373 / 1,397
27章 全部一からやり直し?
370. 道はあるか?
しおりを挟む
「我が領内に作られた研究室ですが、白衣の研究者は燃やされた証拠品の復元に使いました。彼らは神龍族でしたが、血に淀みが確認されています」
淀みと呼ばれる現象は、純血を重んじる一部の種族にみられた。血縁が近い者同士の子供の中に、遺伝情報の狂った者が生まれる。その子供自体は大した影響を受けなくても、数代同じ繁殖行為を続けると変異種を生み出す原因となった。
変異種が生まれることは魔族にとって忌むことではない。新しい特異種は進化のひとつの過程であるという考え方もあった。しかし純血を重んじる種族にとって、自分達と違う外見なり内面をもつ子供は排除対象となる。
捨てるならまだしも殺害し、生まれた事実すら抹消する事例が露見し、法によって取り締まられた経緯がある。つまり淀みが見られた研究者達は、血筋を誇る貴族家出身者である可能性が高いという意味だ。
「神龍族の血統をすべて調査しております」
これは吸血種族がもっとも得意とする分野だった。僅かな血を提供させ、研究者と同じ血の淀みをもつ家系を特定するのだ。調査すると言いながら、アスタロトの視線はモレクの上から外れなかった。
特定は終わっているのだ。彼が自らの罪を自白するための舞台なのだから。
「……我が主、魔王陛下に申し上げます。我が神龍族に、謀反を企む輩が……おり、弟であるベレトを中心とした派閥が……」
声が途切れる。モレクが覚悟を決めて顔を上げた。若かりし頃の毅然とした潔い彼の姿を、今の年老いた彼の顔に重ねたルシファーが「辛いな」と呟く。
「私が弟以下の謀反人を捕らえますゆえ、孫の……いえ、一族の存続だけはお許しいただきたく、伏してお願い申し上げます」
己に処断する権利も力もない。ただ捕らえて差し出すのみ。家も孫も、優柔不断で動けなかった己が殺すも同然だ。覚悟を示した彼の本音が一瞬だけ垣間見える「孫」という単語に、アスタロトは苦虫を噛み潰した表情で息をついた。
もっと早くモレクが動いていれば、一族だけでなくタカミヤ家も存続の道が残されていたのに。ぎりぎりまで逃げ回った結果がこれだ。
法に照らせば、孫は廃嫡されて家は断絶となる。タカミヤ家から嫁いだ女性達が生んだ、神龍族に分類される子まで処罰の対象であった。
モレクが弟ベレトを早く切り捨て、当主として一族の不正を告発していたら……ドラゴニア公爵家同様に残せたのだ。時間を戻す術があるなら、モレクは命がけでそれを願っただろう。
生きた者の時間を巻き戻すことは魔王にすら不可能だが、それでも考えてしまう――もしも、あのときと。
「……モレクが生まれた日を覚えている。そなたの父も祖父も、余が名を与えた」
名を考えたのは側近達だが、実際に与えて名付けたのは魔王自身だ。そう告げるルシファーの真意がわからなくて、モレクは恐る恐る視線を合わせた。玉座に腰掛ける魔王の表情は穏やかで、膝の上でぬいぐるみの耳を齧る赤子の黒髪を撫でる。
「るぅ!!」
リリスが手の中のぬいぐるみを放り出し、ルシファーの手を掴んで上下に揺さぶった。両手で揺する彼女は、自分自身も立ち上がる勢いで身体を揺らす。
「こうして膝に抱いたこともあるのだぞ」
興奮したリリスが落ちないよう抱き直して、ルシファーは眉尻を下げた。悲しそうな表情に、続く言葉を言わせたくなくてモレクが声をあげる。自分の愚かさで、魔王をここまで煩わせるなど……許されない罪だと思った。
「神龍族のすべてが、私のように愚かなわけではございませぬ。一族の忠義は純白の魔王陛下に捧げてまいりました。なにとぞ……我が公爵家の首をもってお許しください」
「アスタロト、道はあるか?」
「我が主、魔王陛下……尋ねるのではなくお命じください」
