬢のお強請りに負けて抱き上げましたよね」
ちゃんと知っていますと告げられ、ルシファーが後ろを振り返る。知らん顔の灰色毛玉を「裏切り者」と睨むと、アスタロトが苦笑いして否定した。
「違いますよ。この城には監視用の目が常に作動しています。そうでなければ、私が今のあなたを置いて出掛けるはずがないでしょう?」
「……ごめん」
ぽんとヤンの背中を叩いて疑ったことを謝罪し、ルシファーは笑顔の側近に向き直る。後ろから吹いた秋の風が、さきほどかいた汗を冷やしていく。急に寒くなったような気がした。
アスタロトの言葉を要約すれば、監視しているから安心して出かけたという意味だ。魔力が使えない今のルシファーに仕掛けを探すのは難しそうだった。
「うーん。監視はちょっと……」
「自然の目ですから、気にならないでしょう。それに監視を外すなら、常に私が寄り添うことになります」
リリスとまったり昼寝する間も、食事中も、近くでべったり警護しますと提案されれば、折れるしかなかった。今の魔王城復興事業をベールだけに押し付けるのは無理がある。真面目で神経が細かい彼のこと、きっと倒れるだろう。
部下達の性格を理解しているルシファーが溜め息を吐いた。
「城が早く直ればいいんだが」
「それについてご報告がございます。完成にはまだかかりますが、居住区と謁見の間に全ドワーフを投入した結果、どうやら来月には住めるようになります」
「……どんだけブラック」
24時間建てられますか♪を実践したのか? 保育園以来の大きな建築現場に、彼らが気合入れたのは当然だが……公共事業だから予算取り放題だっただろうし。引きつったルシファーの考えを肯定するように、アスタロトが報告書を読み上げた。
「まず居住区ですが、彫刻以外は再来週に終わります。建物を大きく3つの工区に分けたそうで、謁見の間は比較的居住区に近いので、来週から取り掛かれそうです。陛下のお部屋の隣にリリス嬢のお部屋も用意させたのですが……前より大きいみたいですね」
設計図を広げるアスタロトの横に近づくと、ひょいっとリリスを奪われた。奪い返そうと手を伸ばすが、アスタロトは上手に避けてリリスを肩車する。こんな不安定な状態じゃ、迂闊に手をだせない。
普段みたいに落ちかけたリリスを魔力で支えられないし、腕もうまく動かせない今、落としたら取り返しがつかないのだ。
「うぅ……」
唸るような声で不満を表明するルシファーに、高い位置ではしゃぐリリスが手を振った。なんだか微笑ましくなる。文句は言うが、魔王城の関係者は最終的にリリスに甘い。正確にはルシファーに甘いのだが、本人は気付かぬまま設計図を覗き込んだ。
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