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31章 異世界召喚は違法行為?
411. 勇者の憂鬱(ゆううつ)
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「また勇者様が殺されたらしい」
「本当か? 魔王ってのは残虐だな」
震えながら人々が見上げる先には、魔の森が迫っていた。元々は普通の動物がすむ森があったのだ。まるで魔の森から人々を守るように、魔の森との間に普通の森があった。いつの間にか魔の森に取り込まれ、気づけば鼻先まで魔の森が広がっている。
魔の森は魔物の巣で、あっという間に人々の村や畑は魔物の餌となった。国民たちの不安をさらに煽って嗾けるのが、王侯貴族だ。生活苦の不満が自分達に向かぬよう、仮想敵国として魔族や魔王を憎悪の対象とした。誘導される国民達は、愚かにも彼らの言葉に踊る。
ゾンビが大量発生して都が滅びたのも、魔物が自分達を襲うのも、魔の森が広がるのも――すべて魔王のせいだと信じていた。
「紋章、少しは濃くなった?」
「変わらない」
ルキフェルが1日に1度は確認にくる。大公という最上位の貴族称号に相応しい実力の持ち主は、水色の髪と瞳を持つ少年だった。整った顔の少年は少し長い髪を後ろで一つに結わえている。
左手の甲に現れた赤い痣は、本来『勇者の紋章』と呼ばれる魔法陣のような模様が浮かぶらしい。ルキフェルが用意した本を読んで知ったアベルは、その美しい模様が自分の手に刻まれる瞬間を楽しみにしていた。しかし模様は濃くなる様子がない。
がっかりした様子のアベルに対し、ルキフェルは手を掴んでよく確認すると口元を緩めた。
「なるほどね」
何か納得した様子で手を離した。首をかしげるが、質問していい立場なのかわからない。黙ってみているアベルへ、ルキフェルは淡々とした話し方で見解を述べた。
「これは人工的に作られた模様で、この世界の勇者の紋章じゃない。似たような形だけど、召喚者を示す模様の可能性があるね。他に一緒に召喚された子がいたでしょ」
見ていたように語るルキフェルに驚きながら、アベルはこくんと頷いた。
「確かにオレ以外に1人、女の子がいた。まだ幼い子で……中学生くらいか」
「中学生が何を指すのか知らないけど、アベルより子供だったの?」
「あ、ああ。ルキフェルくらいだ」
「ふーん……聖女に祭り上げる気かも」
くすくす笑い出した少年を、なぜか恐ろしいと思った。まるで幽霊を前にしたような恐怖が肌を粟立たせる。怖いのに目を逸らせず、口角を歪めて笑うルキフェルを凝視していた。
「ルキフェル、このあと会議があるので急ぎますよ」
扉から入ってこなかったベールが声をかける。振り返ったルキフェルの表情は、普段通りの無邪気な子供のものだ。背筋が凍るような恐怖をもたらしたとは思えない、楽しそうな顔で駆け寄って手を伸ばした。
ベールが少し屈んでルキフェルの髪に接吻け、手を繋いだ。
「また明日ね」
そう告げて部屋を出ていくルキフェルを見送り、アベルは床の柔らかな絨毯の上にへたりこむ。なんだか疲れてしまい、そのまま横倒しに寝転がる。窓の外は天気が良く、綺麗に手入れされた薔薇が揺れていた。
召喚された直後の扱いに比べたら天国なのに、やはり魔族と呼ばれる人々に恐怖を覚えてしまう。危害を加えられたわけじゃなく、差別や迫害があるわけじゃないのに。
耳が尖ったり、ゴツい石造りの身体だったり、牙や角が生えている者もたくさん歩いていた。すれ違うと挨拶してくれる人懐こい子犬みたいな種族もいる。それでも彼らの一噛み、爪の一閃で自分は殺されてしまうと思うと怖かった。
今はルキフェルという子供の役に立っているから殺されないけれど、いつか役目が終わったら……? 未来への不安を抱えるように、自分を抱いて丸くなった。
「本当か? 魔王ってのは残虐だな」
震えながら人々が見上げる先には、魔の森が迫っていた。元々は普通の動物がすむ森があったのだ。まるで魔の森から人々を守るように、魔の森との間に普通の森があった。いつの間にか魔の森に取り込まれ、気づけば鼻先まで魔の森が広がっている。
魔の森は魔物の巣で、あっという間に人々の村や畑は魔物の餌となった。国民たちの不安をさらに煽って嗾けるのが、王侯貴族だ。生活苦の不満が自分達に向かぬよう、仮想敵国として魔族や魔王を憎悪の対象とした。誘導される国民達は、愚かにも彼らの言葉に踊る。
ゾンビが大量発生して都が滅びたのも、魔物が自分達を襲うのも、魔の森が広がるのも――すべて魔王のせいだと信じていた。
「紋章、少しは濃くなった?」
「変わらない」
ルキフェルが1日に1度は確認にくる。大公という最上位の貴族称号に相応しい実力の持ち主は、水色の髪と瞳を持つ少年だった。整った顔の少年は少し長い髪を後ろで一つに結わえている。
左手の甲に現れた赤い痣は、本来『勇者の紋章』と呼ばれる魔法陣のような模様が浮かぶらしい。ルキフェルが用意した本を読んで知ったアベルは、その美しい模様が自分の手に刻まれる瞬間を楽しみにしていた。しかし模様は濃くなる様子がない。
がっかりした様子のアベルに対し、ルキフェルは手を掴んでよく確認すると口元を緩めた。
「なるほどね」
何か納得した様子で手を離した。首をかしげるが、質問していい立場なのかわからない。黙ってみているアベルへ、ルキフェルは淡々とした話し方で見解を述べた。
「これは人工的に作られた模様で、この世界の勇者の紋章じゃない。似たような形だけど、召喚者を示す模様の可能性があるね。他に一緒に召喚された子がいたでしょ」
見ていたように語るルキフェルに驚きながら、アベルはこくんと頷いた。
「確かにオレ以外に1人、女の子がいた。まだ幼い子で……中学生くらいか」
「中学生が何を指すのか知らないけど、アベルより子供だったの?」
「あ、ああ。ルキフェルくらいだ」
「ふーん……聖女に祭り上げる気かも」
くすくす笑い出した少年を、なぜか恐ろしいと思った。まるで幽霊を前にしたような恐怖が肌を粟立たせる。怖いのに目を逸らせず、口角を歪めて笑うルキフェルを凝視していた。
「ルキフェル、このあと会議があるので急ぎますよ」
扉から入ってこなかったベールが声をかける。振り返ったルキフェルの表情は、普段通りの無邪気な子供のものだ。背筋が凍るような恐怖をもたらしたとは思えない、楽しそうな顔で駆け寄って手を伸ばした。
ベールが少し屈んでルキフェルの髪に接吻け、手を繋いだ。
「また明日ね」
そう告げて部屋を出ていくルキフェルを見送り、アベルは床の柔らかな絨毯の上にへたりこむ。なんだか疲れてしまい、そのまま横倒しに寝転がる。窓の外は天気が良く、綺麗に手入れされた薔薇が揺れていた。
召喚された直後の扱いに比べたら天国なのに、やはり魔族と呼ばれる人々に恐怖を覚えてしまう。危害を加えられたわけじゃなく、差別や迫害があるわけじゃないのに。
耳が尖ったり、ゴツい石造りの身体だったり、牙や角が生えている者もたくさん歩いていた。すれ違うと挨拶してくれる人懐こい子犬みたいな種族もいる。それでも彼らの一噛み、爪の一閃で自分は殺されてしまうと思うと怖かった。
今はルキフェルという子供の役に立っているから殺されないけれど、いつか役目が終わったら……? 未来への不安を抱えるように、自分を抱いて丸くなった。
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