膝をついて衣の裾に額を当てる服従の姿勢を示したアスタロトの言葉に、ルシファーは少しだけ表情を和らげた。
淀みと呼ばれる現象は、純血を重んじる一部の種族にみられた。血縁が近い者同士の子供の中に、遺伝情報の狂った者が生まれる。その子供自体は大した影響を受けなくても、数代同じ繁殖行為を続けると変異種を生み出す原因となった。
変異種が生まれることは魔族にとって忌むことではない。新しい特異種は進化のひとつの過程であるという考え方もあった。しかし純血を重んじる種族にとって、自分達と違う外見なり内面をもつ子供は排除対象となる。
捨てるならまだしも殺害し、生まれた事実すら抹消する事例が露見し、法によって取り締まられた経緯がある。つまり淀みが見られた研究者達は、血筋を誇る貴族家出身者である可能性が高いという意味だ。
「神龍族の血統をすべて調査しております」
これは吸血種族がもっとも得意とする分野だった。僅かな血を提供させ、研究者と同じ血の淀みをもつ家系を特定するのだ。調査すると言いながら、アスタロトの視線はモレクの上から外れなかった。
特定は終わっているのだ。彼が自らの罪を自白するための舞台なのだから。
「……我が主、魔王陛下に申し上げます。我が神龍族に、謀反を企む輩が……おり、弟であるベレトを中心とした派閥が……」
声が途切れる。モレクが覚悟を決めて顔を上げた。若かりし頃の毅然とした潔い彼の姿を、今の年老いた彼の顔に重ねたルシファーが「辛いな」と呟く。
「私が弟以下の謀反人を捕らえますゆえ、孫の……いえ、一族の存続だけはお許しいただきたく、伏してお願い申し上げます」
己に処断する権利も力もない。ただ捕らえて差し出すのみ。家も孫も、優柔不断で動けなかった己が殺すも同然だ。覚悟を示した彼の本音が一瞬だけ垣間見える「孫」という単語に、アスタロトは苦虫を噛み潰した表情で息をついた。
もっと早くモレクが動いていれば、一族だけでなくタカミヤ家も存続の道が残されていたのに。ぎりぎりまで逃げ回った結果がこれだ。
法に照らせば、孫は廃嫡されて家は断絶となる。タカミヤ家から嫁いだ女性達が生んだ、神龍族に分類される子まで処罰の対象であった。
モレクが弟ベレトを早く切り捨て、当主として一族の不正を告発していたら……ドラゴニア公爵家同様に残せたのだ。時間を戻す術があるなら、モレクは命がけでそれを願っただろう。
生きた者の時間を巻き戻すことは魔王にすら不可能だが、それでも考えてしまう――もしも、あのときと。
「……モレクが生まれた日を覚えている。そなたの父も祖父も、余が名を与えた」
名を考えたのは側近達だが、実際に与えて名付けたのは魔王自身だ。そう告げるルシファーの真意がわからなくて、モレクは恐る恐る視線を合わせた。玉座に腰掛ける魔王の表情は穏やかで、膝の上でぬいぐるみの耳を齧る赤子の黒髪を撫でる。
「るぅ!!」
リリスが手の中のぬいぐるみを放り出し、ルシファーの手を掴んで上下に揺さぶった。両手で揺する彼女は、自分自身も立ち上がる勢いで身体を揺らす。
「こうして膝に抱いたこともあるのだぞ」
興奮したリリスが落ちないよう抱き直して、ルシファーは眉尻を下げた。悲しそうな表情に、続く言葉を言わせたくなくてモレクが声をあげる。自分の愚かさで、魔王をここまで煩わせるなど……許されない罪だと思った。
「神龍族のすべてが、私のように愚かなわけではございませぬ。一族の忠義は純白の魔王陛下に捧げてまいりました。なにとぞ……我が公爵家の首をもってお許しください」
「アスタロト、道はあるか?」
「我が主、魔王陛下……尋ねるのではなくお命じください」
膝をついて衣の裾に額を当てる服従の姿勢を示したアスタロトの言葉に、ルシファーは少しだけ表情を和らげた。
55
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる