622 / 1,397
46章 消えた記憶を取り戻せ
617. 側近の懇願に負けた
しおりを挟む
目が覚めると、目元を赤くしたベルゼビュートが笑顔を作った。すぐにわかる不自然な表情だが、ルシファーは指摘しない。それぞれに理由があり、無理やり説明させても碌な結末にならないだろう。
目を伏せて視線を外したルシファーの仕草に、失敗したとベルゼビュートが臍を噛む。どうしても泣いてしまいそうで笑みを貼り付けたが、付き合いが長いため見抜かれた。失礼を承知でこのまま通すしかない。もし笑顔の仮面を外してしまったら、記憶のない魔王を責めてしまう。
「アスタロトはどうした? 状況説明を……」
「あとでいいと思いますわ。まだお疲れでしょう? それにあたくしがアスタロトを探しに行くと、陛下の護衛がいなくなりますもの」
奇妙な言い回しにルシファーが眉をひそめる。護衛が必要だと判断された理由は何だ? 魔族最強の魔力量を誇る純白の魔王に、大公クラスの彼女が護衛につくのは異常事態だった。先ほどの襲撃絡みで犯人が捕まっていないとしても、魔王を護衛するなんて愚かな行動をアスタロトが許したのか。
自分の知らない陰で事態が動くことへの恐怖が、じわりと足元から這い上がってきた。彼らはオレに知らせず、何かを行おうとしている。それを裏切りと即断するほど短い付き合いではないが、裏切るならそれでも構わなかった。弱肉強食を旨とする魔族にとって、下克上は罵られる行為ではない。
「いや、ならばオレが探しに行く」
このまま部屋に閉じこもっていてはいけない。本能的にそう感じて立ち上がる。ふらつきはなく、魔力の巡りも問題なかった。ドアへ向かうと、慌てたベルゼビュートが両手を広げて阻む。
「どうした?」
「いえ、あの……その」
突発事態に弱いのは昔から変わらない。ボロが出る側近に、出来るだけ穏やかに声を掛けた。
「お前たちが何をしても構わないが、オレの行動を妨げるのは……」
「分かっています! それでも会わせられない人がいるのよ。お願いですから、この部屋にいてください。せめてアスタロトが帰ってくるまで」
祈るように両手を合わせて懇願するベルゼビュートの姿に、諦めて椅子に腰掛けた。しかし特にすることがあるわけじゃなく、ドアの前から動かないベルゼビュートを手招きする。
「部屋から出ないと約束するから、ここに座れ」
おずおずと近づいて、正面の椅子に落ち着いた。
客間の作りは豪華だが、さほど凝ったものではない。メインのベッドが中央より壁寄りにセットされ、庭を望む窓際にテーブルと椅子が置かれる。基本的な形状はどの客間でも同じで、廊下側の壁に花瓶を置く小さな棚を置くのが通例だった。見つめる先で、花瓶に花は生けられていない。つまり客が来るわけではなく、ここに人が入る予定もなかったという意味だ。
襲撃により傷を負ったと思われる先程の状況を思い出し、ケガを心配した側近達に閉じ込められたのかと納得した。アスタロトが今頃、犯人を引き裂いているかも知れないな。粛清のためにオレの側を離れるなら、犯人は魔族の誰か。
「ベルゼ、アスタロトはいつ戻る?」
場合によっては、過激すぎる粛清をやめさせる必要がある。そう思っての問いに、ベルゼビュートは首を横に振った。
「少なくとも今夜はこの部屋でお休みくださいね。先程ご覧になりましたでしょう? 陛下の私室が吹き飛びましたの」
考えてあった答えをすらすらと口にして、彼女は部屋に備え付けのお茶セットを引き寄せた。ルシファーから目を離さず、魔力で取り寄せたカップやポットに魔法でお湯を注ぎ温める。空中からハーブを取り出し、ポットにハーブティを作り始めた。剣を振り回す姿が印象的すぎて忘れがちだが、彼女の淑女としての立ち振る舞いは女王の称号にふさわしい見事なものだ。
カップに分けて注いだお茶を差し出され、香りを楽しんでから口に含んだ。
「うん、うま……ぃ」
最後まで言い切る前に、庭へ続くガラス戸が開き、慌ただしく数人が飛び込んできた。
目を伏せて視線を外したルシファーの仕草に、失敗したとベルゼビュートが臍を噛む。どうしても泣いてしまいそうで笑みを貼り付けたが、付き合いが長いため見抜かれた。失礼を承知でこのまま通すしかない。もし笑顔の仮面を外してしまったら、記憶のない魔王を責めてしまう。
「アスタロトはどうした? 状況説明を……」
「あとでいいと思いますわ。まだお疲れでしょう? それにあたくしがアスタロトを探しに行くと、陛下の護衛がいなくなりますもの」
