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39章 それも魔王の仕事なのか?
524. 無慈悲な禁酒令
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先日の亀による城門前の緊急招集に公式名称がついた。
『正体不明の飛行物体による城門襲撃事件』という一般的なものだが、魔王史に記載された名称の横に『すっぽん鍋パーティー事件』と俗称がついている。これは役所としての見解と民の目線から見た騒動のあらましが食い違うからだが、毎回のことなので両方記載するようにした。考えを放棄したともいう。
緊急招集のおかげで、貴族兼軍の上層部が集っていたこともあり、翌朝の緊急会議で鱗の人々の正式名称が決まった。ルシファーがつけた仮称をそのまま使い『有鱗人』が採用される。種族が確定すると領土がもらえるようになるため、魔族にとって名付けは重要な儀式だった。
参加した貴族や軍上層部の半数が二日酔いで、提議された内容を検討する余力がない。ただ頷くだけの人形だったことは、議事録に記載されない裏の事情であった。
広げた地図を前に、大公と魔王があれこれと意見交換を行う。
「この辺りはどうだ?」
「鱗に水を浴びる必要があれば、川か湖の近くが良いのではありませんか」
「外縁は人族に襲われるため、やめましょう」
この世界に来て早々に、鱗があるという外見の差別で人族に襲われるのは可哀そうだ。彼らの前の世界で鱗無しが普通だったなら、外見上特徴が顕著な種族の隣がいいかも知れない。様々な課題を出し合いながら、彼らに与える領地を探した。
「基本的に人族と同じなら、海の近くはどう?」
ルキフェルの意見に、全員が脳裏に思い浮かべたのは「ガギエルは泳げるのか?」という疑問だった。通訳がいないと話が出来ないので、後で聞くべき項目としてアスタロトがメモしていく。
鱗があるから泳げるとは限らないのだ。事実、リザードマンは沼地に棲む鱗のある種族だが、大量の水で泳ぐ習性はないため泳げない個体もいるらしい。安易に決めて、後で変更するのは避けたかった。
「では確認事項は8つですね。泳げるか、人里と森のどちらを好むか、主食となる食べ物、代表者の選出、服や住処の好み、言語教育の必要性について、特殊な習性の有無、我々に希望すること」
かれらの居住地を決めたら、速やかに生活環境を整える必要がある。そのために話し合いの代表者が必要だし、今後のことを考えれば別種族とのコミュニケーション方法も考えてもらわねばならない。手配の準備を整えつつ、アスタロトが通訳のアンナを連れて彼らの元へ向かった。
ほっとして執務机の椅子に座ったルシファーの足元から、リリスが膝によじ登ってくる。大人しく人形で遊んでいた幼女は、途中で抱き上げられて向かい合わせに座った。小さな手を必死に伸ばして、背中まで抱き締めようとする。
「どうした? 寂しかったか」
放っておいて悪かったと呟けば、リリスは首を横に振った。
「ううん、パパが疲れちゃったからぎゅーっとしたの」
「ありがとう。すごく楽になったよ」
甘い雰囲気を漂わせる2人の前で、ベールとルキフェルは多少物騒な話を始めた。ガギエルはこの世界に捨てられたので引き取るとして、敵ではないと証明されている。軍としても数年の監視は必要だが、実害がなければ監視は解かれる予定だ。これは通常の新種がいた場合も適用されるルールだった。
「あの亀、どこの世界から来たんだろ」
「また落ちてくると厄介です」
「異界に穴が空いてるとしたら塞ぐ方法を編み出さないと」
「それより魔法が効かない敵への対処法が先ではありませんか」
そこまで話し合った大公2人の視線が、床に敷いたラグにへたりこむ女性へ向けられた。二日酔いがひどすぎて、治癒魔法すら展開できない重症者のベルゼビュートは、抱えた水薬を一気飲みしている。二日酔いの軽減用に販売されている水薬の効果か、嘔吐は抑えられたらしい。
「このベルゼビュートに頼るのは、かなり不安です」
「でも物理最強だし」
剣、槍、盾、弓……どの武器を取らせても彼女が一番の強者だ。魔法が使えない相手ならば、間違いなく効果があるのだが。深酒で使えない日が多すぎた。
「しばらく禁酒令を出したらどうだ?」
ルシファーの無慈悲な案に、ベールが便乗した。アスタロト顔負けのそれは怖ろしい笑顔で頷く。
「素晴らしいご提案です。ではベルゼビュートには無期限の禁酒令を出しましょう」
「え? 無期限? そこまで厳しくしなくても」
焦ったルシファーが取りなそうとするが遅く、ルキフェルも賛同したことで決定となった。
『正体不明の飛行物体による城門襲撃事件』という一般的なものだが、魔王史に記載された名称の横に『すっぽん鍋パーティー事件』と俗称がついている。これは役所としての見解と民の目線から見た騒動のあらましが食い違うからだが、毎回のことなので両方記載するようにした。考えを放棄したともいう。
緊急招集のおかげで、貴族兼軍の上層部が集っていたこともあり、翌朝の緊急会議で鱗の人々の正式名称が決まった。ルシファーがつけた仮称をそのまま使い『有鱗人』が採用される。種族が確定すると領土がもらえるようになるため、魔族にとって名付けは重要な儀式だった。
参加した貴族や軍上層部の半数が二日酔いで、提議された内容を検討する余力がない。ただ頷くだけの人形だったことは、議事録に記載されない裏の事情であった。
広げた地図を前に、大公と魔王があれこれと意見交換を行う。
「この辺りはどうだ?」
「鱗に水を浴びる必要があれば、川か湖の近くが良いのではありませんか」
「外縁は人族に襲われるため、やめましょう」
この世界に来て早々に、鱗があるという外見の差別で人族に襲われるのは可哀そうだ。彼らの前の世界で鱗無しが普通だったなら、外見上特徴が顕著な種族の隣がいいかも知れない。様々な課題を出し合いながら、彼らに与える領地を探した。
「基本的に人族と同じなら、海の近くはどう?」
ルキフェルの意見に、全員が脳裏に思い浮かべたのは「ガギエルは泳げるのか?」という疑問だった。通訳がいないと話が出来ないので、後で聞くべき項目としてアスタロトがメモしていく。
鱗があるから泳げるとは限らないのだ。事実、リザードマンは沼地に棲む鱗のある種族だが、大量の水で泳ぐ習性はないため泳げない個体もいるらしい。安易に決めて、後で変更するのは避けたかった。
「では確認事項は8つですね。泳げるか、人里と森のどちらを好むか、主食となる食べ物、代表者の選出、服や住処の好み、言語教育の必要性について、特殊な習性の有無、我々に希望すること」
かれらの居住地を決めたら、速やかに生活環境を整える必要がある。そのために話し合いの代表者が必要だし、今後のことを考えれば別種族とのコミュニケーション方法も考えてもらわねばならない。手配の準備を整えつつ、アスタロトが通訳のアンナを連れて彼らの元へ向かった。
ほっとして執務机の椅子に座ったルシファーの足元から、リリスが膝によじ登ってくる。大人しく人形で遊んでいた幼女は、途中で抱き上げられて向かい合わせに座った。小さな手を必死に伸ばして、背中まで抱き締めようとする。
「どうした? 寂しかったか」
放っておいて悪かったと呟けば、リリスは首を横に振った。
「ううん、パパが疲れちゃったからぎゅーっとしたの」
「ありがとう。すごく楽になったよ」
甘い雰囲気を漂わせる2人の前で、ベールとルキフェルは多少物騒な話を始めた。ガギエルはこの世界に捨てられたので引き取るとして、敵ではないと証明されている。軍としても数年の監視は必要だが、実害がなければ監視は解かれる予定だ。これは通常の新種がいた場合も適用されるルールだった。
「あの亀、どこの世界から来たんだろ」
「また落ちてくると厄介です」
「異界に穴が空いてるとしたら塞ぐ方法を編み出さないと」
「それより魔法が効かない敵への対処法が先ではありませんか」
そこまで話し合った大公2人の視線が、床に敷いたラグにへたりこむ女性へ向けられた。二日酔いがひどすぎて、治癒魔法すら展開できない重症者のベルゼビュートは、抱えた水薬を一気飲みしている。二日酔いの軽減用に販売されている水薬の効果か、嘔吐は抑えられたらしい。
「このベルゼビュートに頼るのは、かなり不安です」
「でも物理最強だし」
剣、槍、盾、弓……どの武器を取らせても彼女が一番の強者だ。魔法が使えない相手ならば、間違いなく効果があるのだが。深酒で使えない日が多すぎた。
「しばらく禁酒令を出したらどうだ?」
ルシファーの無慈悲な案に、ベールが便乗した。アスタロト顔負けのそれは怖ろしい笑顔で頷く。
「素晴らしいご提案です。ではベルゼビュートには無期限の禁酒令を出しましょう」
「え? 無期限? そこまで厳しくしなくても」
焦ったルシファーが取りなそうとするが遅く、ルキフェルも賛同したことで決定となった。
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