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8章 魔王陛下の嫁取り騒動勃発
99. 有象無象を捨てて来い
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「うぁああ……ぁああ、パパぁ……」
「パパはここにいるぞ、もう怖くない。おいでリリス」
駆け寄って抱き締めると、首に手を回して抱きついたリリスは言葉にならない声を上げて泣き続ける。状況が理解できないが、愛娘が不安がっているのは伝わった。だから強く抱き締めて、膝を突いた姿勢から動かずに落ち着くのを待つ。
今朝結んだリボンは見当たらず、解けた黒髪を涙で頬に貼り付けて、全身で怖かったと泣き叫ぶ姿は痛々しい。乱れた髪を指で梳きながら、何度も頬や額にキスをした。
「いいこだ。リリス」
「う…っ、ぐす……ん、ぅ……」
しゃくりあげながらも、リリスは首に回した手を離そうとしない。やや落ち着いてきた彼女を抱き上げて立ち上がると、アスタロトは苦々しい表情を浮かべていた。その隣でルキフェルと手を繋いだベールも、眉をひそめて不快感を示す。
むっとした顔のルキフェルは淡々と事実を説明していく。その声がようやっとルシファーの耳にも届いた。ターゲットである魔王を見失った女性達は、門番であるヤン達に入城を拒まれたのだろう。城門より外にある保育園にいる愛娘を先に手懐けようと考えた。
押しかけた女性達から守ったミュルミュールの努力も、援護したルキフェルの対策も、中庭からよく見える。玄関を完全に塞ぐ結界と木の根、そしてまだ騒ぐ女達の声。
「ベール、アスタロト、ルキフェル」
「「「はい」」」
「まだ騒いでいる有象無象を、魔の森の奥へ捨てて来い」
すでにこの場を離れた女は放置してよい。そう温情を滲ませたルシファーは、冷たい声で命令を下す。この状況になっても騒いでる彼女達に、王妃たる資格はない。切り捨てた魔王の命令に、全員が無言で頭を下げた。
王妃とは、国母である。国中の魔族にとって母性の象徴であり、慈しむ優しさと護る強さや穏やかさを必要とされる存在だ。ただ魔王の褥に侍りたい女は不要だった。
魔の森の奥――ルシファーが指示した場所は、サタナキアの娘が閉じ込められる館より過酷な環境だ。館は人が住める状態で、周囲に危険もない。しかし森の奥には、他者の介入を拒む魔物や危険な生き物が生息していた。大した実力もない魔族が放り出されれば、命の保証はなかった。
それでも命令の撤回はしない。
銀の瞳は怒りに煌いていた。主治医メフィストが封じたはずの魔力が、じわじわと溢れ出している。もし大公の誰かが反論しようものなら、ルシファー自身が魔力を揮うだろう。それによって翼を数枚失ったとしても、後悔しないと断言できた。
「パパ……」
小さく呼んだリリスを覗こうとするが、強く抱きついた彼女の顔は見えない。ほどけてしまったリボンは行方不明で、梳いた黒髪が顔を隠していた。首に絡んだ腕の力が少し抜けたことで、どうやら泣き疲れて眠ったらしいと判断する。
「通達はいかがしましょうか」
こういった処罰は、各種族の長へ通達がなされる。サタナキアの娘の事件も、やはり諸侯へ通達があった。今回の事件は加害者の種族が多い。関係者となる魔族の数は膨大だった。
「不要だ」
切り捨てたルシファーは左腕に抱いたリリスの黒髪に頬ずりして、顔を上げた。即位直後の魔王を思わせる、刃のような鋭い眼差しに、アスタロトが最初に膝をつく。続いてベールとルキフェルも同様に臣下の礼を取った。
「今回の件でよくわかった。あのような雌を送り込まれるほど、オレは甘く見られたわけか」
「陛下、それは…っ」
「浅ましい生き物を与えて地位を得られると、それほど舐められたなら……相応の対処が必要であろう?」
女性、女魔族という表現を使うのも失礼なほど、浅ましい雌でしかない魔物を献上された。これは魔王の権威が蔑ろにされるのとイコールだ。言い切ったルシファーに、何も反論の言葉が浮かばないベールが唇を噛んだ。
王妃の間はかつての魔王城にもあった。ただ作られた時期が6万年以上前だったこともあり、ほとんどの貴族は存在すら知らない。今回の魔王城再建で、以前と同じように王妃の間を設計したのは……多少の政治的な思惑も絡んでいた。
ベール大公が憂えたのは、魔王単独で支える治世の不安定さだ。今回のようにルシファーの力が揺らいだ場合、相応の実力と能力を持つ王妃の存在が求められる。魔王不在の穴を埋めるための妻だった。
しかし貴族達の思惑は違っただろう。魔王の妻を献上すれば、己の地位が確定される。今後、王の子を孕めば、次の魔王位は孫が継承できると欲を生んだ。リリスを可愛がる姿に幼女を選んで差し出し、無駄だと知ると未婚女性を一族からかき集めて送り込む。誰か一人でもうまく目に留まれば……と。
「パパはここにいるぞ、もう怖くない。おいでリリス」
駆け寄って抱き締めると、首に手を回して抱きついたリリスは言葉にならない声を上げて泣き続ける。状況が理解できないが、愛娘が不安がっているのは伝わった。だから強く抱き締めて、膝を突いた姿勢から動かずに落ち着くのを待つ。
今朝結んだリボンは見当たらず、解けた黒髪を涙で頬に貼り付けて、全身で怖かったと泣き叫ぶ姿は痛々しい。乱れた髪を指で梳きながら、何度も頬や額にキスをした。
「いいこだ。リリス」
「う…っ、ぐす……ん、ぅ……」
しゃくりあげながらも、リリスは首に回した手を離そうとしない。やや落ち着いてきた彼女を抱き上げて立ち上がると、アスタロトは苦々しい表情を浮かべていた。その隣でルキフェルと手を繋いだベールも、眉をひそめて不快感を示す。
むっとした顔のルキフェルは淡々と事実を説明していく。その声がようやっとルシファーの耳にも届いた。ターゲットである魔王を見失った女性達は、門番であるヤン達に入城を拒まれたのだろう。城門より外にある保育園にいる愛娘を先に手懐けようと考えた。
押しかけた女性達から守ったミュルミュールの努力も、援護したルキフェルの対策も、中庭からよく見える。玄関を完全に塞ぐ結界と木の根、そしてまだ騒ぐ女達の声。
「ベール、アスタロト、ルキフェル」
「「「はい」」」
「まだ騒いでいる有象無象を、魔の森の奥へ捨てて来い」
すでにこの場を離れた女は放置してよい。そう温情を滲ませたルシファーは、冷たい声で命令を下す。この状況になっても騒いでる彼女達に、王妃たる資格はない。切り捨てた魔王の命令に、全員が無言で頭を下げた。
王妃とは、国母である。国中の魔族にとって母性の象徴であり、慈しむ優しさと護る強さや穏やかさを必要とされる存在だ。ただ魔王の褥に侍りたい女は不要だった。
魔の森の奥――ルシファーが指示した場所は、サタナキアの娘が閉じ込められる館より過酷な環境だ。館は人が住める状態で、周囲に危険もない。しかし森の奥には、他者の介入を拒む魔物や危険な生き物が生息していた。大した実力もない魔族が放り出されれば、命の保証はなかった。
それでも命令の撤回はしない。
銀の瞳は怒りに煌いていた。主治医メフィストが封じたはずの魔力が、じわじわと溢れ出している。もし大公の誰かが反論しようものなら、ルシファー自身が魔力を揮うだろう。それによって翼を数枚失ったとしても、後悔しないと断言できた。
「パパ……」
小さく呼んだリリスを覗こうとするが、強く抱きついた彼女の顔は見えない。ほどけてしまったリボンは行方不明で、梳いた黒髪が顔を隠していた。首に絡んだ腕の力が少し抜けたことで、どうやら泣き疲れて眠ったらしいと判断する。
「通達はいかがしましょうか」
こういった処罰は、各種族の長へ通達がなされる。サタナキアの娘の事件も、やはり諸侯へ通達があった。今回の事件は加害者の種族が多い。関係者となる魔族の数は膨大だった。
「不要だ」
切り捨てたルシファーは左腕に抱いたリリスの黒髪に頬ずりして、顔を上げた。即位直後の魔王を思わせる、刃のような鋭い眼差しに、アスタロトが最初に膝をつく。続いてベールとルキフェルも同様に臣下の礼を取った。
「今回の件でよくわかった。あのような雌を送り込まれるほど、オレは甘く見られたわけか」
「陛下、それは…っ」
「浅ましい生き物を与えて地位を得られると、それほど舐められたなら……相応の対処が必要であろう?」
女性、女魔族という表現を使うのも失礼なほど、浅ましい雌でしかない魔物を献上された。これは魔王の権威が蔑ろにされるのとイコールだ。言い切ったルシファーに、何も反論の言葉が浮かばないベールが唇を噛んだ。
王妃の間はかつての魔王城にもあった。ただ作られた時期が6万年以上前だったこともあり、ほとんどの貴族は存在すら知らない。今回の魔王城再建で、以前と同じように王妃の間を設計したのは……多少の政治的な思惑も絡んでいた。
ベール大公が憂えたのは、魔王単独で支える治世の不安定さだ。今回のようにルシファーの力が揺らいだ場合、相応の実力と能力を持つ王妃の存在が求められる。魔王不在の穴を埋めるための妻だった。
しかし貴族達の思惑は違っただろう。魔王の妻を献上すれば、己の地位が確定される。今後、王の子を孕めば、次の魔王位は孫が継承できると欲を生んだ。リリスを可愛がる姿に幼女を選んで差し出し、無駄だと知ると未婚女性を一族からかき集めて送り込む。誰か一人でもうまく目に留まれば……と。
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