奇妙な言い回しにルシファーが眉をひそめる。護衛が必要だと判断された理由は何だ? 魔族最強の魔力量を誇る純白の魔王に、大公クラスの彼女が護衛につくのは異常事態だった。先ほどの襲撃絡みで犯人が捕まっていないとしても、魔王を護衛するなんて愚かな行動をアスタロトが許したのか。
自分の知らない陰で事態が動くことへの恐怖が、じわりと足元から這い上がってきた。彼らはオレに知らせず、何かを行おうとしている。それを裏切りと即断するほど短い付き合いではないが、裏切るならそれでも構わなかった。弱肉強食を旨とする魔族にとって、下克上は罵られる行為ではない。
「いや、ならばオレが探しに行く」
このまま部屋に閉じこもっていてはいけない。本能的にそう感じて立ち上がる。ふらつきはなく、魔力の巡りも問題なかった。ドアへ向かうと、慌てたベルゼビュートが両手を広げて阻む。
「どうした?」
「いえ、あの……その」
突発事態に弱いのは昔から変わらない。ボロが出る側近に、出来るだけ穏やかに声を掛けた。
「お前たちが何をしても構わないが、オレの行動を妨げるのは……」
「分かっています! それでも会わせられない人がいるのよ。お願いですから、この部屋にいてください。せめてアスタロトが帰ってくるまで」
祈るように両手を合わせて懇願するベルゼビュートの姿に、諦めて椅子に腰掛けた。しかし特にすることがあるわけじゃなく、ドアの前から動かないベルゼビュートを手招きする。
「部屋から出ないと約束するから、ここに座れ」
おずおずと近づいて、正面の椅子に落ち着いた。
客間の作りは豪華だが、さほど凝ったものではない。メインのベッドが中央より壁寄りにセットされ、庭を望む窓際にテーブルと椅子が置かれる。基本的な形状はどの客間でも同じで、廊下側の壁に花瓶を置く小さな棚を置くのが通例だった。見つめる先で、花瓶に花は生けられていない。つまり客が来るわけではなく、ここに人が入る予定もなかったという意味だ。
襲撃により傷を負ったと思われる先程の状況を思い出し、ケガを心配した側近達に閉じ込められたのかと納得した。アスタロトが今頃、犯人を引き裂いているかも知れないな。粛清のためにオレの側を離れるなら、犯人は魔族の誰か。
「ベルゼ、アスタロトはいつ戻る?」
場合によっては、過激すぎる粛清をやめさせる必要がある。そう思っての問いに、ベルゼビュートは首を横に振った。
「少なくとも今夜はこの部屋でお休みくださいね。先程ご覧になりましたでしょう? 陛下の私室が吹き飛びましたの」
考えてあった答えをすらすらと口にして、彼女は部屋に備え付けのお茶セットを引き寄せた。ルシファーから目を離さず、魔力で取り寄せたカップやポットに魔法でお湯を注ぎ温める。空中からハーブを取り出し、ポットにハーブティを作り始めた。剣を振り回す姿が印象的すぎて忘れがちだが、彼女の淑女としての立ち振る舞いは女王の称号にふさわしい見事なものだ。
カップに分けて注いだお茶を差し出され、香りを楽しんでから口に含んだ。
「うん、うま……ぃ」
最後まで言い切る前に、庭へ続くガラス戸が開き、慌ただしく数人が飛び込んできた。
61
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
【完結】魔王様、今度も過保護すぎです!
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「お生まれになりました! お嬢様です!!」
長い紆余曲折を経て結ばれた魔王ルシファーは、魔王妃リリスが産んだ愛娘に夢中になっていく。子育ては二度目、余裕だと思ったのに予想外の事件ばかり起きて!?
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
魔王夫妻のなれそめは【魔王様、溺愛しすぎです!】を頑張って読破してください(o´-ω-)o)ペコッ
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/06/04 完結
※2022/05/13 第10回ネット小説大賞、一次選考通過
※2021/12/25 小説家になろう ハイファンタジー日間 56位
※2021/12/24 エブリスタ トレンド1位
※2021/12/24 アルファポリス HOT 71位
※2021/12/24 連載開始
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる